同類encount(終)~目指せ大団円!周回遅れのおてつだい

 話を聞き終えてからひとつ頷くと、私はまじまじとマリー……フォートくんを見た。


「……それにしても姉弟とはいえ、よくお姉さんと同じように動けますね? 見た目もそうですが本来の性格はかなり違うご様子なのに」

「それは……」

「彼は姉であるマリーデルと同等の才能を持ち、ある"特異魔法"の使い手でもあるんだよ。外見の方は顔の基本パーツは似ていたから、その他は魔法アイテムで整えてある」

「才能とか、僕は全然そんなこと知らなかったけどね。いきなり家に押しかけて来たこの人に大分しごかれた」


 特異魔法とは魔法の中でも特殊で貴重なものだ。魔法の練度や血筋などに関係なく、あくまで"個人"に"偶然"宿る素質がなければ使えない。

 特別な効果を発揮するものがほとんどであり、習得も難しい。資質があったとしても一生芽吹かないなんてこともザラだとか。


 聞けばマリーデル弟の特異魔法は模倣演技エミュレート

 一定の条件を満たした上で相手の魔力や体の一部を取り込むことで、その相手の人格から成る思考や行動を限りなく本人に近づけて再現できる魔法らしい。


「よくそんな才能見つけましたね……」

「……そうか。ゲームの全クリしていないなら、コミカライズも読んでない口か?」

「コミカライズあったんですか!?」

「あるある。製作者の一人が手がけたスピンオフで、ゲームでは存在しかほのめかされていなかった主人公の双子の弟……つまり、このフォートが主人公の話。俺はそれで彼の能力を知った」

「……ちなみに販売は?」

「えーと……。夏コミで百部ほど発売されてたかな」

「ちょっと履修厳しくないですかそれ」


 思った以上に入手困難なスピンオフ!! 購入特典ですらねぇッ!! 完全にその製作者が自分の趣味で出したやつじゃん! というか仮にも販売元が製作者ならもっと販売部数増やせ!! 存在すら今知ったわ!!




 それにしても、この人は本当にガチめのファンらしいわね。そんなものすら入手して、かつ生まれ変わってからも覚えていて原作改変に活かすとは。

 私と同じように記憶の図書館保持者であるかもしれないが、もしそうでなければ執念だ。




 私は聞き終えた話をゆっくり自身の中で咀嚼し……視線をあげた。


「……なかなかキャパ厳しい話ではありますけど、丁寧な説明をありがとうございました。ところで私に声をかけてきたのは、そのイベント管理の邪魔をしないでねということでよろしいんでしょうか」

「ああ。……今のところ俺が知るゲームと最も違うところは、君の存在だからな。出来るだけイレギュラー要素は先んじて対処しておきたい」

「他に転生者っていないんですか」

「俺は貴女が初めてだ。こういった事は普通自分から言わないだろうし、確信はないのだが」

「それもそうですねぇ。ですがそれを言うなら、私も自分が転生者だなんて口に出したことありませんよ」

「それは原作が始まってから主要キャラの周りで明らかに変な動きしてる奴が居たら声をかけようとは思ってたから」

「ああ~。なるほど。でも私、そこまで変な動きしてましたっけ?」

「あなたは行動以前に存在そのものが目立つ。少なくともモブの取り巻きではないだろう」

「目立ちますか私」

「プラチナブロンド赤目が目立たないとでも?」

「あー。加えて美少女」

「自分で言っちゃったよ。事実だけど」

「わぁい、事実判定ありがとうございます。褒められちゃった」

「やっぱり表情乏しい割にノリいいね!?」

「長所です」


 もう完全に最初の緊張は取れていた。

 アラタさんちょいちょい話し方を固く調整しようとしているのがわかるんだけど、こっちのボケにはすぐ返してくれるし砕けた口調になってくれる。この人すごく話しやすい。


「……予想はしていたが、フォートを知らないようなら当然ファレリアのことも知らないか」

「あの、小声でボソッと意味深な事言うのやめてくださいません? 目の前に居るので聞こえますからね?」


 この人いいなぁ~と見ていたら、唐突に聞こえるか聞こえないかくらいの声で何やら言っていたので突っ込んでみた。今のニュアンスで呼ばれた名前は今ここに居る私を指したものではないだろう。明らかに。

 もしかしてこれもカマかけだろうか? 雑だな!


 私の問いかけにアラタさんはしばし考えた様子のあと、私を見る。


「伽藍洞のお人形。微笑の美少女」

「?」

「原作世界での貴女の異名だ」

「え、怖。なんです、それ」


 そもそも私は原作世界に登場なんてしてな……はっ!!


「またもやスピンオフか……!」

「冬コミで百五十部」

「だから少ねーのですよ!!」


 叫ぶ私の反応をじっと観察した後、アラタさんはふっと笑って首を振った。


「でもそこは大丈夫そうだから、気にしなくていい」

「いえ気になります。後でいいので、詳しく教えてくださいね」


 私は自分が原作キャラであることなどまったく自覚していなかったが、マリーデル弟のようにマイナーながら何かしらの役で登場したらしい。

 気にしなくていい、というのなら特に重要な役ではないのだろうし、説明はあとでいいけれど聞きたくないわけがないんだよな。

 私の記憶の図書館は前世の私が見聞きした情報しか収まっていないのだから。




 じっと半眼で見つめる私を前にアラタさんは「いずれ」とひとつ頷いてから本筋へと戻る。


「……その見た目でアルメラルダの近くに居たから、さっき言った通り二年間観察はしていた。声をかけようと考えた決定打は、フォートとのやり取りで原作主人公マリーデルに悪意を感じなかったから。ほぼ四六時中アルメラルダと行動しているあなたに声をかけるタイミングも、そうなかったしね」

「ふむふむ」


 ところでこの人二年も観察していた割にはアルメラルダ様から私へのいじめに関してコメントないのか? 学園に入ってからアルメラルダ様の蛮族っぷりが鳴りを潜めていたとはいえ。

 ……マリーデル弟が何か言いたそうにアラタさんを見ている感じ、件の場面はこの人見ていないっぽいな。


 私も少々ものいいたくアラタさんを見たが、彼の中ではすでに話題への区切りはついたようだ。

 ……黒髪の下から覗く真剣な瞳が、私を見据える。


「ここまで色々話したが、貴女にお願いしたいことはひとつだ。"何もしないでほしい"」

「……あなたがアルメラルダ様が不幸にならないルートを整えてくれるというのなら、お受けしない理由はありませんね」

「そう言ってくれると助かる。フォートがイベントをひとつ潰してまで貴女に干渉したのには驚いたが、おかげでひとつ懸念が消えた」

「……あんなの見たらね」




 先日のアルメラルダ様による魔法訓練の光景を思い出したのか、マリーデル弟が乾いた笑みを浮かべる。

 ……。そういえばここまで話を聞いていて、尋ねたいことが出来たんだった。




「マリーデル弟さん。少し聞きたいのですが、私を助けてくれたのもマリーデルお姉さんの性格を模倣した結果ですか?」

「フォートだよ。……基本的に姉の行動や思考パターンを真似しても、行動の意志は僕にある」


 つまり助けてくれたのは彼の意志だと。



 私は思わずふふっと笑みをこぼすと……アラタさんに申し出た。



「お望み通り、原作に関わりそうなイベントには干渉いたしません。ですがひとつ、お願いをきいて頂いても?」

「俺に出来る事なら」

「でしたら了承してください。……私がフォートくんのお手伝いをすることを」

「!?」

「それは……」

「大団円エンド、目指すにはかなりスケジューリングがタイトでしょう? もし出来ることがあればですが、手を貸しますよ」

「……どうして?」

「ハンカチのお礼でしょうか」


 このまま彼らが動いてくれるなら、私は見守るだけでいいのだろう。


 私の当初の目的である「そこそこ悪役令嬢となったアルメラルダ様が評判の悪さに行き遅れてくれたら、取り巻きの私もそれに便乗して実家でぬくぬく独身貴族できる期間が増えるぜ!」作戦も……実は先ほど必要なくなったところだ。


 原作を私などよりよほど理解している転生者が居るのだから、本当に余計なことをする必要はない。





 だけど私を気にかけてくれた優しい少年を、手伝いたくなってしまったのだ。


 どうせそこまで私に割り振られる仕事など無いだろうし、気休め程度ではあるのだけれど。





 さて。あとは……。


「あ、それとアラタさん」

「ん、何だ?」

「全部終わったら私と結婚を前提にお付き合いしていただけませんか? そういうのしばらくいいかなって思ってたんですけど、正直どタイプです。婿に来てください」

「!?」

「!?」









++++++++++









 そんなファレリア達三人のやりとりを、遠くから見ている者が居た。



「なん、なん……ッ。どういう……こと!? あの無表情がわたくし以外の者と楽しそうにしている!? 笑っている!? しかも片方は目障りなあの小娘ではないの! それに男……あの男は何者!? ファレリアあなた、なにを顔を赤くしているの!? この間は第二王子様相手に照れていたし、何。思春期が遅れてやってきたの!? ああもう、何故声が聞こえないの! 風の魔法の練度をあげておくべきでしたわ!!」




 悪役令嬢ことアルメラルダ・ミシア・エレクトリア。

 実は彼女、ファレリアが寮を出た時から後をつけていたのだ。外出に気が付いたのはまったくの偶然であるが。



 場所が場所だけに近づけばバレてしまうと、遠くから望遠鏡でファレリアの密会相手を見極めようとしていたのだが……こんな事なら近くへ行けばよかったと歯ぎしりした。手に持つ扇はとっくに真っ二つになっている。


 ファレリアが密かに会っていた相手をこれでもかと凝視し、目に焼き付ける。


「と、ともかく! 早々に交際など認めませんわよファレリア……! まったく、あれはどこの馬の骨なの……!」





 ちょっとした運命と初恋に浮かれているぽんこつ転生者の恋愛は、順調にハードモードの道を歩んでいた。








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