第40話 カナタの夢って何?

「神様が降臨なされた」

「イーシャの姿を借りておられるそうだ」

「神の御力でお薬をお分けくださる」


 村の中を歩くとそんな噂がひっきりなしに聞こえてくる。

 本当は私がやってるのだけれど――。

 でも、これでいい。


「ミラ、カナタ。今日はお仕事ありそう?」

「まだ、大きなのはないな。じーちゃんやばーちゃんが腰を痛めたとかそんなのだ」

「腰を!? それは大変。うーん、リハビリの効果のある薬と回復薬ちょっと追加って感じかな。作ってもらってくるね!」

「おう!」


 ライムを連れて外に出る。


「ライム、お願い」

『はーいラム』


 中に入ると、ソラが薬草を整とんしている最中だった。

 ライムの中にたくさん並ぶ薬草や各種薬を作る材料達。


「ソラ、電流モミモミ草と薬草、あとはー」

『香りミント草をいれるモャ!』

「あ、いいね。スッキリするかも。調合っと」


 日々のお仕事でだいぶレベルも上がってきた。私があがれば、ミラやソラ、ライムも上がる。

 材料の名前、本当はなんだか難しい名前があるんだけど私が覚えられるように勝手に名前をつけて管理している。


 ◇◇◇


「私、ここでお医者さんを始めるつもりなんです。えっと、ライムがレベルアップすると私もレベルがあがるので、……ライムはお薬いっぱい作って皆を元気にするとレベルアップ出来るんです、だから――」


 ウルズさんとヒナツ、カナタの前で宣言した通り、姿を隠しながら私はこの村でお医者さんを開いた。

 たまにイーシャの姿を借りながら。

 あの場所で開業したのは、もし噂が広がったとしても神様の御業であり、私がどこかに連れて行かれなくてすむからだ。

 神様を持っていったり、拐ったり、連れて行ったりはさすがに誰にも出来ないからね。

 今のところ村の中だけで話は止まってる。これはヒナツやウルズさんのお仕事だ。

 彼らはいま村長を二人でしている。別に二人でやっちゃダメなんて決まりはないのだから、二人でしたらいいのではと提案すると二人から頭を下げられてしまった。

 まるで神様からのご指示だと言わんばかりに二人はダブル村長にとりかかった。

 うん、喧嘩はダメだよね。仲良く出来るのはいい事だ。


「ヒナツさん! これ、どこに置いときましょう」

「あぁ、それは――」


 ヒナツと一緒に捕まえてた人達は、実は視診をするとミラと同じ肺毒症を有してた人達だった。元気そうに見えたのに何かの薬で無理やり咳を止めていただけだったのか、内側はかなりボロボロの状態だった。全員、治療を終えると別人のようになって、いまではヒナツの手足をしている。

 皆、帰る場所のない人達だったそうだ。


 ◇◇◇


「よし、出来たっと」


 出来た薬を配ってくれるのはウルズさん。

 神様へのお供え物は私のところにくるけれど、ごはん以外は使いにくいのでライムの中にしまってもらっている。

 お礼をしてくれるなら調合材料をできるだけ持ってきてもらったほうがいいのかなぁ。

 まあ、材料も近場なら自分で行ったりカナタ達が持ってきてくれたりするんだけど。


「今回のは少しピリピリする薬なので、塗りすぎないようにして下さい」

「わかった。伝えとくよ」


 ウルズさんが出ていくと、スクさんのご飯が出てきた。


「おつかれ様。ハルカちゃん、ライムちゃん。あら、ソラちゃんは?」

「もう少し、ライムのお手伝いしてくれるそうです」

「そう。カナタもミラもいらっしゃい。ごはんにしましょう」

「はーい」

「わーい、いい匂い。母ちゃん、今日はもしかして」

「ふふ、きっとミラの予想通りよ」


 ミラは嬉しそうに食卓につく。

 すっかり元気になった。よく食べるし、顔色もばっちりだ。

 そんな彼女と私には秘密がある。


「ミラ、押さえてて」

「了解だよ。ハルカちゃん、体温、体重問題なし。目に見える外傷のみ」

「おっけー!」


 日が高い間の村の外、小さめな魔物相手に私達はお医者さんをしていた。

 村の中だけじゃ私の力を使えないからレベルアップのためにっ。

 白衣とマスクで正体を隠し、逃げ惑う魔物を追いかけ――、違う違う、患者さん達を治療して回ってる。


「ふぅ、ミラどう?」

「ハルカちゃん、注射って出てきたんだけど」

「わ、本当!?」


 看護師さん必須アイテムだよね。

 調合は出てないみたいだから薬は作ったの渡さなきゃいけないみたいだけど、魔物に薬を投与するのは楽になるんじゃないかな。

 飲ませるタイプは吐き出されたりして大変だもの。

 私はポイントの振り方が複雑だからか注射はまだない。よし、注射はミラにお願いしよう。

 ライムが薬を作ってる、その設定を知っている人はカナタを含め、秘密を守ってくれそうな数人だけ。

 私の本当の力の事を知っているのは、契約してるミラとソラとライム。

 カナタになら、教えてもいいんじゃないかなって思ってはいるんだけど、いまだ言い出せずに数日たってしまい。なんとなく、そのままだ。


「おかえり」

「た、ただいま!」


 帰り着くと眉間にシワを寄せるカナタがいた。


「カナ兄、なんか拗ねてない?」

「拗ねてない!!」


 カナタは、自分の力不足を思い知ったらしくてウルズさんにお願いして体を鍛えてる最中らしい。

 たった数日だけど、ちょっぴりたくましくなったような気がする。そういえばカナタのスキルって何なんだろう。

 ウルズさんは守護戦士という、わかりやすいくらい強そうで彼らしいスキルなんだそうだ。

 きっと、カナタもそういうスキルなんだろうな。

 カナタのスキルもミラみたいに全然知られてないスキルだったからレベルアップ出来なくて弱いままなんだって。それが悔しくて知ってる人には口止めしてるみたい。

 自分でなんとかして強くなるんだって言ってるのをミラから教えてもらった。

 ――だから、カナタに聞くのは悪いかなと思って聞いてない。


「ねぇ、カナタ。今からは空いてる? 一緒に薬草探しに行こうよ」

「いいのか?」


 パッと嬉しそうな顔になる。やっぱり一緒に行きたかったんだ。


「カナ兄と二人で行っておいでよ。ボクはライムとソラの面倒をみとくから」

『ライムも行くラムー!!』

『ソラも行くモャ!!』


 ライムとソラはそう言ってるんだけど、ミラは容赦なく二人を抱き上げスクさんのいる部屋へと入っていった。


「あ、えっと、私と二人きりでもいい?」

「あ、あぁ、うん」


 二人で薬草を探しに行く。

 向かうのは私達が出会った場所。

 あの辺りにはけっこう知られていない薬の材料がいっぱいある。

 薬草学のレベルをあげると色々わかるようになった。


「カナタ、あっちのも。あ、そっちのも二、三本お願い!」

「任せとけっ」


 私の跳躍力じゃ絶対に届かない場所にある薬草を取る時、カナタ達が手伝ってくれると本当に助かる。

 そうそう、忘れちゃいけないアルラの存在。

 彼女は材料が草であれば増やしてくれる。一度体に取り込めば栄養と水でたくさん咲かせてくれる。

 だから、持って帰る量は必要最低限ですむ。


「カナタ、ありがとう。手伝ってくれて」


 豪快に崩れた岩の上に座り二人で休憩する。


「帰ったらまたアルラに撫でられるのか」

「あはは、ごめんね。私にふわふわがあれば撫でられ役も自分で出来たんだけど」

「いや、こっちこそごめん。無神経なことまた言っちゃった」


 あぁ、まだ私のこの姿が元からだって思ってなかったのかな。


「カナタ、カナタ」

「ん?」


 カナタの手を引っ張って、私の耳に当てた。


「大丈夫。これが私だから」

「ハルカ」


 伝わったかな。すっと手が離れていく。


「俺、まだまだ弱いけど」

「ん?」

「ハルカが……ハルカの夢、――治せる人がいるなら、みんな治してあげたいだっけ」

「うん、そうだよ」

「これからも一緒に手伝っていいかな」

「手伝ってくれるの。すごく助かるよ」

「あ、手伝うというか、うー」

「うー?」


 カナタが頭を下に向け悩む仕草をする。どうしたのかな。


「ハルカの夢がみんななら、俺はハルカを治せる人になるから」


 その言葉で私は思い出す。

 大きくなったら彼方先生の隣に立って一緒にお仕事できるお医者さんになりたい。先生みたいに、皆の命を救ってあげるんだ。

 カナタも同じ様に思ってくれたのかな。そうだと、すごく嬉しい。


「ありがとう、カナタ。一緒に頑張ろうね」


 まだまだ、イーシャをもとに戻すにはレベルが足りないみたい。もっと頑張らないと。


「帰ろっか。カナタ」

「そうだな。またおぶっていくか?」

「えへへ、バレた? 実はけっこうへろへろだったりするんだ。お願いしていい?」

「いいぞ」


 カナタの肩に手をのせる。やっぱり、私より少し小さい。だけど、カナタはこの体でしっかり守ってくれたんだ。


「いいよー。よろしくお願いします」

「あぁ!」


 そうそう、褒め過ぎちゃダメなんだよね。でも――。


「これからも一緒に頑張ろうね、カナタ」


 ありがとう、カナタ。カナタのおかげでみんなを元気にするお医者さん目指して、これからも頑張ろうって改めて思えたんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る