モーリェ課長の興味

 通常、戦場で単独行動は行わない。

 可能な限り二人以上で行動し、互いの死角をカバーし、援護する。

 戦車などの戦闘車両も、戦闘機も同じ。

 イリヤももう一両が後方の茂みに待機しており、援護を行う事となっていた。

 カチューシャのT34を打たなかったのは、偶然、射線上に味方がいたためだった。

 撃破されて仕舞ったからには、最早手を出さない理由はない。


「回避運動! とにかく避けて! 射撃開始!」


 カチューシャは生き残ろうと指示を出して、撃たせまくる。


「カチューシャ! 奴は思ったよりすばしっこい! 当てられない!」


 予想以上の機動力のため砲手は狙いを付けられず、命中させられない。


「じゃあ、牽制射撃! 敵の右側へ撃って!」


「そんな事したら、左の廃墟に入られちゃうわよ!」


「良いのよ! とにかく左へ誘導して!」


「了解!」


 砲手は言われたとおり、目標の右側へ射撃して左へ誘導する。

 砲撃の前に敵は左へ逃げ続け、予想通り廃墟に逃げてしまった。

 そして、再装填を終えたのか、アームだけ出してカチューシャのT34へ狙いを定めようとした。


「今よ! ノンナ!」


 大声で叫んだ数秒後、後方から砲声が轟いたと思った直後、廃墟に隠れたロシア軍の車両に122 mm砲弾が命中。

 吹き飛んだ。


「装甲車とはいえT34の砲撃に耐えられない車両だから何か遮蔽物へ逃げ込むと思ったわ。あとは砲撃して誘導して、遮蔽物に狙いを定めていたノンナに撃たせたの」


 データリンクで砲撃目標を予めノンナのIS3に指示していた。

 ノンナの腕なら、遠距離射撃でも正確に命中させられると信じての事だ。


「しかし、危なかったですね」


「ええ、既存の兵器なら何とか対応出来るけど、初見の新兵器はもう勘弁ね」


 カチューシャは、周りに残敵がいないかハッチを開けて周囲を見回しながら答えた。




「まさか第二次大戦の骨董品にやられるとはな」


「新兵器を搭載しているとはいえローメッツは普通の装甲車ですから」


 一部始終を見ていたモーリェ課長は、先ほどとは明らかに声のトーンが下がり、慌ててミスキーがフォローする。

 対戦車兵器として戦車に見つからないことを優先したため、低車高を優先し機動力を求めた結果、ローメッツの装甲は薄くならざるを得なかった。

 だが、これは初めから予想された事だ。

 そもそも、ウクライナ軍の攻勢を待ち受けるため、待ち伏せ攻撃を前提に作られたのだ。

 それにあんな第二次大戦の骨董品を狙うにはイリヤは高価すぎて出し惜しみしてしまう。


「しかし、上手く戦わせていたな」


「まあ、確かにそうですが」


 紛争地で製品の評価試験をした事がある。中にはT34を実際に使っている所――貧乏なため中古のT34しか使えない勢力がおり、T34の戦いを見たことがモーリェにもミスキーにもあった。

 その中でも今のT34は素晴らしい動きだった。

 そしてモーリェはある事に気がついた。


「ミスキー君! あのT34を見ろ!」


「どうしました?」


「砲塔のハッチから顔を出している乗員だ!」


 監視カメラの画像に写っていたのは明らかに女性だった。


「まさか、女性が指揮しているとは」


 装填手と砲手が砲塔の中に乗っているが、ハッチから身を乗り出すのは普通、状況を把握したい指揮官か車長のみだ。

 ならば、この女性、いや少女が指揮官だ。


「中々良いじゃないか」


 モーリェ課長は楽しそうな声でいう。


「ですが課長。我々の敵はレオポルト2ですよ」


 嫌な予感がしたミスキーは釘を刺すように言った。

 そして悪い予感の方向、モーリェ課長は歯を見せながら笑って言った。


「そのレオポルト2を撃破する兵器を撃破したT34って凄くないかい? あんな動きをするなんて。色々改造しているだろうけど。それに最後の一台撃破したのも凄いよね。120 mmかな、多分戦車砲だろうね。もしかしたらIS3あたりかな。そんな物を使って戦うって彼女ら凄くないかい?」


「課長……まさか」


 拙いと思いつつ、ミスキーは尋ねた。


「ああ、そうだ。彼女達を相手に戦ってみないか?」


「ですが、そんな予算なんて」


「レオポルト2対策やウクライナ軍撃破のために必要と言えば軍が出してくれるよ」


「ですが、資材や部品も」


「国際闇市場で仕入れて、密輸すれば制裁は回避出来るよ。彼女たちを相手にするくらいの数は揃えられるだろう」


「ですが」


 ミスキーの悪い予感は当たった。

 彼女たちはモーリェ課長の眼鏡に適った、興味を持たれてしまった。


「早速モスクワに帰って、彼女たちを撃破する新兵器を作るぞ」


 その言葉を聞いてミスキーは落胆した。

 欧米に興味を持って貰い国外へ優雅に脱出する計画がパーだ。


「心配するな、彼女たちに使う前にレオポルト2当たりを狩っていけば僕たちも注目されるよ。だから待っていてくれよ名も知らぬ少女車長」


 モーリェが楽しそうに言った時、カチューシャは突如背中に悪寒が走り震えた。




――――――――――――――――――――――――――――――――――――


@lens174さんのコメントで思いついてしまったストーリーを書いてみました。

 予想より話が多くなってしまいましたが、お楽しみ頂けましたでしょうか?


 もし、現代ドラマジャンルで50位以内にランクインしたら、キリングメイドや奇想天外な巨大戦車を出そうかと考えております。


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