第3章 騎士団の絆
3—1 任務:都市遺跡での探し物 前編
日付が変わり、太陽が空のど真ん中までやってきた頃。
シェノとメイティ、ミードン、騎士団、そして僕は、都市遺跡サンラッドの地に降り立った。
頭上ではイーシアさん――空中戦艦が僕たちを見守ってくれている。
イーシアさんから渡された〝無線機〟という機械からは、張り切った声が聞こえてきた。
『援護は任せてちょうだい! レンくんたちには、かすり傷ひとつ負わせないわ!』
「お願いするね、イーシアさん」
廃墟に刻まれた空を見上げ、僕はビルの隙間に浮かぶ空中戦艦に向かって手を振った。
一方、シェノとメイティは辺りを見渡している。
「目的のモノはこの建物のどっかにあるんだっけ?」
「はいなのです。王女殿下によると、簡単に見つかる場所にはないはず、とのことなのです」
メイティが指さす先には、空中戦艦よりも大きな傷だらけの建物が鎮座していた。
かなり広い建物で、簡単に見つかる場所にはないモノの探索。
なんだかこれから苦労しそうな予感がしてきた。
とはいえ、騎士団は300人もいるんだ。
シェノはマントを揺らし、さっそく騎士団の各部隊に指示を出した。
「ミルフィーユ隊はあっちを調べて」
「了解!」
「モカ隊はそっち」
「はっ!」
美味しそうな名前の各部隊は、それぞれ数十人ずつで行動を開始する。
建物前に残されたのは、僕とシェノ、メイティ、ミードンだけ。
僕はミードンを抱っこしながら、ずっと気になっていたことを質問した。
「ねえ、シェノたちは何を探してるの? どうして都市遺跡サンラッドに? 探し物は『虚無』にあるんだよね?」
「にゃ~?」
「あ、そういえばレンには教えてなかったね」
地面に刺した神器の槍『アヴェルス』にもたれかかって、シェノはそう言うだけ。
質問に答えてくれたのはメイティだった。
「私たちの探し物は、不明なのです。『虚無』のどこかにある何か、としか言いようがないのです」
「え!? じゃあ、手がかりはほとんどなしなの!?」
「その手がかりになるモノが、ここ都市遺跡サンラッドにあるらしいのです」
「な、なるほど。それで、その手がかりになるモノっていうのは?」
「この数字が書かれたカバンらしいのです」
パッと目の前に出された紙切れには、ただ『049』と書かれている。
情報量が少なすぎて、よく分からない。
できればカバンの特徴と中身も教えてほしい。
教えてほしいのに、メイティは有無を言わせず、プイッと僕に背を向けた。
「分かったらさっさとついてくるのです」
ただそれだけ言って、メイティは建物に向かって歩きはじめちゃう。
そんな彼女の背中を眺めたシェノは、申し訳なさそうな顔を僕に近づけた。
「ごめんごめん、メイティって任務中はいつもあんな感じなんだ。でも、普段はもっとネコみたいでかわいいんだから!」
「はあ……」
メイティが気を許してくれるようになるには、まだまだ時間がかかりそうだよ。
ともかく、僕たちはメイティを追って建物の入り口に向かった。
入り口に向かう途中、シェノが疑問を口にする。
「で、ここ何?」
「たぶんここは旧文明時代のお店だよ。珍しいものがたくさんあるんじゃないかな」
「ふ~ん、詳しいんだね」
「僕、この近くで廃品回収してたから」
「ええ!? レンが廃品回収!? わりと信じられないかも」
僕も信じられないよ。一昨日まで廃品回収をしていたのに、まさか空中戦艦――イーシアさんと出会い、シェノたち騎士団と一緒に行動することになるなんて。
奇妙な巡り合わせに苦笑いを浮かべながら、僕は建物の中へ。
瓦礫が散らばった三階建の建物は、外から見た通りの大きな建物だった。
中は全部が吹き抜けで、ずらりと並ぶ薄暗い部屋には、旧文明時代の品物がたくさん並んでいる。
部屋の数は、たぶん400は優に超えてるはず。
広大な空間をぐるりと見渡して、シェノは頭を抱えた。
「この中から目的のモノ探すの!?」
「片っ端から探るしかないのです」
「うえ~」
正直すぎる反応をするシェノだけど、僕も気持ちはシェノと同じだ。
こんなに広い建物からカバンひとつを探すなんて、森で特定の枝を探すようなもの。
これからのことを想像するだけでも憂鬱になりそう。
そんな僕たちとは対照的に、無線機からはイーシアさんの楽しげな声が聞こえてきた。
『あらあら、懐かしいわね。この建物ひとつで生活の全てが安く揃うって、クルーの人たちが言ってたのを思い出しちゃったわ』
さすが旧文明時代から都市遺跡サンラッド上空にいたイーシアさんだ。イーシアさんはこの建物が傷だらけになる前の姿を知っているのだろう。
頼りになるイーシアさん――空中戦艦が上空にいてくれれば、僕たちも安心だ。
ただ、気になることがあるから聞いてみよう。
「建物の中に入っても、イーシアさんは僕たちの居場所、確認できる?」
「ええ、このくらいの障害物なら心配ないわ。シェノちゃんがミードンちゃんを撫でようとして、でもタイミングが分からないで困ってる表情も確認できてるわよ」
「ちょっとイーシア!? そんなところは確認しなくていいから!」
ミードンの前でしゃがんでいたシェノは、顔を真っ赤にした。
同時に無線機からはイーシアさんの可笑しそうな笑い声が漏れる。
メイティはミードンを持ち上げ、シェノにネコの撫で方を伝授した。
完全に緊張感が吹き飛んじゃったけど、イーシアさんが僕たちを確認できているのが分かったから、まあいいかな。
こんな感じで、僕たちのカバン探しがはじまる。
僕たちにできるのは、端から端まで建物内を探ることだけ。
瓦礫をどけ、遺物をひっくり返し、騒々しい音を響かせ。
そうして約1時間の時が過ぎる。
カラフルな箱が並んだ部屋を探し回りながら、僕たちは勝手な感想をつぶやいていた。
「手がかりのカバン、中身は何なんだろう……」
「あの腹黒王女、実は趣味の遺物集めにわたしたちを利用してたりして」
「もっと効率のいい探索方法、考えた方がいい気がしてきたのです」
「にゃ~ん、にゃ」
ぶつぶつ言いながら、ひたすらにカバンを探し続ける。
さらに数分の時間が経つと、シェノはふと立ち上がり、目つきを鋭くした。
「待って、近くにマモノがいる」
言われて周りを見ても、マモノの気配は感じない。
いや、僕の感覚なんかよりも、シェノの感覚の方が正しいはずだ。
それに、これだけ物音を立てていればマモノだって寄ってくるよね。
アヴェルスを構え、戦闘に備えるシェノ。
ここでイーシアさんの声が響く。
『私の出番ね!』
直後、小さな青い光線が1発、天井を突き抜け僕たちの近くに落ちてきた。
と思えば、小さな青い光線が次々と空から降ってくる。
にわか雨のように降り注ぐ光線は建物のあらゆる場所に突き刺さり、四方八方からはマモノの呻き声が。
光線が止み、打って変わって静寂が訪れれば、シェノは呆然とする。
「あっという間にマモノの気配が消えた……」
「一瞬だったのです。さすが伝説の空中戦艦なのです」
「にゃ~」
結局、1匹のマモノの姿も見ることなく、マモノはイーシアさんが退治してくれたらしい。
僕は天井にあいた穴をのぞき、空を支配する空中戦艦を見上げた。
「ありがとう、イーシアさん」
『当然よ! レンくんたちを襲おうとするマモノに容赦はしないわ!』
うんうん、これで僕たちも安心してカバンを探せそうだね。
その後も何度か、空から光線が降ってきた。
光線が降るたびに、どこかからマモノの呻き声が聞こえてくる。
もはや僕たちは、光線が降ってはじめてマモノがいたんだと気づくレベル。
たぶんイーシアさん、僕たちからだいぶ離れた場所にいるマモノも倒してるんじゃないかな。
やっぱり過保護なイーシアさんの援護に、シェノはアヴェルスを背中に担いだまま。
「なんかもう、マモノ退治でわたしたちの出番なさそう」
それはそれでいいことだと思う。だって、カバン探しに集中できるんだから。
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