第5話 はじめようか、冒険者登録1

 冒険者ギルドと書かれた建物には多数派種族以外の単独入店禁止の文字があった。


 今朝、私がセピアと一緒に冒険者ギルドに行くと言った時に飛び上がって喜んだ理由はこれだろう。冒険者にでもならないとまともに扱われないのに、一人で冒険者ギルドに入る事すら許されないなんて、この国に獣人を救う気が無いのは確かなようだ。


 この世界の種族差別主義に対する悩みと、徹夜で考えたセピアのプロデュース方法を脳内でぐちゃぐちゃにかき混ぜて血眼にぎらつかせている私を、セピアは心配そうに見ている。


「アズマ、大丈夫?」


 配信者、もとい冒険者はギルドで登録をして初めてクエストを受注したり配信を行うことが出来る。クエスト成功そのものの報酬は殆ど金にならず、人気が出なければ稼ぎはゼロに等しい職業なので出来れば私は普通の職に就きたかったけれど、仕事の宛も無いし、ヒューマンは冒険者登録すれば部屋を信用貸してもらえるみたいなので一緒に登録してしまうことにした。安易で行き当たりばったりかもしれないけど、くよくよ悩んで好機を逃すくらいならとりあえず行動するのが私の心情だ。


 大体、セピアの寝床から毎日街に通うのは無理があるし、良く知らない世界で宿代の為の日銭を稼ぐのは不可能なのだからこれしか選択肢がない。


「いらっしゃいませ、ようこそ冒険者ギルドへ」


 冒険者登録だけでなくギルチャの換金やクエスト紹介をしてくれる冒険者ギルド。クエスト掲示板や冒険者が交流するためのスペースも併設されている為、それなりに賑わっている。

 私達が入店すると一瞬だけ視線が集まるが、それは直ぐに散り散りになる。ウェアアニマルは比較的希少な種族ではあるが、いるだけで目を引くようなものでは無いみたい。そもそも、人間である私が傍にいるから気にされないだけなのだろうけど。


 中央奥にある受付では美人のお姉さんがニコニコとこちらに微笑みかけてくれている。さっきのエルフの店員さんも可愛い顔だったし、その辺のお爺さんもロマンスグレーだったし、異世界の顔面偏差値って結構高いのかもしれないな。


「えっと。二名冒険者登録したいのですが」


 私が「二名」と強調して伝えると、お姉さんはセピアの方を一瞥してから、私に視線を向けて説明を始めた。


「それではこちらの登録用紙に必要事項を記入。もし他の地区で冒険者活動を行っていた場合は移籍表も一緒に提出お願いします」


「はい、ありがとうございます」

 渡されたのは異世界らしく羊皮紙と羽ペンだ。スマホもどきがあるから科学技術を少し期待していたけど、どうやらトレサポは魔法の力で運営されているらしい。金属光沢もじっくり見たら荒かったし、そんなもんか。

「えーと、名前は・・・アズマ」

 フルネームがあるのは高貴な生まれのみらしいので、悪目立ちしないように名字だけにしておく。別にミヤコでもいいのだけど、仕事では姓を名乗る事の方が多いからこっちのほうが馴れている。あとセピアがアズマで馴染んでしまった。


 登録用紙の内容は異世界二日目の私でも書けるくらいにシンプルな内容で助かった。性別や年齢と一緒に、当たり前のように『種族』の欄があることにちょっと異世界味を感じたり、ヒューマン、エルフ、ドワーフ、その他(  )という選択肢になんだかモヤモヤした。こんな事を気にしていては異世界で生きていくのは難しいのだろうけど、転生二日で郷に入っては郷に従えを実践できるほど肝が据わっているわけじゃない。


「んしょ、んしょ」

 私の分を書き終えたところで隣を見ると、セピアはたどたどしく文字を書いていた。


「えーと、ゼロってどんな形だっけ」

 異世界の文字は私の知るものとは違ったけど、都合よく読み書きできた。特に問題なく空欄を埋めきった私に対して、セピアは書く文字をひとつひとつ思い出しながらゆっくりと欄を埋めている。


 ウェアアニマルは勉学の教育を受ける文化が無く、文字はトレサポを見て覚えたらしい。ただし書く方の勉強は殆どしていない為、日常で使う殆どの文字が『読めるけど書けない見慣れた漢字』状態になってしまうみたいだ。


「できたっ!」

 時々私に字を教えてもらいながらも、くたくたな文字で完成した書類を完成させたセピアは受け付けのお姉さんに手渡す。その後、冒険者業に関する簡単な説明を受けることとなった。

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