答えを模索する兄弟

 うひ~危うく世界を滅ぼすとこだったゼ~☆


 いけない~いけない~☆


 って、あぶねぇだろうが!この力ッ!!!


 世界をのみ込んで無くなったら生きるもクソもねぇだろうがよ!!


 地震の一つだって起きるわッ!!


 おかげで魔力量がかなり減った気がする……。


 いや、まぁ……全部俺が悪いんだけどね?


 全てを引きずりのみ込むようにしたら、そらぁ文字通り全部のみ込むだろうよ。


 どっかの議員構文じゃねぇからな?


 しかし、まぁ……。


 なんかこー。


 ……もうちょっとご都合主義夜露死苦よろしくチートパワーとかが良かったなぁ。


 さっきの【黒点こくてん】を展開した場所を見る。

 

 ……歪んだ空間が徐々にだが元に戻ってるな。


 良かった。


 しかし、この歪みの現象……これはアレだな。


 アレに似ている。


【ルセリアの軌跡】のセーブデータを消す時と似ている。


 あのゲームは最近よくあるオートセーブシステムではなく、2000年代のRPGとかみたいにセーブスロット形式を使っている。


 簡単な話、そのスロットのセーブデータを消すとこれと似たような現象が画面から映し出される。


 確か……のイラストが出てきてルセリアの大陸マップを背景に、その背景を歪ませながらキラキラと真っ白にしていく。


 それが終わったら【世界の白紙化に成功しました。】っていうメッセージが出てくるんだよな。


 懐かしい。


 結局あの鯨はなんだったっけ?


【ルセリアの軌跡】を開発してた会社のシンボルマークだったのは覚えてるけど、あの会社は【ルセリアの軌跡】を発売して2年……くらいか?で倒産したんだよな。


 まぁ……【ルセリアの軌跡】はお世辞にも神ゲーってわけでもないし、売上もそんなにだったんだろう。


 大手ゲーム会社の直接!生配信で発表された時『パクリで草』とか『テ〇ルズの新作?w』とか散々なことを言われてたの覚えてる。


 PVでは確かこう言ってたな、『誰かに優しくなれるRPG』……と、まぁ……多分、大体このセリフのせいだよな。


 実際はパクりでもなんでも無く、ただのよくある王道RPGだったけど。


 好きだけどね。

 

 思い返すとまたやりたくなってきた。


 DLCで追加された超高難易度ボスとかクリアしたかったなぁ。


 カジュアルプレイヤーだからストーリー中心しかやってないもんなぁ。

 

 うーん、ここに来て前世への未練ガガガゴギガーガギゴー……。


 ま、いいや。


 とりま、もうちょっと闇の使い方の練習でもしとこ。


 ◇ ◇ ◇



 例の物を手に廊下を歩く。


 代々伝わる秘密の牢獄に向って、重い両脚で進む。


 なぜこうなった?


 なぜこうならねばならかった?


 あの夢があったというのに……。


 あの警告が……あったというのに……。


「アッシュ坊ちゃま……。」


 例の場所の入り口の前に、料理長ステファンがワゴンに料理を乗せて待っていた。


 ……そうか、こやつにも俺は……。


『どうか、ルーク坊ちゃまを御守り下さい。』


 ……っ……。


「ステファンよ……すまぬ。俺は……結局の所、無力だった……。」


「…………。」


「其方のあの時の願いも……俺は結局……。」


「…………。」


「一度大陸を統一した武の英雄達に祝福された子だと……アストラ家の神童だと……そんな風にもてはやされた……だが、結果はどうだ?」


「…………。」


「俺は……結局、欲しかったモノを……家と天秤にかける、ただの貴族だった……。」


 そう。

 俺は結局……祖父様との最後に交わした言葉も、ルークとの過ごした日常も……家のためにそれを天秤にかける事が出来る、ただの貴族だった。

 誰かを照らす光にもなれず……ただ自分の為だけに……。

 

「…………。」


「ステファンよ、教えてくれ……。俺は……どうすれば良かったのだ?」


 ステファンに近づく。

 

「…………。」


「俺が……もう少しだけ大人だったのならば、こんな状況を上手く収める事が出来たのか?もう少しだけ大人だったのならば……幸福を願う我が儘も許されたのか?」


「…………。」


 左手にある、黒い小さな筒を見つめる。


「俺は……この手にある毒をあやつに飲ませる……。だが、これを飲ませた瞬間……俺の手に残るのは全て偽物になる……。」


「…………。」


「本当に……これしかないのか?あやつはただ……闇の力に目覚めただけなのに……?」


 気が付けば、俺はステファンの服を掴んでいた。

 強く握ってしまって、少し破れる音までしたが、ステファンはそれを気にせず、俺の手を両手で触れた。


「……アッシュ坊ちゃま、貴方の葛藤を……貴方の胸の中にあるものを……私にはどうすることも出来ません。私はただの……料理人ですので……。」


「ああ……分かってる……。」


 それはそうだ。

 ステファンはただの料理人だ……。

 頭ではそれを分かっているとも。

 だが、それでも俺は……誰かに縋りたかった。

 誰でも良いから……俺を止めてくれるかもしれぬ者に、希望を抱きたかった。 


「……アッシュ坊ちゃま、私は旦那様から……食事にも同じ毒を混ぜるように仰せ付かりました。アッシュ坊ちゃまだけでは失敗する恐れがあると……。」


「……っ……。」


 ああ……そうか。

 あの箱に映し出されたものはこれだったのか……。

 結局、俺さえも信頼されず、ルークを殺せるのならばなんでも良かったのか。


「ですが……安心してください。私はこの食事になにも入れていません。」


 何?


「其方……それは命令に背いたということなのか?」


「はい。」


「何故……。それは自分の命を捨てることになるぞ!」


「私の命など、別に良いのです。『命を終わらせることより、命を繋げる仕事をしてる今のお前が好きだわ』と言ってくれたあの方になら、私の命など良いのです。」


 そんなこと言っていたのか……あやつは……。


「だからこれは……私なりのルーク坊ちゃまに対しての誠意にして、この家へのささやかな反逆です。」


 誠意にして、反逆……。


「私に出来ることはこれしかありません。ですが、貴方は違います。」


「なにを……俺にはもう……。」


「いいえ、まだあります。それはあの方と言葉を交わすことです。」


「それこそ無駄であろう!あやつは本音を言わぬ!」


 人の欲しい言葉をあやつは言うが、あやつは自身の事を決して何も言わぬ。


 あやつは俺を慰めるであろう、責めないであろう。


 だが、それは俺を余計惨めな気持ちにするのだ。


「いいえ、貴方にならきっと……いえ、貴方ならばきっと届くはずです。」


「なにを根拠に……。俺はこれからあやつを……弟を殺すのだぞ!」


「そんなもの、貴方があの方の前に姿を現したらすぐに悟ると思います。」 


「であれば――」


「だからこそ語り合うべきです。あなた方は兄弟ですから。」


「…………。」


 兄弟だからこそ語り合うべき……か。


「語り合って……答えは出るの……か?」


「分かりません。ですが、行くべきです。」


「そうか。」


 ワゴンの上にあるクローシュを見る。


「料理を開けて見ても良いか?」


「どうぞ。」


 中身の料理を確認する。それは――


「ははは、クリームシチューとパンか。あやつの好物ではないか。」


 それは夢で出て来たものとは違う料理であった。


「これを持っていくぞ。」


「はい。」


 料理を乗せたトレイを持って、例の地下牢へ続く階段の前に立つ。


「……ステファンよ。」 


「なんでしょう?」


「感謝……いや、ここはあやつの言葉を借りよう。」


「?」


「ありがとう。」


「はい……いってらしゃいませ。」


 さぁ……行こうではないか。

 この下にいる馬鹿者の本音を聞きに。



========

就職が決まったので更新頻度激低下します。すみません。

サラダバー……ニート生活……。

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