第25話 作戦会議

「待たせてすまない。マルティナ、魔物は無事に怪我人なく倒せた。マルティナの知識のおかげだ。ありがとう」

「お役に立てたのであれば良かったです」


 ランバートが戻ってきたことで、三人の話は中断となった。

 シルヴァンは眉間に皺を寄せて、ロランから告げられた言葉についてまだ考え込んでいる様子だったが、今は仕事に集中しようと思ったのか握りしめた拳から力を抜く。


「それから偵察に行っていた騎士も帰ってきたのだが、街中の様子はかなり悲惨らしい。そこかしこに魔物が散見され、もはや魔物の棲家と化しているようだ」

「そんな状況に……街中に人はまだいるのでしょうか」

「ああ、いくつか救助を求めるようなサインが見られたと」


 ランバートのその言葉に、三人は一気に表情を厳しいものに変えた。


「これから俺たちはまず、取り残されている住民の救出を目指すことになる。それが達成され次第、魔物の一掃と街の奪還、そして森の調査だ。しかしまずは何よりも、住民の救出が最優先で動く。これから作戦会議をすることになったので、皆も参加してほしい」

「分かりました」

 

 それからランバートに連れられて三人は騎士団の上官たちが集まる場所に向かい、さっそく作戦会議は始まった。


 マルティナの能力については第二騎士団の団長や団員たちも話には聞いているので、完全に信じているかは別としてマルティナの参加を拒んだりはしないようだ。


「私は第二騎士団の団長を務めるヴァレール・エスコフィエだ。さっそくだが、街中の様子を改めて報告してくれ」


 エスコフィエの簡単な挨拶の後に、偵察に行った騎士の一人が一歩前に出た。


「はっ、報告します! 街中には通りだけでなく、建物の中や屋上等にまで魔物が入り込んでいる様子でした。魔物の種類はアント系の魔物しか確認できず、その種類は基本的にはビッグアントかと。しかしいくつか初見の色合いをした魔物が見られ、その魔物はビッグアントとは対立しているようでした。種類が違う魔物同士の争いにより、街中が荒れております」

「皆で街中に入り、魔物を端から一掃しながら住民を救助することは可能か?」

「……いえ、あまりにも魔物の数が多く、街の中では四方を囲まれる危険性もあり、難しいかと愚考いたします。さらにこの街は区画整理がされていないようで、少し入ってみたのですが、大通り以外はまるで迷路のように路地が広がっています。迷い込んでしまうと、騎士団員も危険に陥る可能性があるかと……」


 偵察の騎士の言葉に、エスコフィエは難しい表情で頷いてから、「ありがとう」と騎士を下がらせた。


「どうするのが良いか……」

「住民がいる以上、大規模な攻撃も避けるべきですよね。そうなると……薬草を使うのはどうでしょうか? 確かアント系の魔物が嫌う薬草があったはずなので、それを身に纏えば危険を減らして救助にあたれるかと」


 一人の騎士が提案した作戦に、エスコフィエは同意するように頷く。


「それはありだな。まずは救助が最優先なので、魔物との戦闘は避けても良い。街中に住民がいないとなれば、魔物を一掃する作戦の選択肢も増えるだろう。……しかし問題は、やはり街中の様子が分からないことだな。騎士団員が迷い込む危険性もそうだが、助けを求めている住民の見落としが発生する可能性がある」

「地図があれば良かったんですがね……」


 そこで作戦が手詰まりとなり場に沈黙が流れると、マルティナが恐る恐る右手を挙げた。


「あの……もしかしたら地図、作れるかもしれません」


 そして発されたその言葉に、誰もが訝しげな表情をマルティナに向ける。代表して口を開いたのは、マルティナの隣にいたランバートだ。


「マルティナ、作れるとはどういうことだ?」

「協力していただける方がいるならばという前提なのですか、私は目で見た風景を、一瞬で細部まで完璧に記憶することができます。なので上空から街の様子を見下ろすことができれば、かなり正確な地図が描けるはずです」


 マルティナが打ち明けた異次元の能力に、誰もが呆然としてすぐには口を開けなかった。

 しかし以前この能力でマルティナが瘴気溜まりの膨張に気付いた場面に居合わせていたランバートは、すぐ我に返り納得の様子で口を開く。


「確かにマルティナならできるかもしれないな。協力者とは風属性で飛行ができる者か?」

「はい。飛行はかなり高等な魔法なので使える方は限られますが、ちょうど発動できる方がこの場に来ておられるので……」

「ははっ、そんなところまで分かっていて提案したのか。さすがマルティナだな」


 騎士団員の詳細なプロフィールを頭に入れ、さらにはここまでの道中で同行している騎士の顔を全て覚えていたマルティナに、ランバートは楽しそうな笑みを浮かべた。


「分かった。ではマルティナに地図の作成を頼みたい。飛行が使える騎士団員は第一騎士団所属なので、俺が話をしてくる。……皆はその作戦で良いか?」

 

 ランバートが会議に参加している全員に向かって問いかけると、ほとんどの者は未だに信じきれない様子ながらも、マルティナとランバートの自信ありげな表情を見て頷いた。






〜あとがき〜

いつも読んでくださっている皆様、本当にありがとうございます。コメントや評価などとても励みになっています!


本日は別作品に関するお話なのですが、カクヨムネクストという本日から開始されたサービスで、新作を連載させていただくことになりました。(有料課金型のサービスですが、一部無料でお読みいただけます)


『深淵の魔女の悠々とできない日々』という作品です。

こちらも女性主人公ハイファンタジーですので、マルティナの物語をお読みの皆様には、楽しんでいただけるのではないかと思います!

もし興味を持たれた方がいらっしゃいましたら、下記URLから読めますのでぜひ。

(実はイラストをつけていただきまして、とっても素敵なイラストなのでそれだけでもご覧ください!)


https://kakuyomu.jp/works/16817330668669974026


よろしくお願いいたします!


蒼井美紗

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