救出成功

『こちらノンナ! 射撃位置に付いた』


 ノンナのIS3の122ミリ砲の直撃が、ロシア兵の機関銃を黙らせた。

 更に後方、敵砲兵がいる地点に連続して砲撃が行われる。


『こちら自走砲兵! 位置に付いた!』


 自走迫撃砲を装備した仲間の砲撃だ。

 野砲より威力は低いが、十分な威力だ。


『随伴歩兵チーム歩兵の展開完了! ロシア軍の進撃を食い止め収容陣地を構築する! だが弾薬が持つのは数分だけだ! その間に飛び込んでくれ!』


「ありがとう!」


 敵の砲撃が止み、カチューシャは味方に近付く。


「迷子の兵隊さんは何処!」


 エンジン音を切り裂く声でカチューシャが尋ねる。


「ここだ」


 駆けつけたのがT34だったこと、尋ねたのが少女だったことに兵士は驚いたが直ぐに答えた。


「乗って! ここから離脱するわ!」


「戦車に乗れるのか」


「外に捕まって!」


「タンクデサントかよ」


「ここで死ぬよりマシでしょ。それともそこがあなたの墓穴?」


 おどけた調子で尋ねた時、ロシアの砲撃が着弾した。

 覚悟を決めた兵士はT34に飛び乗りハッチへしがみつく。


「乗った! 出して!」


「!」


 T34が急発進すると、振り落とされそうになった兵士はカチューシャの腰に手を回した。


「済まん」


「仕方ないわ。脱出するまでよ」


 カチューシャが答える間もロシア軍の攻撃は続いた。


「煙幕!」


 カチューシャが命じると、砲塔のランチャーから発煙弾が飛び出し、上空で炸裂。

 白い煙が地面に落ちてきて広がりカチューシャたちを包み込んだ。

 ロシア軍はこしゃくな戦車を撃破しようと砲撃を仕掛けるが、見つけられず、無駄玉を撃つ。

 しかも反撃はやってきたIS3、ノンナが操る122ミリ砲の制裁を受け、砕け散る。

 分散しても、展開した歩兵チームが機銃制圧してロシア軍の展開を許さない。


「終わったわ! 皆、離脱して!」


 収容陣地に逃げ込んだカチューシャは、全員に命じた。


 歩兵は急いでトラックに乗り込む。

 その間今度はカチューシャが動き回って、牽制射撃を行いロシア軍の前進を止める。

 歩兵は乗り込むと一目散に後退する。

 離脱を確認すると、カチューシャも後を追う。

 ノンナの援護もあり、カチューシャ達は、無事に味方と合流を果たした。


「何とかなったわね」


 安全圏、ロシア軍の砲撃が届かない地点まで脱出に成功したカチューシャは車両を停止させて、状況を確認する。

 損害なし。

 タブレットでは味方に損失はないが、実際に目で見て、確認しないと安堵できなかった。


『あまり無茶はしないでカチューシャ』


「しないわよ。けど、どうしてこっちに砲身を向けているのよ」


『敵を警戒しているだけよ』


「!」


 カチューシャにしがみついていた兵士の背中に寒気が襲い、彼はカチューシャから離れた。


「命を助けて頂き、ありがとうございます! 失礼しました!」


 敬礼しお礼を言うと直ぐに飛び降りて、仲間の元へ向かった。


「もう、あんなに急いで行くこともないのに」


『何か事情があったのでしょう』


 と言ってノンナは同軸機銃のトリガーから指を離した。


「まあ、いいか。皆お疲れ様。キャンプに帰ってご飯よ」


 カチューシャが言うと各車両から歓声が上がった。

 任務が成功したのは嬉しいし、これが貴重な休憩時間である事を、直ぐにロシアか自分たちウクライナが作戦を行い、戦いにかり出されることを誰もが理解していたからだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る