第2話 ユキナ

「お嬢ちゃん達、運がいいねぇ! 今ならこの試供品、無料タダであげちゃう!」

 真っ黒な髪の毛、真っ黒なサングラス、真っ黒なマスク、真っ黒なシャツにズボン。

 全身真っ黒ずくめのおじさんは、下校途中の私とミナちゃんに明るい声で話しかけてきた。

「変な人……ユキナちゃん、早く帰ろう!」

 しっかり者のミナちゃんは、ぼんやりしている私の腕をぐいっと引っ張った。

「あああ、ちょっと! 話だけでも聞いて! 動物を人間に変えられる薬と、惚れ薬のセットなんだよ!」

 おじさんの必死な声が、私達の背を追いかける。

 動物を人間に変える……

 おじさんのその言葉を聞いて、真っ先に頭に浮かんだのはウチの猫3匹。

 茶トラのチャーコ、サバトラのサバオ、キジトラのキジタロー。

 だから、なんとなくおじさんの薬が気になっちゃったんだ。

 でも、振り返らずに走って帰ったんだけどね。その時は。

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