第11話 王都燃える③

 私たちは隠し通路から王城内に侵入した。


 王城は魔法使いの巣窟である。

 私たちは警戒した。

 最初だけ……。


 彼らは弱かった。もちろんドラゴンへの対処で宮廷魔法使いの精鋭たちは全て死んだという説もあるが。


 接近戦に対しての対策がまったくできていないのだ。


 本を読んでいないのかしら。

 初級の学術書にだって魔法使いの接近戦の対策は書いてあるというのに。


 こちらの損害はゼロだった。

 襲い掛かる元盗賊の素早い攻撃に魔法を打ち返すことが誰一人出来ていなかったのだ。


「姫様に団長、終わりやしたぜ。一応、降伏した連中は縛って牢屋に入れておきやしたが」


「ご苦労、使用人などの平民たちと、貴族は分けておけ。クリスティーナ様よかったですか?」


「そうね、後で貴族の名前を見せてくれるかしら。約束通り王族に縁のある者たちから順番にドラゴンへ献上しないといけないから。

 とはいえ、今頃は高位の魔法使い達はドラゴンに食べられてしまったかしら。でも一応ストックは必要ね、いつ機嫌を損ねるか分からないもの」


 それにしても、兄の姿が見えない。

 死んだのかしら。


 死に顔くらいは見ておきたいものだわ。


 私は王の間を目指した。そこはドラゴンの攻撃によって瓦礫と化していた。


 私はここには来たことがない。だから懐かしい気にはならなかった。

 ほとんどは瓦礫だったが。王座だけは不思議と無傷だ。

 皮肉なものだ。でも瓦礫のなかに王座とは感慨深いものがある。


 私は王座に近づく。不用心だった。

 王座の後ろの瓦礫に人が隠れていたのだ。


「クリスティーナぁああ! その王座は俺の物だぁああ! 消えろぉおお! アイスジャベリン!」


 あれは、兄だ。憎悪に満ちた歪んだ顔は本当に醜い。


 そして、私は兄の放った氷の槍に心臓を貫かれていたようだ。

 意識が薄れる中。クロードが私に向かって駆けつけているのが見えた。


 声が聞こえないけど、きっと私の名前を叫んでいるのだろう。

 ごめんなさい。油断しちゃった。兄の首と王座は貴方に譲るから許してちょうだい。


 ………………。

 …………。

 ……。


 目が覚める。ここは地獄だろうか。


 いや違う、私の意識は直ぐに覚醒した。

 ここは王城、そしてクロードの顔が私を覗き込んでいた。


 目が赤くなっている。あのクロードでも泣くことがあるのだと思った。


 でも今は確認しなければ。

 私は兄の放ったアイスジャベリンで心臓を貫かれたはず。

 顔を少し上げ自分の身体を見る。

 私の上半身はクロードのマントに覆われていた。


 恐る恐るマントを外す。そこには何事もなかったように私の身体があった。

 着ていた服だけが胸元を中心に穴が開いており、その周囲にかけて大きく破けているだけだった。


 驚いたのは、過去に受けた傷痕も含めて綺麗に治っている。

 まるで別の女性の身体のようで少し恥ずかしくなった。


 これならクロードに見せても問題ないかしら。

 でもクロードは顔を伏せて私に服を渡した。

「姫様。これを着てください。それと報告があります。姫様が目を覚ますまで30分程経ちました」


 私はクロードから貰った服を着ると。彼は私が寝ている間に起こったことを説明しだした。


 私を攻撃した兄は、殺されずに牢屋に閉じ込めてあるらしい。

 私の傷が攻撃の直後に直ぐに再生し、心臓が再び動き出したというので。処刑は後回しにして。私の許可を貰おうとのことだった。


 そしてもう一つ重要なこと。アレンが死んだのだと。

 私が攻撃を受けた直後にアレンはその場に倒れた。


 彼は戦闘では無傷であり、直前までクロードの傍にいた。

 その場で倒れた彼は心臓が止まっていたのだという。彼には持病も何もない。


 私は思い至った。これはドラゴンの呪いだ。


 なるほど、私が自殺できないようにドラゴンが掛けた枷のひとつ。


 ドラゴンによって蘇らされたクロードを含めた50名は全て人質なのだ。


 私が自殺したら代わりに誰か一人が死に、私は蘇る。


 憎らしいドラゴン、伝説の通りあれは人類の災厄なのだ。


「団長! 姫様! 大変ですぜ。あのドラゴンが首跳ねられて死んじまってる!」


 え! どういうこと?

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