第31話 魔物使いの辛い事って何?

「おい、何してるんだ」


 怒ったような、どうしたらいいの戸惑ったような、そんな声が飛んできた。


「え? あ、イツキさん……でしたよね。こんにちは!」


 声の主はオークの主、魔物使いのイツキ。


「おぉ、こんにちわ。じゃ、ねー! オレの使役獣使ってなにしてるんだ!!」

「えっと、狩り?」

「狩りだろ」

「狩りだね」

『狩りラム』

『狩りモャー!』


 カナタとミラ、ライムとソラも同意してくれている。いま私達は村から少しだけ離れた場所で狩りをしている。イツキのオークにも手伝ってもらっていた。

 晩ごはん用に何か獲ってくるとカナタが言った。そこから、生きる為に私も出来るようにしなきゃと思ってカナタがどんな事をするのかみたいと提案した。ミラはリハビリ兼ねてついていきたいといい、ライムとソラは私が行くならとついてきて……。


「いや、だから何でオレのオークがお前らと遊んでんだよ」

「え、誘っちゃダメでしたか?」


 オークに近付いたのはちゃんと治ってるかどうか調べたくてだった。ちょっと怖いけど、私が治療した患者さんでもあるからね。

 視診では特に問題は無さそうだったけど、HPバーの下の下がもうすぐ無くなりそうだなと思った。これはライムにもあるけれど、こっちはほぼ満タンだった。この三つ目のバーは何故か、カナタやミラ、私やソラにはなかった。いったい何だろう。ガソリン? いやいや、それはないか。

 まあ、だからもしかしたらどこか具合が悪いのかもと思って話しかけてみた。ただ、どう言えばいいかわからなくて一緒に狩りしませんか? になってしまったのだ。


「お前もなんで勝手に動いてるんだよ、マル!」

『申し訳ない。主……』

「わー、ごめんなさい。私が勝手に誘ったんです」

「言葉がわかるのか。そしてコイツがお前のいう事をきいたと――」

「え、あ、言葉はわかります。言う事をきいたというか一緒に狩りしようってさそったらついてきてくれたんです」


 イツキは考えるような仕草をしたあと私を見た。


「魔物使いの素質はかなりみたいだな。お前」

「えっと、そ、そ、そうですか?」

「何慌ててるんだよ。まあ魔物使いの素質があるって言われても嬉しくもないだろうけどな」

「え、何でですか?」


 そういえば、前にカナタが魔物使いだから追い出されたのかみたいに言ってたような気がする。もしかして、魔物使いはそんなにいいスキルじゃないのかな。


「やっぱり、親から聞かされてないか」


 うん、私の両親はこの世界にいないしここの生まれでもない。だから聞けるわけはないんだけど。少し気になる。魔物使いだって言って誤魔化すなら魔物使いの事知らないとだ!


「辛いかもしれないが知っとけ。そうだな、まずは一番大事な事を教えておいてやる。魔物はな、魔素っていうのを食って生きてるんだ。魔法に使う魔力はわかるか?」

「はい」


 ミラとカナタは知ってる話なのか、神妙な顔で聞いている。ライムとソラは狩りがもう終わりなのかとしょんぼりしながら横にいた。


「そうか、それをもっと細かく小さくバラバラにした物が魔素。魔力のもとだ」

「魔素……、それが何か?」

『ライム、それ食べるラムー! 美味しいラム』

「そうだ。魔物は魔素を食って生きてる。空っぽになると魔素を求めて見境なく暴れだす。暴走だ。ただそこらへんにいるやつらは自然に存在する魔素で生きていけるんだが、魔物使いが契約した魔物はそうはいかなくなるんだ」

「契約すると何が変わるんですか?」

「自然の魔素だけでは足りなくなるんだ。だから定期的に契約主、オレ達魔物使いが使役獣に魔素を与えなくてはならない」

「なるほど」


 ここでふと思い出した。もしかして、ライムの謎の三本目のバーは魔素だったりするのかな?


『ハイ、ハルカ。魔物の魔素飽和量の表示になります』


 もふちゃんがふよふよと飛んでくる。やっぱりそうなんだ。なら、ライムはまだまだいっぱいあるのかな。


「魔素ってどうやって与えるんですか?」

「それはな、自分の魔力を魔素に変換するんだ…………」

「ふむふむ」


 あれ、でも私魔物使いじゃないから出来ないのかな?


『イイエ、ハルカなら調合スキルの応用で出来ます。魔力から魔素を作りますか?』


 もちろんだ! いつも通りならこう言えばいいのかな?


「魔力魔素変換!!」

「まあ、これはオレ達魔物使いには……って何ぃッッ!?」

「あ、これで大丈夫ですか? 何だかみかん味の飴玉みたいなのが出来たんですけど」


 イツキの目がまんまるになった。イツキだけじゃない。カナタ、ミラもだ。


「は、いやいやいや、は? なんで? ……いや、え、何で出来るんだよ?」

「え、出来ちゃダメでしたか?」

「――――あー、いや。出来るならそれでいいんじゃねーの」

「そっか。ライム、これ食べてみてー」


 なんだか、おかしな事をしたのかもしれない。こういうのははやめに証拠隠滅をしなくちゃとライムの口に放り込む。


『甘くて美味しいラムー!!』


 視診を使いライムをみるとほんの少し減っていた部分がなくなって完全に満タン状態になっていた。

 なるほど。たまにこれを作ってライムにあげないといけないのか。覚えておこう。


「はは、お前ほんとやべーな。魔物使いとして最強も夢じゃないんじゃないか。はやめにスライムは卒業しとけよ」

「え、ライムと離れるつもりはないんですけど」

「なっ……。あー、もう好きにすればいいさ。お前は――――」

「それで、他に魔物使いとして大事な事は?」

「ない!!」

「えぇぇっ!?」

「お前に教える事なんてねーよ!! この天才がっっ!!」

「えぇぇぇぇ!?」


 イツキは拗ねたようになり、カナタとミラは嬉しそうにしていた。私が何をしたっていうんだろう。

 辛い事っていったい何なの?

 聞き直してもイツキは答えてくれなかった。


「あのな、ハルカ。魔物使いは――」


 カナタが代わりに教えてくれるつもりなのかな。

 カナタの方を見ようと顔を向けるとオークが苦しそうな表情を浮かべていた。


「カナタ、待って! ――どうしたのオークさん?」

「――ッ!! どうした!? マル! まさか」


 グォぉぉぉァァァァァァァアッ!!


「この前見てもらった時にはまだ一月は余裕だっていってたのに……、クソっ!!」


 オークの目が真っ赤に充血していく。まるで最初に見た時のように。


「おい、お前ら逃げろ!!」

「え?」

「いいから、はやくッ!!」

「でも、これは」

「魔素がねーんだ!! どういうことかさっき言ったろ!!」


 魔素がなくなると見境なく暴れる。さっき教わった事だ。

 オークの右腕が私めがけて振り下ろされてきた。

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