第11話 秘密の調合室って何?

 失神したアルラウネの前で、カナタと話しながら目を覚ますのを待っている。彼は何度か鼻に詰める葉っぱを取り替えに走ったりしていて、その間はレベルが上がって増えたスキルポイントを振り分けていた。さっきよりまたレベルが上がっていて、かなり色々振り分けられた。


『治療に関する事をすることによって経験値が貯まっていきます』


 そうもふちゃんが言ってた。お薬でミラを治したのと、さっきのライム達への治療で経験値がたまったという事だろう。

 …………というか、多すぎる。スキルツリー選択肢が多すぎて、どれに振るのがいいのかわからなくて困ってしまう。どれだけ覚えることが増えるんだろう。実際のお医者さんもこんなにいっぱい覚えることがあるんだろうな。やっぱり、先生ってすごいんだと改めて尊敬する。


「どうだ?」

「んー、まだみたいだね」

「こしょばしてみるか」

「えっ?」


 自分の尻尾を引っ張ってカナタはアルラウネの顔にこしょこしょもふもふ当てていた。

 ちょっと羨ましい。ので、私はライムのぷにぷにとソラのもふもふを堪能しておく。

 ふぁっという声とともにアルラウネの目が覚めた。顔はまだ真っ赤だったけど、今度は失神しないみたい。

 深呼吸をしてから彼女はまず謝ってきた。カナタの友達の私達をイジメてごめんなさいと――。それからライム達を見て首を捻っていた。


『アレ? 花粉催眠が切れテル??』


 そう言いながら……。

 はい、私が解毒しておきました。カナタがアルラウネの言葉を理解してなくて助かった。


『さわわわわ、触っていい?』


 どうやらカナタの耳に触れてみたいようで、手を震わせながらカナタへと伸ばしていた。


「カナタ、耳触ってみたいんだって」

「ん、耳か? ほら」


『はぁぁァぁん』


 嬉しそうに撫で回すアルラウネ。あれって触ってもいいんだ。あとで私も撫でさせてもらおう。


『ズットずっと、ケモミミのお友達ホシかった。ただ、どうしてかここノ下までは通るんダケど、上まで来てクレなくて』


 それはそうだ。だって、獣人族にとってこの花畑の匂いがきつすぎるのだから。


『昨日、花畑荒らしに豚頭きた。ダカラ、花粉で催眠かけた。ケモミミの男の子連れてきてッテ。でも、必要ナカッタ』


 ん? んん? 今のはちょっと聞き捨てならないような。


『カナタ、ずっとずっとコウシテていい? ズットここにイテ?』

「なぁ、ハルカ。ずっとこうしてなきゃダメなのか?」


 う、うーん。どこまで伝えてもいいものなのか。アルラウネはただ獣人のお友達が欲しかっただけなんだよね。でも……。

 彼女の足下は地面に植わっている。根っこがここにあるなら移動は無理じゃないのかな。だから、えーっと。


「カナタ、ずっとここにいて欲しいって。でも――」

「それは無理だ。俺、ミラを治さなきゃならない。帰らなきゃ」


 みるみるしょんぼりしていくアルラウネ。どうしよう。これじゃあ、解毒草のお願いも――。


「でも、解毒薬の材料をくれるなら、頑張って会いに来る。約束する」


 萎れてたアルラウネの表情がぱっと明るくなった。

 こくこくと頷き、蔓で花畑から次々と解毒草を引っこ抜いてカナタの前へと積んでいった。


「こんなに、おおくないか? 花畑なくなっちまうぞ」

『カナタに全部あゲル。――だからマタ会いにきて』


 彼女の顔は病室で読んだ少女漫画みたいな恋に落ちた女の子の顔だった。

 わぁ、好きになると本当にこんな顔になるんだ。

 ただ、少女とはかけ離れたグラマラスなアルラウネとどう見ても子どもなカナタって釣り合うのかなぁ。なんて、考えているとカナタが草をライムに渡してほしいとつついてきた。そうだ。調合はライムが持ってるスキルって設定だった。


「わかった。じゃあライムにお願いするね」


 ライムは心得たラム! と言って、口を大きく開ける。

 そして、食べるかと思いきやゆっくりと閉じた。


「あれ?」

「どうした?」

『ハルカ、いい事考えたラム。ライムの中で調合するラム』

「え?」

『ライムの中なら外から観測されなくてすむラム! 作り放題ラム! 手伝ってくるって言えばいいラムー』

「何、いってるんだ?」

「あ、えっとね。調合するの手伝って欲しいみたい。だから、ちょっとライムの中に行ってくるから、ここで待ってて!!!!」

「はぁ!?」


 伝えた途端、視界がライムグリーンに染まった。


 ◇◇◇


「三度目となるとだいぶ慣れた気がする」


 今回は大量の解毒草と一緒にライムの中にやってきたようだ。


「もふちゃん、材料ってこれだけでいいの?」

『ハイ、あとは薬草と空気中の水分を少量で作成可能です』

「あ、容れ物も」


 手頃な容器を近くに持ってきてから私は調合を開始した。

 スキルを発動させると少しだけ残っていた特徴的な匂いは完全に消え、ほのかに柑橘類を思わせる匂いへと変わった。


「きれいなオレンジ色だぁ」


 回復薬と同じように瓶に入れておく。栓はコルクみたいなのでキュッととめる。もしかしてこの世界にも似たような木があるのかなぁ。

 完全に一緒ではないだろうけれど、似たような生活が送れるのは少しホッとする。さすがに縄文人的な生活は私には無理だろうから。


「そうだ、予備も作っておこう」


 一個で足りなかった時にがっかりさせたくないと思って予備で五個ほど作っておいた。作ったあとに気がついた。もふちゃんに確認しておけばよかったって。


『ハイ、ハルカ。一つで解毒は完了する予定です』

「あはは、やっぱり? ちなみにどれくらい持つのかなぁ」

『ハイ、ハルカ。ハルカの魔法の力が込められているので水薬であれば半月程は持つはずです』

「おぉ、半月も」

『ハイ、それに解毒薬は他にも使用できるタイミングがあると思われます。回復薬とともに数個のストックをオススメします』

「なるほど。よーし」


 こうして、回復薬十個と解毒薬十個。ついでにあのにがーい魔力回復の草を使った魔力回復薬を三個ほど作っておいた。一滴だけ手に取りなめてみると苦味はほぼ消え、砂糖たっぷりなコーヒー牛乳味になっていた。これなら私でも飲めそう。


「さて、ライムー! いいよー!」


 外に帰りたい場合、声をかける。一応、中の様子はある程度わかってるみたい。


「おーい、ライムー?」


 だけど、外に戻る感覚はなく。立ち尽くす。

 うーん。さっきまで寝てたからまた寝ちゃったのだろうか。

 そういう時の為の安全スイッチはソラに教えてもらっている。


『ここモャ。ここを思いっきり――』


 ぷにゅぷにゅぷにゅぷにゅと手で揉む。

 ライムにとって人間のこしょばゆいツボみたいな場所らしい。

 ぐるりんと視界が変わり、外が見えた。


『ハルカ、まだ出てきちゃダメラム!』

「え?」


 外の眩しさで閉じた目をもう一度開くと、カナタがふっ飛ばされていくちょうどその時だった。

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