マチェット アンド ガジェット

古泉椎名

前説  ロングタイム2000

 科学者か政治家か思想家か何か、よく知らないけどそういう連中の誰かがふと思ったらしい。

 永遠の命が欲しい、って。


『ロングタイム2000』


 永遠の命が手に入る薬が誕生した。

 キャッチコピーは、

『あなたの寿命あと何年? 私は二千! ロングタイム2000!!』

 価格も据え置き二千円。

 一箱十二錠入り、用量は年齢に関係なく二十四時間で一錠。


 馬鹿みたいでしょ? 実際馬鹿だったんだこれが。

 大体、二千年生きられるようになる薬、その効果はどうやって確認するんだ。

 こんな怪しい薬、どういう経緯で薬局やらスーパーに陳列できたのか知らないが、もちろん速攻で回収されることになった。

 市場に出回っていた期間、たった一日。

 店先の開店時間とかまで、もろもろ加味したら、一般人が手に入れられた時間は、十二時間もなかったかもしれない。

 でも、そのたった十二時間、たった一日で全てが大きく変わった。


 薬を切らした服用者が、二十四時間後、禁断症状を起こし始めた。

 その症状、生きている人間に噛みついて、もぐもぐ。

 正確に言うと、生きていれば、犬でも鳥でも魚でも何でも良いらしく、その辺の雑草を食んでいる奴さえいた。

 そして服用者に噛みつかれた生物の一部は、服用者と同じ症状を二十四時間後に訴え始める。

 いずれも正気を失って、痛みだって感じない。

 ロングタイム2000を切らした生物は、ロングタイム2000を服用していない生物の生命を食べることによって、その寿命を延ばそうとする。

 まあ、別に食べなくても緩慢な動きでその辺をうろうろしているから、不老不死といえばそうなのかもしれない。

 

 でも、極稀に戻ってくる奴がいる。

 最後の薬の服用から二十四時間以上が経過して立派な生ける屍になった後、再度ロングタイムを飲んだ連中の中に、正気を取り戻す奴が。

 エタニティと呼ばれるそいつらは、他者の生命を食べることも継続的な薬の服用も要らなくなる。

 若さを保ち、食事も不要、知性を取り戻した完全生命体。

 二千年生きるのかどうか判明するには、あと千九百七十年間くらい待たないといけないけど。

 

 だから、この世界には、生き物は四種類。

 普通の『人間』

 ロングタイム2000を定期服用し続けなければならない『常用者』

 ほぼ手遅れな生ける屍の『服用者』

 それから『エタニティ』

 

 私? 私はどれかって?

 見れば分かるでしょ。こんなに必死になって、倉庫の段ボール箱をひっくり返して薬の箱を探してる。

 正気を保ったまま、こんな風に話ができている。

 つまり、そういうこと。

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