第6話 理解


ドーテードーテーと真横で騒がれ俺は焦る。確信犯ではあったが涙目で顔真っ赤にしながら二の腕をバシバシ叩かれていると、ちょっと言わせてしまったことに罪悪感が芽生えてくる。いや嘘だ。もっとからかってやりたい。


(なぜこいつの恥じらった顔はこれほど可愛らしいのだろう......いや、なんか変態的思考になってないか俺)


危ない危ない。でもからかったのは猫の方が先だから。俺は悪くないよね。


「......えーと、つまりは俺が魔法使いになったから、これは俺の魔法だって事か?」


「そ、そーです。......可能性の一つとして、ですが」


「なるほどな。......まるで漫画とか小説、映画みてえな話だな。けど、その可能性はある、か?」


だとしたらこの体に纏わりついている青い光は、魔力的なあれか?と考えていたら、ちょうど猫も同じことを考えていたようで。


「......これ、もしかしえ魔力なのかもしれませんね。知ってますか、月には魔力を増幅させる力があるらしいです」


「あー、だから月夜に。てか俺の魔法は猫を美少女に変えるって魔法なのか?」


「え、あ......で、ですかねえ?動物を人に変える魔法」


動物を人に。無茶苦茶な魔法だな。イメージ的には魔法といえば火を放ったり、水を凍らせたり、他には人の心を読んだり記憶を消したりといった事が思い浮かぶけど。


動物の声を聞くならまだわかるが、人の姿に変えるはなんというか......やばすぎるな。生命体の構造を変えているってことだろ。


猫が人の姿になったことを俺の魔法だと仮定し、思考を巡らせる。その隣では、頬を抑えブツブツと何かいってる猫。多分彼女も俺のこの正体不明の魔法について考察を巡らせているのだろう。


でもたまに聞こえる、「美少女......えへへ......嬉しい」という言葉に戸惑う。まるで俺が猫にたいして美少女だと言ったことが嬉しいみたいに聞こえるだろ。こんなドーテーオッサンに言われたら引はすれど喜ばしいなんて事はない。


俺は身の程をわかっているから。これまでずっとそうして罠にかかり痛い思いをしてきたんだ。その手の匂いにたいしての嗅覚はするどい。


勘違いせず、自分の価値を理解し生きる。


そうすることで無駄な血を流さず、平穏に暮らすことができてきたんだ。一抹の寂しさはあれどその痛みに比べればたいしたものじゃない。


(......はず、だ。多分)


「あの、大丈夫?顔色が悪くみえますけど......」


「......ん、ああ。大丈夫」


「?」


変に気を遣わせたくない。


「ところで猫はあの日、猫にどれくらいで戻ったんだ?」


「あー、あの日は朝方、大体6時くらいまでこの姿でしたね」


「......結構な時間人の姿だったんだな」


「はい。割と」


「その間、服はどうしたんだ?まさか裸でいたのか?」


「......え、い、いえ。その......スミマセン、事後報告になりますが、あの日もシャツ借りてました。ちょっと言うタイミングがなくて......申し訳ないです」


「ああ、いや。むしろ良かったよ。寒い中耐えてたのかと思った......朝方は肌寒いから」


「あ、ありがとーございます」


だから着た覚えもない洗濯物があったのか。


てか、そうか。朝の6時ってことは猫が人になったのは0時丁度だから、6時間まるまる人の姿に変わっていたって事になる。つまり一度人になれば6時間はそのままって事か。


「これってあれかな。月の出てる夜しか人の姿ではいられないのか......?」


「んー、どうなんでしょう。わかりませんね」


それはそうか。でも何かしらの要因というかきっかけみたいなものがあるはず。


「そういえば、人になったときに何かしらの予兆はなかったのか?」


「予兆、ですか......んー。あ」


ハッと顔をあげる猫。目をまるまると見開き、キョトンとした表情が可愛い。


「なんだか暖かい風が来た気がします!」


「!、暖かい......風」


それは俺も感じた。あの時、ふわりと生ぬるい風が来たのに気が付き横をみると猫は人に変わっていた。あれはなんの風だ......?


「俺も感じた。その風は......」


「なるほど......それじゃあ、あの風に何かあるんですかね」


しかし風、暖かい風......もしかして。と、思い重なる猫の手を掴んだ。「ひゃっ」と突然触られたことに驚く猫。てかずっと人の手に手を重ねたままにしといてその反応はオカシイだろ。


手のひらをこちらに向けさせ、俺もそれに合わせるよう......しかし、ぎりぎり触れない距離で手を向かい合わせる。すると、俺の青い光が猫へと流れ込んでいるのが確認出来た。


「......あ、温かい」


猫がぽつりと呟く。なるほど、俺の魔力が猫に供給されていて微かな熱をはらんでいたって事か。風はもしかすると月の影響で俺の魔力が増幅し、発露したもの?


「なるほど、これ......魔力の暖かさだったんですね。風もそうなのかな」


「かもな」


と、その時。猫が俺の肩に手を触れた。


「?」


次に俺の手首を掴み、猫は自身のおでこに手のひらを当てさせた。


「え!?」


「ふんふん」


何がふんふんなんだ......!?焦る俺をよそに次々と肩、二の腕を触らせ猫は、うん、と頷く。


「魔力を流し込めるのはあなたからだけみたいですね。私の手が触れても魔力を吸収する事も与える事も出来ない......対してあなたは私のどこに触れても魔力を伝えられる」


「まあ、魔法使いは俺だからな」


「でも確証はなかったので。私が原因の可能性が無くなりました。これは前進ですよ」


「確かに......原因が不明な以上、ひとつひとつ可能性を確かめてかないと、か。ありがとう、さすが猫。やっぱできる猫は違うな」


「にひゃへへ」


いや、にひゃへへて。





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