村長奇譚 ~夏祭りの惨劇と少女の亡霊~
水無月礼人
加賀見町Xファイル
はじめに。
この手記は、
現代の科学では解明しきれない事象が記されている為、他言は厳禁とする。
筆記人である私の名前は
前身の加賀見村出身ではあるものの、大学進学時に県庁所在地へ移り住んだ私は、卒業後もそこに留まり就職と結婚をした。都会の利便性と多様性に慣れてしまった若かりし頃の私には、刺激の足りない故郷に戻るという選択肢が無かった。
土地一坪が二千円足らずで買える、そう言えば加賀見がどれ程の田舎か解ってもらえるだろう。
そんな私に転機が訪れたのは、長年連れ添ってくれた妻の死という哀しい出来事だった。
子供二人はとうに独立して家を出ており、独りぼっちとなった私は寂しさから、急に郷愁の念に囚われるようになってしまった。
都会の競争社会から身を退き、子供の頃から自分を知っていてくれる人達の中で、穏やかな気持ちで余生を過ごしたいと考えた。幸い、両親が遺してくれた実家と土地がまだ加賀見に在った。
心が決まった私の行動は早かった。勤めていた会社を早期退職し、妻と暮らしていた都会の家を処分し、懐かしい加賀見の里に戻って来たのだ。
盆と正月にしか顔を見せなかった私を、加賀見の皆は快く受け入れてくれた。実家近所の有志が方々に声を掛けて、地区公民館で大宴会が催されたほどだ。
私は大歓迎ぶりに恐縮し、感動し、そして身の危険を覚えた。
四十余年にも及ぶ都会暮らしで私は忘れていた。高齢化が進む過疎地においては、六十一歳の私ですら若手の部類に入ってしまうことを。
宴会終了後にどういう訳か地区会議が始まり、私は消防団に入団させられ、更にはへべれけ共の満場一致で、来期から運営される自治会の長に選ばれてしまった。
余所に長らく生活基盤を持っていた私を、久し振り過ぎて住人の顔と名前が一致していない私を、加賀見の民は満面の笑みでトップに祭り上げたのである。
当然のことながら、私は辞退の意を強く示した。会長をやるにしてもすぐには無理だ、土地に馴染むまでせめて数年の猶予が欲しいと。
しかし周囲の酔っ払い共はこぞって、立花さんなら大丈夫、立花さんならやれる、何と言っても立花さんだからと、無責任な肯定で私をがんじがらめにした。これが閉鎖集落における同調圧力である。
こうした経緯で、私は四月から加賀見の自治会長に就任したのであった。
前任者である村の相互組合員から引き継ぎを受け、最初の数ヶ月は戸惑いながらも問題無くこなせた。自治会費の集金や町の美化活動で皆と触れ合い、住人の顔と家族構成もほぼ把握できた。
しかし町の最大イベントである夏祭りの準備に本腰を入れた頃、地域に奇怪な現象が度々起こるようになってしまった。
自治会の役員や大学教授、神社の宮司らと共に私は問題解決に臨んだが、残念ながら真相解明までには至らなかった。
ただ一つ、現象の全ては十年前の夏祭りに起きた、少女暴行殺人事件に起因する、これは間違い無いと私は考えている。
私は未解決の怪異現象を記したこの手記を、加賀見町Xファイルと名付け、極秘資料として代々の自治会長に引き継いでもらう所存である。
文章は当時の様子を解り易く伝える為に、会話と私の感想を随所に挟んで構成している。
私に続く未来の自治会長の内のだれかが、いつか謎の真相に到達することを願う。
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