第2話

 ミナミは電車に乗って近辺では最大の繁華街がある駅で下車した。俺はミナミとは車両を別にしたし、いつもは絶対に寝ている時間なのでまさか俺に付けられているとはミナミはまず考えていないだろうとほくそ笑む。


 俺も探偵ごっこをしているかのようで、少し楽しんでいたのかもしれない。



 ミナミは改札を抜けると、そのまま駅前広場に向かっていった。たしか、そこの広場には鐘があり、待ち合わせのスポットになっていたはずだ。


 ミナミも誰かと待ち合わせなのだろうか? 高校に入ってから仲良くなった女友達か?

 ミナミとは付かず離れずの距離を保ったまま俺も鐘の隅の方で待ち合わせのフリをする。


 五分もするとミナミがパッと表情を変える。目当ての相手が来たようだ。手も振っている。

 俺からは他の人が邪魔になり相手が確認できないので、少し移動することにした。


 果たしてミナミの待ち合わせの相手は、男だった。

 見覚えのある顔だ。たしか、バスケ部の期待の新人ルーキーとかで騒がれていたやつだ。名は知らない。クラスはミナミと同じ六組。


 いや、まだ二人きりとは限らない。クラスの大勢で遊ぶことだってあるさ、なんて楽観したのだけど早々に無駄だってわかった。


 ミナミは、それはそれは親しげにそいつの腕に抱きついて、繁華街の方に歩いていった。


 大変なショックを受けたが、まだ諦めがつかない俺は、そのまま二人を尾行することにした。

 映画館、レストラン、雑貨屋に洋服屋。二人の行動はまるでデートだった。途中何度も心が折れそうになったけど、無心になってミナミたちを追い続けた。




 日も暮れて、夜のとばりが落ちる頃。二人の雰囲気が変わったのが分かった。


 二人は繁華街から外れて、ホテル街の方に歩を進める。そして、一軒のホテルに躊躇もなく入っていった。

 俺もバカじゃないし、ミナミとは何回かホテルを使ったこともあるので、この中で何をやるのかぐらいはわかっている。


 浮気。


 裏切り。


 ミナミとはこのまま行ったら大学卒業後ぐらいには結婚するものと思っていた。そうするつもりだった。


 ただ、そう思っていたのは俺だけだったようだ。


 いつからなのだろう。出来心と言うにはあまりにも慣れた行動。


 いつから騙されていたのか?


 絶望。悲しみ、そして怒り。

 今この場ですべてに決別しない限り俺は気が変になりそうだ。



 きっかり二時間後、二人はホテルから出てくる。


 二時間という時間は俺に冷静さを取り戻させるには十分すぎた。


 俺は二人の前にゆっくりと近づき声をかける。


「ミナミ、お前とはこれで終わりだ。明日から二度とその小汚い顔を俺に見せるな。ただ、一〇年以上お付き合いいただきありがとうございました。とだけは言っておく」


 男の腕に張り付いたまま、顔面蒼白のミナミは声も出ないらしく間抜けヅラで口をパクパクしていたが、俺はもうそんなことはどうでも良かったので踵を返しその場をあとにした。

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