コミュ障Vtuber――神絵師アイドルVの娘はメタバースで神になる

しずりゆき

第1話 私はコミュ障Vtuber

 藍鳥あいとり美衣みいは、とんでもなくコミュ障だ。

 特にいじめられたわけでもないが、人付き合いが苦手で、今年で中学三年生になるというのに、小学一年生の頃から全く学校に通えていない。


 ……不登校。


 美衣は、一般的にそう呼ばれる子供の一人だった。


 人前だと緊張して、頭が真っ白になってしまう彼女には、唯一輝ける場所がある。

 それは、古の大手動画投稿サイト〈チューブ・トーカー〉の生配信だ。


「こんばんは。この世で最も可愛いのはミイ! どうも、最川さいかわミイです。今日も配信に来てくれて、ありがとうございます」


 私は、人前では決して見せないような笑顔を、パソコンのモニターに取り付けたwebカメラへと向ける。

 そのカメラが認識した表情の動きを、画面内の二次元のアバターに反映される。

 美衣は、いわゆるVtuberとして活動していた。

 

「今日は前々からリクエストのあった、イラストメイキングをやっていきます。ママとは、あんまり比べないでもらえると嬉しいな」


 私が目の前に置いたマイクに声を入れると、コメントでリスナーがすぐに反応をくれる。

 画面の表示では、一万人以上がこの生配信を見てくれているのだから、コメントが流れる速度も速い。

 それでもミイは、できる限り全てを読もうとする。


 ――東 ミイちゃんのママは特別だからね。

 ――のりしお ミイちゃんもママに負けないくらい上手いと思うけどな。

 ――わたあめ まさか、あの神絵師、最川ミアにこんなに可愛い娘がいたなんて。


 コメント欄は、すぐにママに関するコメントで埋め尽くされていく。


 ……やっぱり、ママは凄いな。


 美衣の母は神絵師としても、アイドルVtuberとしても有名な、最川ミア。

 そして、この可愛らしいアバターを描いてくれたのも、同じ最川ミア。

 美衣は、リアルでもバーチャルでも、最川ミアの娘なのである。

 ミイがここまで人気のVtuberになれたのも、全ては母の人気があってこそ。どこまでいっても、七光であるという事実は重たくのしかかってくる。


 ……でも、私は私だから。


 自分は母とは違う。それを証明するために毎日、歌のレッスンや、ダンスのレッスンなど、母以上に頑張っているのだから。

 しかし、どんなに頑張ったところで、非難的なコメントはつくものだ。


 ――ナイン 俺は認めないよ。最川ミアに娘がいるなんて。

 ――東 ナインさん、ミアさんの熱狂的なファンだったもんな。

 ――ドーナツ 熱狂的なファンが今はアンチとは悲しいよ。


 ミイを擁護しようとする声も上がったが、ミイはそれを止めた。


「いいんですよ。ママがそれだけ愛されていたってことじゃないですか。せっかくの楽しい配信なんですから、みんなで楽しみましょうよ」


 そう言うと、ミイは早速お絵描きを始めていく。

 事前に描いておいたラフを何枚か見せ、どれを描くかをリスナーに決めてもらう。

 そして、下書きを始めた。


 ――のりしお やっぱミイちゃんも上手いよ。

 ――りんごあめ 週刊連載してる漫画家さんと全然速度変わらないじゃん。


 どうにかアンチのコメントは落ち着いてくれたのか、コメント欄は再び平和を取り戻す。それを見た私は、ほっと胸を撫で下ろした。


「そんなに褒めても、出てくるのは可愛いイラストくらいですよ」


 そんな感じで、今日もいつものように配信が終わった。


「それじゃあ、今日はこの辺で。お疲れ様さまでした」


 締めの挨拶を終え、配信がしっかり切れているか確認すると、描き上がったイラストの最終チェックに入る。

 何も問題がないことを確認すると、それをSNSにアップロードする。

 すると、すぐに「いいね」がついた。

 そして「コメント」も。


 ――明日楽しみですね。


 美衣は明日の配信の告知なんてしてたかな、と首を傾げながらも、睡魔に根負けしてベッドに倒れ込んだ。

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