第36話 国王への謁見

 今回呼ばれた政務部官吏が皆で集まり謁見の控え室に向かうと、そこには他にも多数の人々が集まっていた。


 第一騎士団長であるランバートをはじめとした、騎士が数名。さらにはラフォレを筆頭とした歴史研究家も五名ほど呼ばれている。そして第二王子であるソフィアンも、優雅にソファーへと腰掛けていた。

 

「ソフィアン様、ラフォレ様、ランバート様も呼ばれていたのですね」


 マルティナは知り合いである三人に声をかけながら、昨日のうちにソフィアンの身分を知ることができて良かったと、心から安堵していた。


 ――陛下への謁見前に真実を知ることになってたら、動揺で絶対に謁見どころじゃなかった。昨日でも遅すぎたけど、まだ間に合った……と思いたい。


「今朝書状が届いたよ。マルティナは確実に来るだろうと思っていたけれど、官吏は数が多いね」


 笑顔でそう答えてくれたソフィアンにマルティナは内心で胸を撫で下ろしつつ、丁寧さを心掛けて頷いた。


「はい。書状が多数届いておりました」

「詳細は書かれていませんでしたが、大規模な計画が始まるのでしょう。それならば、官吏は数が必要です」


 次に口を開いたのはラフォレだ。そしてその言葉に同意するよう、ランバートも頷いた。


「騎士はここに呼ばれた者は数名ですが、多くの騎士への協力を願いたいと書状にお言葉がありました」

「そうなんだ。陛下は何を話されるのか……このタイミングと集められたメンバーから、瘴気溜まりに関することだろうけれど」

「それは確実でしょう。そしてほぼ間違いなく、聖女召喚の魔法陣に関することではないかと」


 ソフィアンの独り言のような言葉に対してラフォレが発した内容に、控え室に集まる皆が真剣な表情で頷いた。

 この場に集められている者たちは、これまでも瘴気溜まりに深く関わってきているため、もちろん聖女召喚とその魔法陣については話を聞いているのだ。


「やはりそう思うかい? そういえば第一騎士団長は、一昨日に陛下への謁見をしていたね。そこで何か決まったのかな?」

「はい。先日はカドゥール伯爵領への遠征について報告をいたしまして、今後についてもお話をさせていただきました」

「では今日の要件も知っているんだね」

「概略は存じております。しかしすぐに陛下からお話があるでしょうから、ここで内容を明かすのは控えさせていただきます」


 ランバートがそう言って頭を下げ、ソフィアンがそれに頷いたところで、国王の側近である宰相補佐がやってきて皆を謁見室に誘導した。


 決まりに則って、全員が礼をしてから謁見室内に入っていく。中に入り扉が閉められたら、謁見開始だ。


「皆、本日は急に呼び出して申し訳ない」


 ソフィアンの父親であり国王でもあるヴァーノン・ラクサリアは、玉座に腰掛けるとそんな言葉から謁見を開始させた。


「書状に詳しい内容は書かなかったが、本日は国の安全を脅かす存在となっている瘴気溜まりに関して、重要な話がある。まず先日カドゥール伯爵領内にて発見された瘴気溜まりだが、これは以前のものより倍以上に大きく、未だ消滅には成功していない。消滅させるには、二十名以上の光属性を持つ魔法使いが必要と推測されている。ただその数を集めるのは現実的でなく、さらにそれで今回は対処できたとしても、またより巨大な瘴気溜まりがどこかに出現する可能性は高い」


 低くよく通る声でそこまで説明した国王は、そこで一度言葉を切って、ゆっくりとこの場に集まる皆を見回した。


 そして瞳に強い光を宿し、力強く宣言する。


「そこで我が国は、聖女召喚の魔法陣を復活させるため、計画を始動することに決めた!」


 国王のその宣言は、謁見室の空気を大きく揺らし、この場に集まる皆の心に火を灯した。


「この場に集まってもらったのは、計画を中心となって進めてほしい者たちだ。聖女召喚についてはすでに耳にしているだろうが、たとえ瘴気溜まりが無数に生まれたとしても、国を救うことができるかもしれない希望である。しかし現状では本当にそのようなものがあるのか、復活が可能なのかさえ分からない。暗闇の中を手探りで進むような仕事になるだろう。……しかしこの国の未来のため、皆の力を貸してほしい。よろしく頼む」


 陛下の言葉を最後まで聞いた皆は、その場で深く頭を垂れた。代表して口を開いたのは、この場で最も身分が高いソフィアンだ。


「かしこまりました。全力を尽くしましょう」

「期待している。では計画を始動するにあたって、この場に集まる皆に果たして欲しい役割を伝えよう。説明は宰相、頼んだ」

「かしこまりました」


 国王に指名され一歩前に出たのは、国王の斜め後ろに待機していた壮年の男。この国の宰相である、サミュエル・ロートレックだ。

 ロートレックは侯爵でありながら、その才覚を買われて宰相に抜擢された。とても真面目な忠臣だ。


「まず此度の計画のリーダーだが、マルティナに任せる。マルティナ、君の優秀さは聞いている。その能力を国のために遺憾なく発揮してくれ」

「……わ、私、ですか?」


 マルティナは予想外すぎる発表に理解が追いつかなかったが、何とか自分を指差してそれだけは口にした。


「そうだ。不満があるか?」

「い、いえ、不満ではないのですが、私に務まるのかと心配になってしまい……」

「ここまでの話を聞く限り、マルティナ以外に務まる者はいないだろう。聖女召喚の存在をこの国にもたらしたのはマルティナだ」

「……評価していただけてありがたいです。ただ私は平民なのですが、そこは問題ないのでしょうか」


 眉を下げながら発されたその言葉に、ロートレックは迷うことなく頷いた。


「身分を気にする必要はない。優秀で国のためになるのならば、身分など些末事だ」


 ロートレックは近年平民からも優秀な人材を拾い上げているラクサリア王国内でも、特に身分ではなく実力を重視する貴族だ。そのためロートレックのマルティナに対する評価はかなり高い。


「……ありがとうございます。精一杯務めさせていただきます」


 マルティナはロートレックからの大きな期待を受け、その期待に応えられるのかと緊張を感じながらも、瞳に強い光を宿して頭を下げた。

 僅かに口角が上がっているマルティナの表情からは、闘志が見て取れるようだ。


 そんなマルティナを見届けて、宰相は次の発表に移る。


「次は副リーダーだが、これはソフィアン様にお任せします。自国内ではマルティナの補助を、そして万が一他国と接することがある場合は対外的な代表をお願いします。外務部で働かれている経験と、司書として文献にも詳しいその知識を計画のためにお貸しください」

「分かったよ。マルティナ、よろしくね」

「は、はい。よろしくお願いします……!」


 マルティナはソフィアンが外務部で働いているという情報に驚きつつも、強力なサポート役が付いてほっと胸を撫で下ろしていた。


「では次はラフォレを筆頭とした歴史研究家たちだが、皆には聖女召喚に関する記述がある文献を探してもらいたい。ソフィアン様と協力し、王宮図書館の書庫も探るように」

「かしこまりました」

「政務部の官吏たちはさまざまな調整業務だ。基本的にはこの場に集められた者たちが中心となり、業務を行うように。人員の選考基準については、此度の計画のリーダーであるマルティナと意思疎通しやすい者を選んである」

「かしこまりました。精一杯務めます」


 ロートレックの説明を聞いて、なぜ新人官吏であるナディアやシルヴァンが選ばれているのだろうという疑問を持っていた官吏たちは、やっと納得ができたのか素直に頷き頭を下げた。


「最後は騎士団だな。騎士団は瘴気溜まりの監視と定期報告、さらには皆が街の外などへ視察に行く際の護衛だ。他にも騎士の力が必要になることは多々あるだろう。騎士団全体として協力してほしい」

「はっ、皆にも伝えておきます」

「よろしく頼む。……では説明はここで終わりとする」


 ロートレックはランバートの答えに頷くと、皆を見回してから一歩下がった。すると今度は玉座の背もたれに体を預けていた国王が、体を起こして口を開く。


「詳細はロートレックが説明した通りだ。予算はこの計画のために十分な量を確保してあるので、無駄にはせず有意義に使ってほしい。では皆、良い報告を待っている」


 国王のその言葉で謁見は終わりとなり、皆は謁見室近くにある会議室に移動することとなった。





〜あとがき〜

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(マルティナ、ロラン、ナディア、シルヴァン、ソフィアンのイラストをご覧いただけます。とっても素敵な口絵です!)


よろしくお願いいたします。


蒼井美紗

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