第50話

「随分遅くなったな」

「来た時間が遅かったからね」


 ソファで二人、ついゲームに没頭して気づけば日付を跨ごうかという時間まで居座ってしまった。

 テーブルにはお菓子とジュースが広げられていて、俺たち手元にはあらゆるゲーム機のコントローラーが並んでいる。

 来た時を考えれば随分生活感が出ていた。


「そろそろ帰らないと電車がなくなるな」


 そう言って立ち上がったんだが、理世が俺の服の裾を握りながらこう言う。


「今日はもう、泊って行っちゃえば?」


 角度的に上目遣いになる。

 それでなくても可愛い理世がこれは、ズル以外の何物でもなかった。


「いいのか……?」


 こう答えた時点でもう、結末は決まったようなものだ。


「ふふ。まだ遊び足りないでしょ?」

「そうだな……」


 実際やってたゲームも不完全燃焼だったし、そういう意味では素直にこの誘いは嬉しい。

 この感覚は完全に男友達に対するものだな。


「じゃ、続きやろー。あ、お風呂沸かしてきちゃうね」


 ぱっと立ち上がる理世。

 風呂の方に走って行ったかと思ったら……。


「ねえ、お風呂、一緒に入る?」

「――っ!?」

「あはは。冗談だけど、ほんとに入りたかったら言ってね?」


 いたずらっぽく笑って廊下に戻る理世。

 油断してると本当に、振り回されっぱなしだ。

 そこからしばらくゲームをやって、風呂は当然ながら別々で入ることにしたんだが……。


「着替えとかないな……」


 むしろ携帯と財布以外何もない。

 こうなると思って出て来てないというか、よくよく考えたら出た時は全く余裕がなかったんだよな。


「流石にアキくんに貸せる服はないから……買いに行こっか」

「こんな時間にやってるとこあるのか」


 流石にうちの近くとはちょっと違うな……。


「私が買いに出ておくから、その間にお風呂入っちゃってて」

「いや、逆だろ。店も名前がわかれば行けるから」

「お客さんに行かせるのは申し訳ないんだけどなぁ」


 そう言いながら考え込む理世。

 気持ちはわかるから、援護するか。


「せっかくもらったから、使いたいんだよな。これ」


 そう言いながら合鍵を見せる。

 一発で理世の表情が変わった。


「そ、そう? それならまあ、いいのかな……」


 そこまで照れられるとこちらも何か恥ずかしくなるんだが……。


「お店はここと……この辺ならやってると思うし、コンビニもあるから」


 携帯で地図を広げながら理世が教えてくれる。

 これなら何とかなるだろう。


「じゃ、行ってくる。風呂あがったら戻ってくるから連絡して欲しい」

「え、別にいつ入って来てもいいよ?」


脱衣所と洗面所、一緒じゃなかったか……?

 まあそれはこっちが気を付ければいいか……。


「わかった。じゃあ……」

「うん。ごめんね?」

「いやいや、まあとりあえず行ってくる」


 そんなやり取りをしながら玄関に向かう。

 扉を開けるギリギリのところまでついてきてくれた理世に見送られながら、着替えを買いに出かけたのだった。


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