第34話 すごい量のこれって何?

 ミラは村の入口で待っていた。無事を確認した途端走り出して抱きついてきた。ごめんね、心配かけて。

 結局、獲物は何もなく。晩ごはんの一品を飾れないねと三人で言ってるとウルズさんとスクさんがため息をついていた。


「あのね、すごく危なかったんでしょう。わたし達も何かあったらって気が気じゃなかったのよ」

「そうだぞ。たまたま何事もなく済んだだけだ。気をつけないとだぞ」

「すみません……」


 一緒についてきてたイツキが謝る。


「オレの使役獣がお二人を危険な目に」


 ウルズさんとスクさんが黙ってしまい、どうしたものかと考えた。


「イツキさん、一緒にごはん食べませんか? スクさん、私手伝うからいいですか? イツキさんに魔物使いの事もっと聞いてみたいんです」

「え、あ、いや、それは――」

「そうね。なら、そうしましょう。イツキさんも寄っていってくださいな。今日はわたし達だけじゃ食べきれないくらいの食材があるから」

「じゃあ、決まり。って、スクさん食材あったんですか?」

「それがね」


 お家につくと、治療のお礼としてたくさんの食料や布が届けられていた。

 確かにこれは多すぎるかも。


「食材は日持ちするものを中心に頂いたけれど、ハルカちゃん、良かったかしら? 布はハルカちゃんにそのまま渡すから全部貰っておいたわ。これで服を作ってあげるわね」

「こ、こんなに!?」

「まだまだ足りないって、これからもちょくちょく持ってくるつもりみたいだったけど」

「まだ!?」

「何言ってる。それだけすごい事をしたんだぞ。ハルカちゃん」

「そうよ。うちだってまだまだ足りないくらいお礼をしなきゃならないもの」

「あの、食材はこの家にいさせてもらう分として渡しておいても大丈夫ですか? 私、まだ料理は……」

「ありがとう。使わせてもらうわ。食べちゃ駄目ってなった時は言ってね」

「こんなたくさん、たべきれませんよー」


 それにしてもこれだけあってまだ足りないって言われるほどのお金が薬を買うためにいるんだ……。

 皆、子どもの為に頑張ってお金集めて買ってたんだろうな。きっと、お父さん、お母さんも――。

 治療代を払うのはありがとうの気持ちだ。無理のない範囲でお礼をもらうのは悪い事じゃないかもしれない。こうやって代価をもらえば、私のごはん代やお家にお世話になるお金分くらいにはなるよね。カナタ達に迷惑がかからないように出来るよね。


「ハルカ? 何考えこんでるんだ?」

「え、あ、あはは。何でもないよ」


 そうだ、この村でお医者さんをしよう!

 この村にはいないって言ってた。なら、歓迎されるんじゃないかな?


「ハルカ、ニマニマ何笑ってるんだ?」

「え、だから、何でもないって」


 スクさんのお手伝いをカナタ、ミラ、私の三人でする。お皿を並べて、飲み物を注ぎ、出来上がる料理を受け取ってテーブルに置く。火で炙った大きめの魚のいい匂い。もしかして干物かな。昨日も食べたパンみたいなクッキー。それとお肉が入った野菜炒め。丸い小さな赤い実はもしかして、デザートの果物なのかな。


「なんか、本当にいいんですか? オレが入って――」

「ハルカちゃんの頼みだもの。聞かせてあげて。魔物使いの事を。わたし達が説明するより魔物使いのあなたのほうがずっと詳しいでしょうから」

「じゃあ、依頼料ってことでいただきます」

「はい、どうぞ」


 イツキがスクさんに確認を取った後、手を伸ばす。


「美味しいです。これも……これも……」


 イツキはなんだか懐かしそうな顔をしていた。どうしてだろう、そう思ったけれど答えはイツキの話を聞いてすぐにわかった。

 魔物使いは同じ場所にずっと居続けられない。さっきのような暴走を村や街で起こさないようにするためだそうだ。魔素を定期的に供給するため村や街と魔物使いの聖域を行き来する生活なんだそうだ。

 魔物使いの聖域は、公平差を保つため管理され周辺に街を作れないようにしている。

 誰かが囲い込んでしまえばたくさんいる魔物使いが大変な事になるからだそうだ。

 だから、魔物使い達は近場に家を構える事が出来ず、あちこち放浪する者が多い。その放浪によってありつける仕事もあるからだ。


「家を思い出す。ちっちゃい弟妹達がいた。もうお前らよりでかいだろうけどな。母さんのごはんもこんな感じだった気がするよ」

「大変なんですね」

「そうだぞ、魔物使いは大変なんだ。なのにお前ときたら……」


 イツキの顔が赤い。もしかして、大人達が飲んでるのはお酒なのかな。お酒で酔っ払うと本当に赤くなるんだ。


「すまん、魔素を作ってもらったのに愚痴を言っちまった」

「いえいえ、貴重な話ありがとうございます」


 ウルズさんとスクさんはイツキのように赤くなる事はなく片付けをしながらパタパタと動き出したら。

 カナタとミラも食べ終わったみたいで片付け始めてる。

 私も片付けなきゃとお皿を持って立ち上がろうとした。すると、イツキさんの手が私の腕を掴んできた。


「イツキさん?」

「お前、オレと一緒にまわらないか? もっと魔物使いの生き方を教えてやる。だから――」


 うーん、そう言われても魔物使いじゃないから生き方を教わる必要がないんだけど。どうしよう。なんて言えばいいのかな。


「あの、イツキさ――」

「ハルカは俺がここに住めばいいって誘ったんだ! 魔物使いの生活は必要ないんだからなっ」

「そう! ハルカちゃんはボクと一緒にお仕事するんだから!」

「え、ミラ何の話だ?」

「えー、ハルカちゃんとボクのヒミツだよ」

「はぁ? と、とにかく! ハルカは俺達と暮らすんだ。もし、魔物の聖域に行く時があるなら俺がちゃんと連れて行ってやる。だから、ダメだぞ! ハルカ!」

「そうだよ! ハルカちゃん!!」

「ふぇ、あ、あの――」


 カナタとミラに捕まり右に左に引っ張られる。二人とも、一緒にいてもいいなら私はここで――。


「あははは!」


 見ていたイツキが吹き出したあと笑い出す。


「そうだよな。魔素を作れるんだもんな。村から出ていく必要がないならオレとこなくてもいいんだった!」


 そう言うイツキの顔は笑ってるのに寂しそうだった。


「あの、イツキさん」


 両手両肩を封印されながら私は言った。


「それなら、イツキさんがこの村に住んじゃえばいいんじゃないですか?」

「……は?」

「えっと、だから魔素不足が心配で一つの場所に居続けられないんですよね」

「そうだ」

「だから、私が魔素を作ればここにずっといられるじゃないですか」


 目が点になるというのはこういうのをさすんだろうか。イツキの笑いがとまった顔がそんな感じだった。


「あの、私魔素の量もわかるし、無くならないように定期的に診てあげられますよ?」


 こちらを見ていたイツキが右手で目を覆い隠した。

 そのあと、当分の間声を出さず肩で笑っていた。

 私、そんなにおかしい事、言ったのかなぁ。

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