第35話


「カラオケで良かったのか?」

「ん? 全然いいよー。今日はふらふらする感じでしょ? とりあえずこういうとこで考えながら楽しめばいいじゃん」


 最初にやってきたのは駅から少し歩いたカラオケ。

 駅から離れた理由は、この辺りに遊ぶ場所が密集しているからだ。

 ゲームセンターにボウリング、カラオケ、ダーツ……なんなら水族館なんかもこの辺りにあった。

 この駅で遊ぶときは大抵、ここらまで歩いて出てくることになる。


「さ、じゃあ歌ってもらおっかなー。アキくん」

「俺からなのか」

「もちろん。普段どんな曲聞くか教えてー」


 普段……。

 ステラ以外にも流行りものは一通り……なんだが、カラオケに来ると必然的にステラの文字がチラつく。

 俺から話を切り出すわけにもいかないという変なプレッシャーのせいでどこかぎこちなくなっていると、勘違いしたリヨンがなぜか距離を縮めてきた。

「もしかしてアキくん。カラオケにそういう目的で来た?」

「――っ!?」


 リヨンが俺の肩に手をかけながらしなだれかかってくる。


「あはは。その気になったらそういうところで、ね? カラオケもスリリングでいいかもだけど」


 ニッといたずらっぽく笑うリヨンからは、到底あの清楚アイドルの姿が想像できない。

 だというのに、気づいてしまったのだ。

 間近に顔を近づけられたことで、リヨンとアイドル前川理世との共通点に。

 別にどこかのパーツでそう判断したわけじゃない。

 ただもう言い訳出来ないくらい、同じオーラを感じてしまったのだ。


「ん? どしたのアキくん。あれ……本気でシたくなっちゃった?!」

「いやいや!」

「あはは……もう……やば。顔あっつい。やっぱ私が歌う!」


 自分で言っておいて余裕がなくなる辺りは今まで通りのリヨンなんだが……。


「知ってる? この曲」

「あ、最近よくSNSで聞くやつだよな?」

「そそー! 元々アニメの曲なんだよ!」


 そう言いながらマイクを握るリヨン。

 歌い出した瞬間だったと思う。


「おお……」


 歌いながらこちらを流し見てウインクをしてくるリヨン。

 その姿はもうリヨンのものとは別の、本来のオーラを隠しきれなくなるのに十分な魅力を放っていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る