第16話 龍王様!


 扉が閉められ、部屋に私と龍王様の二人だけになった。

 鼓動が激しく胸を叩き、口から心臓が飛び出してきそうな程。

 大きく生きを吸いながら気持ちを落ち着かせ、私は教えられた作法の通り、頭をさげ龍王様の言葉を待つ。


「顔を上げて、こちらに参れ」

「はっ……はい」


 私は下げていた頭をあげ、言われた通りに龍王様のところへと歩いて行こうとした時。見たことのある顔が目に入る。


 ———!?


 龍王様が立っているはずの場所に、なぜか飛様が立っていた。


「え? なんで……飛様が?」


 私が驚き固まっていると、飛様の方から私に近寄ってきた。


「くくく。なんじゃその面白い顔は……」


 目を見開きポカンと口を開けている私の顔を見て、飛様がいたずらっ子にように笑う。


「だだっだって! 龍王様がいると聞いてお部屋に入ったのに、いたのは飛様で私には何が何だかっ」


 私は少しパニックになりながら必死に話す。


「落ち着け、ここに龍王がいると聞いたのであろう?」

「はい。でも飛様がいました」

「……と言うことは?」


 飛様が私に優しく語りかけながら、じっと見つめてきた。

 

 ……と言うことは? って言われても。


 私は首を傾げて考える、そんな姿を楽しそうに見る飛様。そんな顔で見ていないで答えを教えて欲しい。

 だってここにはがいるはずなのに……飛様がいた。

 そう、龍王様が……ん?


 ———あれ? 


 もしかして……フェッ、飛様が……⁉︎


「フェフェフェッ、飛様がりゅう……おう様?」

「あははっ、そうじゃ。我が龍王だ」

「ふぇええええええええええ!?」


 嘘でしょう? 飛様が龍王様だったなんて!

 私はずっと龍王様と会っていたってことなの!?


 驚きのあまり私はその場にペタンとへたり込んでしまう。


「騙すつもりはなかったっのだ。言うタイミングを逃してしもうてのう。怒ったか?」


 飛様……飛龍フェイロン様が眉尻を下げ、困った顔で私を見る。私が騙されて怒っていると心配しているのだろうか? そんなわけない。

 びっくりはしたけれど。


「怒ってなどないですよ。少しビックリしただけで……」

「そうか……なら良かった」


 飛様が座り込んだまま呆然としている、私の頭にポンと手を乗せ「我について来い」と言って、私の前に手を差し出した。

 緊張しながらその手を握り返すと、私をゆっくりと立たせてくれた。


 距離が近いので鼓動が激しく鳴り響き、その音が飛龍様に聞こえるんじゃないかと思い、顔がどんどんと赤くなる。


 その後。立ち上がった私の肩に優しく手を添えると、広い部屋の奥へと私の歩幅に合わせゆっくりと歩いていく。


 どこに向かっているんだろう?


 そして人が入れるくらいある大きな箱の前に立った。


「この箱を開けてみよ」

「箱を……?」


 箱に何が入っているの? 


 私は恐る恐る箱の蓋を開けると中には入っていたのは…….!


「わぁぁぁぁ! すっごい貴重な珍しい薬草ばかりこんなに沢山!」

「褒美と言っても、其方の好きなものは草しか分からなかったから、珍しい草を樹のやつに聞いて集めてきたんだよ」

「ここっ、これを私に!?」

「そうじゃ。そのために集めたのだから」

 

 少し得意げに薬草を見る飛龍様。その表情はまるで、褒めてほしい子供のよう。


「ふふふ。ありがとうございます。どれも手に入れるのが困難な薬草ばかりで……嬉しくって胸がいっぱいです」


 飛龍様が……私のために、薬草をこんなに沢山採ってきてくれた。そう考えるだけで、心が幸せな気持ちで満たされていく。


「では番の審査をしようかのう。内容は知っておるな」


 飛龍様が片目をパチリと閉じ悪戯に笑う。

 前に飛龍様が私に教えてくれたのでもちろん知っています。


「はい」

「では近うよれ」

「え?」


 言われるがままに一歩前に出て飛様に近づく。

 するといきなり抱きしめられ、飛龍様の美しい顔が近づいてきた。


「ええええっ!?」

「話すと口付けできんであろう?」

「ナナナナっ」


 口付け!? それも聞いたけれど、龍の姿で審査するって……本当に口付けするの?


 混乱しパニックになっている私を見て。

 

「あはははっ。冗談じゃ」


 飛龍様が声を高らかに上げて笑うと、やっと私を離してくれた。


 冗談か……良かった。

 驚きすぎて、心臓が飛びだすかと思った。

 あんな綺麗な顔が近くに……「ひゃわ」思い出し赤面し変な声が漏れる。


「くくく。落ち着いたかの? では龍の姿になるので見ておれ」


 そんな私の様子を楽しそうに見ていた飛龍様が、真っ黒の大きな龍の姿へと変身した。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る