第18話 植物観察って何?

 ウルズさんが説明でいなくなった。帰ってくるまではこれからどう動くことになるのかわからない。なので、先にやっておかないといけない事をすることにした。

 まずはスクさんが用意してくれてたお昼ごはん、パンとクッキーをかけ合わせたみたいなのと、魚のスープを食べた。どっちも食べた事がない味がした。


「ごちそう様でした。カナタ! 渡したいものがあるの」


 お皿をカナタみたいに片付けて部屋に連れて行く。

 ライムに出してもらった両手にちょうどのるサイズのアルラウネに頼まれていた物をカナタに渡した。


「カナタ、これ」

「ん? なんだこれ」

「アルラウネさんの魔核。カナタの側に埋めて欲しいって」

「え? 魔核って……魔物の心臓じゃないか」

「うん。あの時ちゃんと説明出来なかったけどアルラウネさん、し……しんじゃ……て……」


 泣かないと決めていたのに、また涙がこぼれそうになる。


「泣くな、ハルカ」

「そうだよ、ハルカちゃん。これ、アルラウネは死んでないよ?」

「えっ!? わっ!?」


 ミラも一緒に部屋の中に入ってきてたみたい。全然気が付かなかった。


「え、ミラ? 死んでないってどういうこと?」

「アルラウネって植物型の魔物だよね? なら、魔核が本体で、ヒト型をしてるのは茎や花。栄養をためたら本体から茎や花を落とすんだけど、本体が潰れたりしないかぎりはまた花を咲かせる事が出来るんだよ」

「ミラ、すごい! 詳しいんだね」

「ずっとベッドの上だったから、父ちゃんや母ちゃんから聞く話しか楽しみが無くて全部覚えてるんだ」


 昨日まで病弱で儚かったミラは見違えるほど元気にハキハキと答えてくる。


「いっぱい喋れるって、本当楽しいね。ハルカちゃんのおかげだよ。ありがとう」


 すごく可愛い笑顔を向けてくれる。元気だと知ってもらう為か、くるくると回って少しよろけながら、まるでイタズラっこみたいに。


「それでね、続きなんだけどこの魔核を土に埋めればアルラウネは咲く……んだけど」

「ほんと!?」

「本当、本当。だけど、アルラウネって毒を持ってるよね? だから、外で育てたりすると危ないし、アルラウネにとっても危険だと思うんだ。だから――」


 ミラは小さな壺をスクさんからもらってきた。

 のぞきこむと下に穴がある。何に使う壺なんだろう?


「これに土をつめて植えよう。カナ兄」

「任せとけ!!」

「下にまず小石だよ」

「おぅ!」


 あ、何だか懐かしい。幼稚園の頃、朝顔育てたっけ。お母さんが小石をつめて、土をいっぱい鉢に入れて……。そっか、壺を鉢代わりにするんだ。

 すぐに土まみれのカナタが戻ってきた。手も顔もいっぱい土がついている。どんな風にしたのかなんとなく想像してしまう。きっと、犬が泥遊びするみたいに楽しそうに……。


「ハルカ、何か嬉しかったのか? すごく笑ってるな」

「あ、ううん。何でもないの」

「そうか、でも笑ってくれる方が俺は嬉しいな」

「え、あ、そう……かな?」


 私も、笑顔がいっぱいだったら嬉しい。悲しい顔よりずっとずっと。


「これに魔核を埋めればいいのかな?」

「うん。大丈夫だと思う。あとは水……受け皿もいるね。日光は壁際の採光穴のところに」


 用意を終えて床に置くとまるで待っていましたといわんばかりに可愛いらしい芽が顔をのぞかせた。


「ちっちゃい!」

「おぉ、はやっ」

「ほら、元気だったでしょ?」

「ありがとう、ミラ、カナタ!!」


 咲いた。だけど、どう見てもちっちゃい。この小さな芽が本当にあのサイズのアルラウネになるのかな?


「ここからどう成長するんだろう。知ってる? ミラ、カナタ」

「うーん、普通の植物みたいに大きくなるのかな?」

「わっかんねー。俺見た事ないし」


 三人で小さな芽を観察しながらあーなるんじゃないかこーなるんじゃないかと話し合う。すごく楽しい。こうやってお友達と学校でワイワイしたかった。動けるって、自由って本当に楽しい。

 だから、ここで平穏に暮らし続ける事が出来たらいいな。もふちゃん、ライムとソラ、カナタとミラとウルズさんとスクさんと皆で――。

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