40分 「風」

私には仲が良い親友がいた。


毎日、一緒に遊んで、たくさんの時間を過ごしていたと思います。

海辺の近くに親友が住んでいたので、私と親友は、砂浜が遊び場でした。

心地良い風が吹く場所で、お城を作り、絵を書いたりして、よく飽きずに毎日同じことを繰り返していました。

親友といる時の風は、どんな時も心地が良かったのでした。




しかし、そのような幸せは長くは続きませんでした。




常識という風が私と親友に吹いてきたことが原因で、離れ離れにさせたのです。


私と君の身分が違っておりました。

私は、貴族という身分で、親友は、敗戦国の一般市民という立場でした。

この時代、身分が違うもの同士で遊ぶことが許されていなかったのでしたが、私はそれがとても嫌だったのです。

冷たい風を無くそうとを決意した私は、部屋を抜け出して、親友に会い、毎日過ごしていれば、変わるのではないかと考えました。


しかし、私と親友の関係を見た人からの嫌がらせが増えていきました。


親友がケガをすることも多くなり、私が親友といるだけで傷つくことを知りました。

世の中がすぐに変わらないことも知りました。

守りたくても、この身分差のせいで一緒にいられず、あんなに心地良かった風がだんだん冷たい風に変わっていきました。

そして、私は主都の学校へ通うことが決まり、君に会うことが出来なくなりました。私はお別れを言いたかったのですが、君はすでにいなくて、引っ越していたようでした。


この無力感と、情けなさ、悔しさをバネに私は、上になって、この身分差のせいで傷つかないようにすることを決意しました。






私は父親の後を継ぎ、議員にになり、身分差の壁が無くなるように努めました。

冷たい言葉もたくさんかけられましたし、女性というだけでいちいち難癖をつけてくる同僚もたくさんいました。辛くて、投げ出したい日もありましたが、親友と過ごせるようになるために…。

必死で立ち上がっていましたが、それはもう終わりのようです。


なぜなら、この国は戦争で負けてしまったからです。


一番偉い人は逃げて、他の同僚もここぞとばかりに私に責任を投げ捨てていきました。

私は誰もいなくなってしまったこの部屋で、呆然と焼けていく様を眺めていました。

全てを押し付けられた席に座り、ここで身分差を無くす法令を宣言出来たらよかったのになと、ただ燃えるのを待っていました。


パチパチという音に交ざり、大きな音がしました。

扉を向けば、中に兵士が入ってきました。この兵士は、私の国とは違う兵士でした。


その中には、親友がいました。


親友はたくさん人を殺していました。

だって、剣が血塗れなんだもの。

こんな状況で私は、口角が上がりました。

親友が無事でとても安堵したからです。あんな状態で生きている訳がないと言われたのですが、信じたくなくて引っ越したと言い聞かせていたのでした。


しかし、親友は生きていた!


どんどん兵士たちが私に近づいてくる。

あぁ、この腐った国の一番上になった私は殺されるのでしょう。国民にこの国は負けたのだと示すために。


でも、私は押し付けられたことに感謝を抱き始めていました。


親友に会えたこと、この国を、この腐った国を変えるチャンスになると感じていました。親友の国は身分差の無い国だったから。

親友がこれから変えてくれることを信じて、私は大罪人となろうと覚悟を決めました。

悪い顔をして、兵士に向かって叫びました。


「なぜ、お前らのような愚民どもがここにいるのだ?私はこの国で最も偉くて、素晴らしい身分なんだ。なのに、なのに、なぜ負け犬国家の連中が我々の国に歯向かうのか?ありえない!身分制度も無いお前らの国が、どうして……」


遠くを見つめて、兵士を軽蔑するかのようにした。あえて、身分ということを強調して。

私は身分制度によって、この国のほとんどの人が苦しんだのを知っていた。

この国の甘い蜜を吸う連中しかいないから、変えれないことも分かっていた。

民衆が親友の国の制度を受け入れることは確実だけど、懸念があった。

私と同じ貴族たちが、この国の復活が出来ないようにしなければならない。

私の首を落としてしまえば、貴族は反乱を起こさないだろう。

慌ただしく逃げた連中は、どこに誰が逃げたかなんてわかっている訳がない。

復活をさせることを避けるためにも、私が死んでしまえば大丈夫であろう。


煙を吸って、頭が重くなってきていたので、椅子に深く座り、偉そうに足を組んだ。


軽く目を閉じていれば、コツコツと足音が聞こえてきた。

ゆっくりと目を開けば、剣を持った大きくなった親友が立っていました。

剣を私の首筋に当てているが、下を向いているので顔が見えないのが残念だ。

生きてるんだと実感して、涙が溢れ出そうだった。会うことをほぼ諦めていたのに、生きていて本当に良かった。

けど、知り合いだとバレてしまえば、親友が不利になると思い


「近づくな!負け犬国家の兵士のくせに」


最新の技術で作られた拳銃を親友に向けた。後ろからは、親友の仲間が危ないと、危険だと叫んでいるが、親友は動かない。

死ぬ前に親友の顔を拝みたかったのだが無理そうだ。私に近づいてくる兵士がたくさんいるんだもの。殺されると思えば


「ねえ、なんでここにいるの?どうして…、どうしてなの?」


涙でボロボロになった親友がこちらを見る。昔よりも、大人びてかっこよくなっていた親友。感慨に浸るのをすぐにやめて


「バカ!話しかけちゃダメでしょ!私は、貴方に殺してもらって、この国が変わるチャンスが得られるの。それを貴方に頼みたいから、早く私を切って」

「嫌よ!私は切れない!トップじゃないくせに。思っていないこと無理して言ってるの分かっているわ!泣きそうな顔で言うんじゃないわよ。バレバレなのよ」

「貴方しか分かってないから……。私は貴方を信じて頼むの。この国を変えてね」


私は親友の剣を掴み、自分の首を刺した。


親友が泣き叫んでいるのだが、慰めることはもう出来ない。




希望を託して私の人生を終えられることに感謝を。

また親友を泣かせてしまったことに謝罪を。






次、生まれてくる時には親友と私に心地良い風が吹きますように….

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