第21話 瘴気溜まりの消滅
瘴気溜まりが消えたところで、辛うじて立っていた三人の魔法使いも荒い息を吐きながら倒れ込んだ。
三人を手当てするために騎士たちが動き出したところで、先ほどまで瘴気溜まりがあった場所を見つめ続けていたマルティナ、ランバート、ラフォレも動き出す。
「これは、成功で良いのだろうか」
まず口を開いたのは、未だに消滅を信じきれていない様子のランバートだ。
「いいと思いますが……しばらくは注視が必要だと思います。しかし現段階では、瘴気溜まりは残っていませんね」
「……光属性の魔法とは、本当に凄いのだな。以前の検証とは比べ物にならない効果だった。やはり文献にあった通り、瘴気溜まりを消滅させる方法は他にないのかもしれんな」
三人はそんな話をしてからまた何もない宙をじっと見つめ、しばらくして瘴気溜まりが復活しないのを確認してから、頬を緩め体に入っていた力を抜いた。
「本当に、成功して良かった。これで瘴気溜まりの騒動は終わりだろうか」
「そうですね……終わりだといいのですが。とにかく今は消滅の成功を喜びましょう。これでダメだった場合は、大変な事態に陥っていたでしょうから」
「十人の英雄たちに感謝をしなければいけないな。勇姿は必ず書物に残そう」
ラフォレはそう言うと、さっそく懐から紙束とペンを取り出し、先ほど見た光景を記録し始めた。そんなラフォレを横目に、ランバートはマルティナに視線を向ける。
「ではマルティナ、俺たちは一足先に王宮へ戻ろう。早くこの結果を報告しなければならない」
「分かりました。魔法使いの方たちは徒歩で戻るのが難しいでしょうから、担架の手配も頼みましょう。この場所では魔物に襲われる危険性があり、回復も難しいと思います」
「確かにそうだな。では騎士たちにそのことを伝えてくるので、少しだけ待っていてくれ」
それからマルティナとランバートは二人だけで王宮に戻り、瘴気溜まりの消滅成功という吉報を伝えた。吉報は一気に王宮中を駆け巡り、久しぶりに王宮内は明るい空気で満たされた。
♢ ♢ ♢
マルティナとランバートによる報告を聞いた国王と軍務大臣は、また国王の執務室で話し合いを行なっていた。以前は重く暗い空気が流れていた執務室内は、爽やかな風が流れ込んだかのように晴れやかだ。
「消滅の成功、本当に喜ばしいことだ」
「はい。まずは何よりも、光属性の魔法が瘴気溜まりに効果ありという事実が分かったというだけで、随分とこれから先が明るくなった気がいたします」
「そうだな。……しかしまだ、全てが解決したわけではない」
表情を真剣なものに変えてそう言った国王に、軍務大臣はすぐに頷き目元に力を入れた。
「またどこかに瘴気溜まりが出現する可能性は、十分にあり得ると思われます」
「そうだな。そして万が一その瘴気溜まりが今回のものよりも大きかった場合、十人の魔法使いでは消滅させられないだろう。此度の作戦で全員が魔力切れ状態になったのだから」
報告書の瘴気溜まり消滅の過程が書かれた部分を再度読み直した国王は、今後の対応について話をするため顔を上げた。
「軍務大臣、まずは国全体で見回りを増やしたい。瘴気溜まりが時間経過とともに成長するならば、早期発見は重要だ。それから瘴気溜まりがどういうものなのか、これからも研究は続けよう。また光属性の魔法使いを増やすことも大切だ。高待遇で雇い入れ、万が一の時に備えたい」
「はい。私もそのように考えておりました。見回りと光属性の魔法使いを雇い入れるのは、騎士団が主導で行います。研究については、内務大臣にも話を通さなければいけませんね」
「そうだな、私の方で通達を出しておく。諸々の調整は政務部に任せよう」
国王が話したこれからの対応についてメモを取った軍務大臣は、ペンを止めるとふと思い出したように顔を上げて口を開いた。
「陛下、聖女召喚についてはどうされますか?」
「そうだな……私としては後回しで良いと思っている。今は光属性の魔法が効くという光明を得たのだ、そこを強化するべきだろう」
「かしこまりました。ではそのように心得ておきます」
そうして二人の話し合いは、終始明るい雰囲気のまま終わった。しかし窓の外には暗雲が広がり始め、迫り来る騒動を予感するかのようだった。
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