第12話

「ただいま」

「おかえり、ヨースケ。どうだった?」


「傍から見ている分にはすげー面白かったぞ。当事者になったら頭抱えるだろうけどな」


 HRが過ぎて一限目の教師が来るまでの僅かな時間に彼と話をした。


 たぶん当事者って俺のこと言っているのだよな。

 お陰様で一限目の授業の内容は一つも入ってこない。




 二限目との間の休み時間にヨースケの撮ってきたビデオをミユキと見る。


 教室に入ってくるあの女。近づく須藤某。一言二言某が言葉を掛けると、金切り声をかげてあの女が殴りかかる。


「やべーな……」


 あとは何を女が言っているのかはっきり聞き取れない。ヒステリーのように見える。でも、って単語は聞こえる。


 狂瀾怒濤の教室内。

 担任が入ってきて騒動を抑えようとしている。


 女が拘束される。すごい形相だ。


『あんたが余計なことしなければカズヒトはウチから離れなかったのよっ! 全部お前のせいだ! 死ね!』


 最後にそれだけ言うとあの女は教師に引きずられて六組の教室からフェードアウトしていった。


「なんか……なんか、だな」

「ああ、お前が言葉を失うのよく分かるわ」


「ねえ、カズヒトの家にミナミが来たときもこんな感じだったの?」

「いや。穏やかな感じではあったけど、静かに狂っている……みたいな?」


 聞くところによると今日のところは家に帰らされたらしい。殴りかかってはいるが所詮女の手なので須藤某も怪我一つなかったのが理由。


 家族が迎えに来て、静かに帰っていったという。

 代わりに俺は家に帰りたくなくなった。あんなのが道路挟んで数メートル先にいると思うと落ち着かない。






 放課後。ミユキと一緒に帰宅の途。

 今朝のあれは俺だけでなくミユキにとってもショックだった。


「わたし、ミナミのことは大嫌いだけど、可怪しくなって欲しいとか消えてくれなんて思わない」


「うん」


「ただ、無関係ならそれでいいかなって」


「うん」


「でもカズヒトだけは救わないと、とは思ってたよ」


「俺?」


「うん。だってミナミ元よりあんなだもん。絶対にカズヒトには良くない」


「そっか」


「カズヒト。なんでミナミがカズヒトに告白したか知ってる?」


「知らない」


「カズヒトに想いを寄せていたある女の子からあなたを奪うため。単純にその子に対してマウント取りたかっただけなのよ」


「ほんとに?」


「うん。嘘告みたいなもんだったの、ミナミにとっては。でも本末転倒、自分のほうがカズヒトに惚れちゃったみたいね」


「それにしては浮気ばっかりだったけど?」


「ま、生来の閨狂ねやくるいは治らないんでしょうね。その結果がいま来ているんでしょうけど」


 ミナミのことよりもその「ある女の子」が誰なのか気になったけど教えてくれなかった。




※※

ミナミ本人的には一途な思いを拗らせているだけなのですが、第三者から見るとそうは見えないようなので彼女用にタグ増やしました。パラノイアとは少し違うかな……と思い、大枠でメンヘラを。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る