第13話 うどん、川について学ぶ

 領主の館の奥庭、東屋にうどん、マイエ、ケイ、ワラの4人が座っている。

東屋は赤や白の花が咲く灌木と、十分に間隔をとって配置された木立に囲まれている。

此処が領主館の敷地内にあるのが驚きだ。


 ユニが、クッキーと紅茶を4人分運んでくる。


「ごめんね、ユニ。」

マイエが自分でお茶の支度をしなかった事を謝る。


「良いのよ、うどん様とワラさんもいらっしゃるのだし。

ケイは余計だけど。」

と、ユニが静かな声で言う。


「えー、自衛団の連絡係で来たんだからサー、私も仕事仕事。」

ケイが軽い口調でユニに言い訳する。


「今日はハチナイ様はいらっしゃないのですか?」

ユニは最近いつも一緒のハチナイが不在なのを気にした。


「今日はなんだかご用事が有るとかで、お屋敷に来れないそうなの。

サクラさんが関わって無ければいいんだけど。」

マイエもハチナイから、"今日は来れない"としか聞いてない。


ユニが"ふーん"と東屋を離れる。


「うどん様、今日はどんな御用で。」

ワラがうどんと話せる楽しさを隠そうともせずに聞く。


「色々この世界での疑問があったので、ワラさんに教えて貰おうと思って。

でも、ケイちゃんの話から聞きませんか?」


うどんがそう言ってワラとケイの顔を見る。

ワラもマイエも頷く。


「じゃあ、あたしから話すね。」

ケイがクッキーをモグモグしながら話し始める。


「昨日の日暮れ前に、吊り橋の土台が両岸共に完成しましたー。」

ケイが手でグーを作る。


「今日からその土台に頑丈なロープを渡して、その後で足場板を張るんだって。

そしたら見事架橋工事完了。

あと3日あれば出来るんじゃないかって、親方が言ってた。

架橋の進み具合を、うどん様に報告しなさいって親方が。」


「うほぉぉぉ。」

ワラが震える声を出した。

感動している。


「んで、衛兵隊と自衛団の人材募集も始まったよ。」


「吊り橋の警備に常駐する人数が必要で、今の人数では、どちらも足りませんからね。40人程度増員予定です。」

とワラが補足する。


「吊り橋が公開されると、きっとこのスワンを目指して多くの冒険者がやって来ますので。」


「スワンの街がもっともっと活気に溢れるんですね。」

うどんが感慨深く言う。


「うどん様のお陰です。」

ワラがうどんを見つめる。


「今作ってる吊り橋は、足場板の幅が2mって言ってた。

ニューランドに行く人、

スワンに帰って来る人がすれ違える幅だね。」


「凄い、いよいよ皆さんがニューランドに渡れる実感が湧いてきた。」

マイエが、川の景色を思い出しているのか、遠くを見る目で言う。


「で、あたし衛兵隊に就職する事になった。」


「なんで? 自衛団じゃないの?」

マイエは不思議に思う。

ケイの父ヤモは自衛団の団長だし、兄のヤスも自衛団だ。


「自衛団も人は足りないんだけどさ、実際あたしもここ何日も自衛団で警護の仕事してるし。

でも、衛兵隊の方が人を増やすの難しいの。」


「えっ?なぜなのケイちゃん。」

とうどん。


「自衛団は実力のある人なら割と審査が緩いの。

スワンの街と、吊り橋を守るのが目的の組織だから。」


「衛兵隊はロフ様の警護や、この屋敷の警備も担っています。

ラビナ領や、ロフ様に対する忠誠心が何より必要ですので。」

ワラが補足する。


「そういう事、なので前みたいに気軽にマイエと遊べなくなりそう。」


「そうか、私達も大人になったって事ね。ケイが就職か…。」

マイエがしんみりする。


「お給料貰ったら、"ヨコテの竈"のステーキを御馳走するからね。

楽しみにしてて。」

ケイがマイエを向いて言う。



(ケイちゃんが初任給を貰う頃、俺は大鷲の命で、スワンを離れて旅に出ている。

マイエちゃんもその旅に同行するのか、それともスワンに残るのか…。

大鷲に付与されたスキル、"強制連携+3"を使えば、きっとマイエちゃんは拒めない。

でも、そんな事を強制して良いのかだろうか?)


「うどん様、うどん様。」

マイエが心配げにうどんを見る。


「あぁ、ごめん、考え事してた。」


「では、うどん様、お知りになりたい事とは?」


「私が川で魔魚に襲われないのは、魔力が0だからだと言った人がいまして、ワラさんはどう思います?」


「うどん様が異世界から来た人なので、魔力0な事に驚くのですが、

人は皆、普通に魔力が有ります、保有量の多寡はそれぞれですが、赤子でも。

人だけでなく、獣人も、魔物も、魔力を持っています。

魔魚が魔力に反応しているのは確かなんです。」


「では、川では魔法が無効化されると聞いたのですが。」


「はい、無効化されます。

例えば、川で魔魚に襲われた人に、回復魔法をしても、魔法が発動すらしませんし。

魔法で川から引き上げて、川岸に引き寄せる事も不可能です。

全ての魔法や魔力そのものが無効化されていると考えられています。

理解不可能な強力な呪いですね。」


「あたし川岸で火魔法の練習した事があるよ。

川に向けて火魔法を撃っても、消滅するんだよ。

どの高さなら消えないんだろうって上に向けて撃ったこともあるけど、凄い高さでも消えちゃうよ。」

ケイが思い出しながら言う。


「吊り橋より高くても、その火魔法は消えるの?」


「うん、消える。」


「なら何故、吊り橋を魔魚に襲われずに渡れるんでしょうか?」


「あぁ、それは」

とワラが自信を持って続ける。


「古文書にも記述が有るのですが、

{ 橋を通行する者は全ての魔法を解除せよ。

  魔法道具、武具の魔法効果を、橋を通行している間は無効にせよ。

  通行中は魔力及び魔法の使用厳禁。 }

とする事で渡っていたとあるのです。」


「水面からある高さを越えればって条件で、魔力さえ無効にしておけば、魔魚は襲って来ないって事かな。

父ちゃんが言ってたけど。」


 ワラが続ける。

「川面に近いと、魔力を無効にしてても、元来持っている魔力に反応して魔魚に襲われます。

魔力を0に出来ないのが普通なので。

ただ、川面から高い位置を魔力を使わずに渡れば、さすがの魔魚も反応しないって事なのですよ。」


「なるほどー。」

うどんはようやく理解できた。


「例えば、他領に行くのに、どうやって川を避けて行くのです?」


「それは、ずんずん川上へ、山を登って川が無くなるまで。」


「めちゃくちゃ遠回りするって事ですね。」


「山は強い魔物も出やすいですし、山なので荷馬車も使えませんし、人が背負える量は限られてますし。」


「マジックバッグとかアイテムボックスとかは使わないんですか?」


「それは何ですか?初耳です。」


「バッグの中が異空間に繋がっていて、沢山物を収納してもバッグは膨らまないし、重くもならないっていう、超便利アイテムがゲームなんかであるんですけど…。」


「聞いた事もありません。それが有れば誰もが欲しがりますが。」


「あぁ、この世界には無いんですね。それは移動が大変だ。

だから皆さん力持ちなんだな…。ははは。」


(ガチで背負える分しか運べないのか。)


「そうそう、魔導師カラって、どっかで聞いた気がするのですが。思い出せなくて。」


「ははは、魔導師カラは世界を呪いで分断した張本人ですよ。」

何を言うのか、という表情のワラ。


「500年前の悪名高い魔導師カラね。」


「あーー、そう言えば。

それでうっすらその名前に記憶があったのか。」


(あの黒い大鷲、自分の事を"大魔道士カラ"って名のってた。

あいつが元凶か。

どうやって500年も生きてる?

鳥だし…。

まぁ、だから、俺を使おうとしてるんだな。)


魔導師カラを要注意人物に認定したうどんだった。


「じゃあじゃあ、ニューランドに行こうと思えば、

吊り橋を使わずに行ける事は行けるんですね?」


「行けますよ。片道2日です。往復で4日。

例えば、ダンジョンや鉱山目的なら、それに費やす日数分の装備や食料を背負って行き、帰りは鉱石やアイテム等を背負って帰る事になります。」


「なんか、力持ちじゃないと、何も持って戻れないやつですね。」


「街と街を結ぶ街道は、山中でも比較的安全です、安全地帯の結界が点々と配置されてますので。

でも街道を外れると魔物や野盗に用心しなければいけません。

ちなみに、ニューランドに川を迂回して行くルートは道なき道なので、かなり危険です。」


「だからこそ、吊り橋は皆さんが歓迎してくれてる訳ですね。」


「はい、うどん様、その通りなのです。」


「ワラさん、他領に行きたいと思った場合、地図とか手に入りますか?」


「えっ、うどん様、それは聞き捨てなりません。スワンを出るお積もりで?!」

ワラが驚く。


「うどん様…。」

マイエが目を見開く。

ケイがマイエの肩に手を置く。うどんは少し睨まれた。


「いや、その、色んな疑問を解決しようと思ったので、その延長での質問です。

スワンから出る気は無いです。」

うどんは仕方無く嘘をついた。


(これは、どう根回しすればいいのか、結構抵抗が有るかもなぁ。俺のバイシク国ロング領行きは。)

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