第2回 電撃小説大賞(1)

 これを書いているのは4月10日の夕方です。いまごろ電撃大賞のさいごの追い込みに入っている作家のみなさんも多いでしょう。時間はまだありますから頑張っていただきたいです。ウェブ応募もできるので締め切りは23時59分でしょうね。


 電撃大賞といえば、アニメ化にもっとも近い公募こうぼですね。選ばれることでコミカライズやアニメ化、映画化の可能性のある夢の舞台です。近年ではむしろ狙い目の賞ともうわさされています。

 電撃大賞を受賞すると電撃文庫やメディアワークス文庫などからの出版が決定します。電撃文庫は2023年で30周年を迎えたレーベルですがどんな小説が出版されているのでしょうか。思いつくのは橋本紡はしもとつむぐ「半分の月がのぼる空」やハセガワケイスケ「しにがみのバラッド。」などをよく覚えています。どちらもアニメ化して学校帰りの夕方に見ていました。


 電撃文庫というとささやかな恋愛とファンタジーのイメージがあります。ゼロ年代の電撃文庫、じっさいはどうだったかは分かりませんが、いまのGA文庫のような作品が並んでいたように思います。もちろんくわしく調べれば、異世界ファンタジーもあり、戦記ものもあったはずですが、わたしが電撃文庫に描くイメージは若者向けであり、みずみずしい作品を扱うレーベルというイメージでした。


 現在の電撃文庫、前述したとおり30歳になりました。


 30周年まででかなり私のなかでも電撃文庫のイメージは変わりました。さきほど挙げたイメージからもともとあったであろう、見えなかったレーベルのカラーをむしろ打ち出している印象です。「86-エイティシックス-」や「ユア・フォルマ」といった戦記やSFはたしかに電撃文庫にはあったでしょう。しかしゼロ年代に中学生や高校生だった私からみるとすこしレーベルの色が変わったように感じました。「はたらく魔王さま!」もたしかにそう。若者のイメージそれ自体がここ15年で変わったように感じます。


 ゼロ年代という時代は若者はどこか閉鎖へいさ的な空間にいるというイメージが強かった。学園や大きくいえば社会、そこから抜け出すための装置そうちとしてライトノベルがあった気がしますね。「キノの旅」も科学技術かがくぎじゅつや社会システムが高度化したけれど、倫理観りんりかんや大人の持つ意識、道徳観が後退した世界から「旅」を選ぶことで脱出や逃亡をする、そういうロマンがありました。


 いまはむしろ社会や現実とは否応なしに戦わなければいけない。対峙たいじして葛藤かっとうして選択しなければいけない。そうしなければ死ぬ可能性すらある。そんな世界が提示されます。ある意味、ハリウッド的な物語の王道をゆくわけです。読者のこころのなかの英雄を目覚めさせるのです。

 このへんはジョーゼフ・キャンベル「神話の力」にくわしいです。この物語の基本構造はとてもシンプルです。「行って、通過儀礼つうかぎれいを行い、帰ってくる」それだけです。このストーリーは「スター・ウォーズ」にも影響を与えています。ジョージ・ルーカス自身、ジョーゼフ・キャンベルの著書を熱心に読んでいました。


 ゼロ年代に中高生だった私もいま大人です。電撃文庫も気がつけば30歳。あのとき外の世界へ脱出して出て行ってしまった私の英雄はいつか帰ってくるかもしれない。その戦いがいま目の前にあります。

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