第40話 幸子に執拗に付きまとうドハ!





 ドハはロアを愛していながら、2000年の11月「幸子」詩織が亡くなるまで、幸子と関係は続いていた。そこには恐ろしいカラクリがあるのだ。


 幸子は闇組織にしてみれば利用価値のある女性。


 それはどういう事かというと、他国から性奴隷として売られて来た女性達は言語を話す事が出来ない。仕事も水商売で働くか身体を売ることぐらいしか出来ない。


 だが、幸子は日本人で言語には何の問題もない。幸子の家族は幸子に何が有ろうと、お金さえ渡せば文句は言わない。金の為だったら何だってOK。それだけ生活に困窮しているという事だ。


 これが普通のお嬢様だったら即警察に通報される。


 幸子は美人で尚且つ日本人、働き口の無い父に代わって家の大黒柱。少々手荒な事をしても、お金さえ渡しておけば問題い無い家庭だ。


 そして欲求はさらにエスカレ-トして行った。それは麻薬の売人として幸子に目を付けていたのだった。北朝鮮の資金源になるからなので………。


 1980年代に幸子は知らず知らずのうちに覚せい剤中毒『シャブ中』にさせられシャブ無しでは生きて行けない身体になっていた。そこで覚醒剤の売人として、その仕事に就かされた。


 幸子もシャブ中だから、シャブを安く手に入れる事が出来て、尚且つシャブを売るだけで大金が手に入る。


 最初は躊躇したが、身体がシャブを求める。悪い事とは知りながら、それ以上に薬物無しでは生きて行けない身体になっていた。


 金と薬物欲しさに、現在の東浅草付近の山谷に立ち、化粧っけのない普通のおねえさんを装い売りさばいて行った。


【山谷:安宿の多い事から労働者が集まり、周辺のドヤ街の通称として使われるようになった】


 幸子は顔立ちは整っているが、素顔になればその頃はもう30歳位で肌荒れも酷く、決して目立たない。


 薬を手渡すのは幸子が渡す事もあるが、普通を装ったその筋の売人が渡す事も有った。怪しまれるので極々普通の一室で、あまりにも怪しげな部屋ではダメだ。


 そして…ある一室に退居して、そこで手渡すと言う形を取っていた。


 いかにもその筋の売人風な男よりも、極々一般の男性や女性が売りさばく方が、一般の人々も買いやすい。


 ******


 紅葉によって野山が、色とりどりの赤や黄色に染まった何とも言えない豪華さをたたえている。


 まさに野山の錦と言う言葉がぴったりの今日この頃。


 そんな1993年の11月「岩田」ドハに連れられてゴルフ場に向かった幸子は岸田コ-ポレーション社長岸田雄介に出会った。


 幸子は幾らお金の為とは言え、こんな裏社会にどっぷりと浸かってしまった自分を心底恥じている。


 雄介を知れば知る程、いくらパチンコ店経営者と言えども育ちの良い、常識人の雄介に尊敬と同時に自分の現在の有り様を恥じ、情けなくて涙が出そうになるのだった。


(こんな生活から足を洗おう。岩田とも縁を切ろう!)そう強く心に誓うのだった。


 だが、薬物中毒の幸子がそう易々とは薬から手を切れないのでは?


 ※薬物依存症の人達の中には、約9,3パ-セントの人達が医療機関で治療を受ければ薬物の使用は容易に辞められる。このようなデ-タ-がある。


 

 一時はあんなに好きだった岩田だったが、幸子は今でも腐れ縁で岩田との関係は続いている。だが…岸田社長を知っていく内に、余りの違いにつくづく岩田との関係を、断ち切りたいと願っている。利用するだけ利用して幸子を只々破滅に追い込む「岩田」ドハ。


 一方の優しくて紳士的な雄介から「真剣に付き合ってください」と、プロポーズと言って良いほどの言葉を貰った幸子は、嬉しくて夢うつつだ。


(医療機関で治療をして貰い、大企業の社長夫人になりたい。イヤ絶対なって見せる!それには、あの岩田とどんな事をしても別れないと……}


 医療機関で治療を始めてからことのほか、早く薬物を断ち切る事が出来た幸子は(もう絶対岩田とは会わない!)そう決めた。


 だが、バックには10年程前にAV女優として共演した、芸能界の重鎮村田哲の義兄が眉をひそめ、幸子の動きを探っている。


 村田組の組長、村田武は覚醒剤を北朝鮮から密輸して、暴力団の資金源にしている極悪非道な恐ろしい男。岸田社長夫人になる為にも、過去の過激なAV動画の数々を、どんな事をしても岸田社長に知られたくない。その為にも、むやみやたらに岩田との縁を切る訳にも行かない。




 そして…あの日、幸子が岸田コ-ポレーション社長と、セッテイングされた裏には、三店方式の利権確保の狙いがあった。


 大手パチンコは別としても、中小パチンコ店では同族経営やパチンコ店が景品交換業務に携わっている事も多々ある。


 大企業のパチンコ店『キシマル』の利権を掴むという事はこの上ない美味しい話。本来ならば確保できる話では無いが、そこで都合がいい事に岸田は幸子に夢中だ。夫婦となれば三店方式の利権確保は容易い。このような経緯から岸田社長に幸子を近づけた。


 ※三店方式:遊技場(パチンコホール)営業者、景品交換所運営者、特殊景品卸売業者の三者を結びつけていることから、三店方式とよばれる。

 


 あの日幸子をスッカリ気に入った岸田コ-ポレーション社長に、これは幸子を近づけ、雄介を誘惑させ夢中にさせようと企んだ。


 こうして…岸田と幸子の想いは一致して結婚も視野に入れて共同生活をスタ-トさせた。


 子供達も手が離れているので、詩織には薬の売人や、幸子の魅力で岸田を繋ぎ止めておくなど役目が山積している。岩田にすれば目を離す訳には行かない。この様な理由から幸子から離れないのだ。




 そして……死へのカウントダウンへの始まりが……。


「岩田」ドハは本当に極悪非道な血も涙もない男なのか……?










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