第22話 未知の体験はいくつになってもワクワクする

 しばらく海で遊んだが、移動の疲れもあってそこそこで切り上げることにした。また明日も遊べるしな。


「まだ明るいがそろそろ切り上げようぜ。そういやどこに泊まるんだ?コテージかなんかがあるのか?」


「そんなもの無いぞ?」


「は?」


「さっき爺さんがD○SH島見て買ったって言ったろ?開拓するつもりだったけど小屋一つ作って飽きたからほとんど手付かずだ」


 いや、確かにそう言ってたけども。


「プライベートビーチにするとか言ってたじゃん?それなら泊まる所があるんじゃないか?」


「それはこれからの話だ。一応俺達が使う予定の部分は整備してあるけど建物なんかは建築中だ」


「マジかよ。えっ?じゃあどうすんの?」


「キャンプするんだよ!安心しろ!キャンプ用品や食料はちゃんとあるし、この島の安全確認はしてあるから!」


 え〜?確かにキャンプするって話だったが無人島でするのかよ。それってキャンプって言うよりサバイバルじゃね?


「なんか大変そうだねー?」


「そうなのです?道具や食料があるなら普通のキャンプと変わらないと思うのです」


 そう言われればそうか?そうかも。


「それじゃあ移動するぞ!あの川を上ってた先にキャンプに適した所がある。この辺でキャンプしてもいいけど木に囲まれてるほうがキャンプって感じがするだろ?」


「そうだな。それじゃあ行くか」


「無い物はしょうがありません。切り替えていきましょう」


「そうしよっか。それじゃあ着替えてくるね?」


「おう、俺と夏川は先に荷物運んどくわ」


 話終わって行動を開始する俺達を小学生二人が不思議そうな顔で見ている。どうした?


「お兄さん達切り替え早いね?さっきまで驚いてたのに」


「まあこのくらいは慣れてる。ほら、お前達も着替えてこい」


「了解なのです!」


 普段から突発的に何かすることが多いからな。切り替えは早くなる。


「ハルはその辺の荷物持ってくれ!」


「はいよ」


 とりあえず荷物を運んじまうか。




_______________________




「ここをキャンプ地とする!」


 荷物を持ってしばらく川に沿って登っていくと木々が開けた平地に出た。確かにここならキャンプに適してるだろう。多少整備して使いやすくしてあるみたいだし。


「とりあえずテントを組んじまおう。灯りはあるが明るいうちに組んじまったほうがいい」


 テントなどは既に夏川家のお手伝いさん達が運んでおいてくれてあった。ありがとうございます。


「そうだな。夏川、そっち持て」


「おう」


 説明書を見ながらテントを組み立ててると女性陣がやって来た。


「あっ!テント組み立ててる!私もやる!」


「私も手伝うのです!」


 テントを組み立ててるのを見た彩音と小唄ちゃんが手伝おうとしてくれる。


「私達も手伝おっか?」


「じゃあそっちの小さい方のテントを組み立ててくれ!こっちの大きい方が女子、小さい方が男子だ!」


「分かりました」


 その後はみんなで四苦八苦しながらテントを組み立てた。慣れない作業で苦労したが割とみんな楽しそうだった。


 テントを組み立てた後は夕食の準備だ。


「キャンプと言えばカレー!もしくはバーベキュー!どっちがいい?」


「「「「「バーベキュー」」」」」


 多数決でバーベキューになった。女性陣に食料の準備をしてもらい俺と夏川でバーベキューコンロの準備をする。


「んじゃ火を着けるか。夏川、道具くれ」


「ほい」


 そう言って手渡されたのは木の板と木の棒。えっ?そんな原始的な方法で着けんの?


「せっかくの無人島でのキャンプだぞ?文明の利器に頼るのはつまらないだろ?」


「いや、素人には難しいだろ…。せめてレンズにしろよ」


 そう文句を言えば夏川は肩をすくめた。


「やれやれ、楽をすることを覚えた現代っ子は…。風情というものを知らんのか?」


「あぁ?やってやろうじゃねぇか!どっちが先に火を起こせるか勝負だ!」


 せっかくなので夏川の挑発にのってみる。何事も体験だ。女性陣から呆れた視線を向けられているような気がするが無視する。




 五分後




「なあ夏川、疲れたし手痛いしもうやめねぇ?」


「だな。やはり文明の利器を使ってこそ人間だよな!」


 現代っ子の俺達は早々に根を上げた。いや、無理だってこれ。素人が少し頑張ったくらいじゃ火が起きないわ。


「必死に木と木を擦り合わせて煙すら立たなかったのにあら不思議!チャッカマンを使えば一瞬で火が!」


「やはり人類史の進歩は偉大だ…」


 人類の歴史は進歩の歴史。先人達に感謝を。


「なら最初からチャッカマン使えばいいのに…」


 後ろから誰かの呆れた声が聞こえた気がしたが気のせいだな!






「あっ!彩音!今俺が焼いてた肉を取っただろ!」


「知らなーい!」


「へい氷上!貴様オレが大事に焼いていた肉を食ったな?」


「夏川先輩が肉ばかり食べてるから体が心配だったんです。野菜を食べた方がいいですよ?ああ、なんて先輩思いな後輩なんでしょうか」


 そんなこんなでバーベキューなう。


 文明の利器を使って火を起こし、良い感じになったところでバーベキュー開始。最初は和やかだったのにすぐに肉(一部A5ランク)の取り合いになった。


「お前ら仮にも女子だろう?そんなに肉ばっか食っていいのか?」


「そうだ!そうだ!女子なら体重とか周りの視線気にして草でも食ってろ!」


 俺と夏川が大事に焼いてた肉を食われた恨みでそんなことを言えば肉食系女子共は言い返してきた。


「男女差別はんたーい!私達はまだまだ育ち盛りでお肉が必要なの!」


「そうなのです!お肉を食べて成長するのです!」


「長いことボッチをやっている私が人の視線を怖れるとでも?というか仮にもって失礼ですね」


「あはは…せっかくの良いお肉だし、こういう時くらいはハメを外してもいいかな」


 まさかの吉崎までである。まあ吉崎は野菜も食べてるけど。他の三人も見習え。


 そんな感じなので夏川が用意してくれたA5ランクの肉はすぐに無くなった。他のも充分美味いが。A5ランクの肉が無くなれば取り合うこともなく食事ペースも緩やかになった。


「食った食った!余は満足じゃ!」


 最後まで食っていた夏川も満腹になったようでしばし食休み。片付けはまた後でいいか。しばらくのんびりしていると夏川が急に立ち上がった。


「そろそろ準備しといた方がいいか。悪いがハル、手伝ってくれ。お前らはまだ休んでていいぞ」


 夏川に頼まれたので立ち上がり後をついて行く。夏川はテントから少し離れたところにある川辺に向かった。そこはテントのある方からは木が邪魔して見えないようになっている。そこにはなぜかドラム缶があった。それも二つ。


「ハルは水を汲んでくれ。オレは火を起こす」


 すぐ近くに川があるとはいえ必要な水の量が多いからかなり重労働だった。


「これってあれだよな、ドラム缶風呂。まさかリアルで見ることになるとは」


「夏とはいえ水浴びだけじゃあな。やってみたかったってのもある」


 火を起こしたところでテントに戻る。温まるまでまだ時間がかかるだろう。


 その後はバーベキューコンロなどを片付けて時折ドラム缶風呂に焚き木を足しつつキャンプ地でダラダラ過ごした。




_____________________________




「そろそろいい頃合いか。行こうぜハル」


「おう。ほら、頭どけろ彩音」


 日が沈み始めた頃に夏川から声をかけられる。レジャーシートを敷いて寝っ転がっていた俺は俺の腹を枕にしていた彩音をどかす。


「うにゅ。お兄さんどっか行くの?」


「ちょっとな」


 別に言ってもいいんだが一番風呂を譲りたくなかったので曖昧な返事をする。レディーファースト?知らんな。


 テントから着替えとお風呂セットを取り出して先程のドラム缶の下へ行く。


「ちょっと熱くなり過ぎたか?まあ水を足せばいいか」


 当然のことながらドラム缶風呂に温度設定などあるはずもなくお湯が少々熱くなってしまった。水を足せば温度調節が出来るのでぬるいよりマシだが。


「ハル、どっちが先に入る?」


「二つあるのに夏川は入らないのか?」


「一応二つ用意したが男が入った後に女子達を入れるのも可哀想だろ?」


 そこには気が遣えるのに女性陣に黙って先に風呂に入ろうとするのか。俺が言えた義理ではないけど。


「ジャンケンするか」


 最初はグー。






「これはなかなか良いものだな」


 ジャンケンに勝ったので俺が一番風呂。体を洗って今はドラム缶に体を沈めている。


 立ったままだし、お湯は下の方が熱いしで普通の風呂に入るのに比べれば不満な点があるが、このような体験は早々出来ない。未知の体験をするのはいくつになってもワクワクするものだ。


「おっ、一番星」


 周りを見れば自然に囲まれ、空を見上げれば夕焼けに染まる空に輝く一番星。それらを眺めながら入る風呂は実に良い。


「満足したなら代わってくれよ。オレも入りたい」


 ぼんやり空を眺めていたらすでに体を洗い終わった夏川から催促された。


「はいはい」


 もう少し入っていたかったがしょうがない。明日に期待しよう。そう思いつつドラム缶風呂から出ようとしたところで夏川から声をかけられる。


「なあハル」


「ん?」


「こう自然の中で全裸でいると何か目覚めそうにならねぇ?」


「頭沸いてんのか?」


 視線の先には沈み始めた太陽の方を向いて全裸で無駄に仁王立ちしている夏川。誰がどう見ても変態だ。


「オレにも羞恥心はある!だがこうして自然の中で裸でいると羞恥の他にもこう何か込み上げてくるものが!」


「新しい扉を開きかけてんじゃねぇよ」


 夏川が新しい扉を開く前に交代しようとドラム缶風呂から出る。体を拭こうとタオルに手を伸ばそうとしたところで声が聞こえてきた。


「ハルー?夏川君ー?さっきから何してるの?コーヒー淹れたけど飲…む…?」


 声の聞こえてきた方を見れば唖然とした顔の吉崎がいた。俺はまだタオルすら手に取ってないし、夏川はまだ仁王立ちのまま。つまり二人とも全裸。


「えっ…?ちょっ…何して…?いや、ごめ…!」




「きゃあああああああああっ‼︎」←ハル


「覗きよおおおおおおおぉっ‼︎」←夏川



 とりあえず女子っぽい悲鳴をあげてみる俺と夏川。


「えええっ⁉︎違うよ⁉︎というかなんで裸なの⁈は、早く隠して‼︎」


 顔を赤くしてわちゃわちゃしてる吉崎から目を離してタオルを巻く。衝立を用意しておくべきだったか?


「どうしたのー?」


「何かあったのです?」


「なんか汚い悲鳴が聞こえた気がしましたが?」


「き、来ちゃダメ!二人は早く服を着て!」


 声が聞こえたのか彩音達も近づいてきたみたいだ。というか汚い悲鳴って酷いな。


「というか俺まだ入ってないんだけど?」


「吉崎達がこっちに来なければいいんじゃ?」


「いいから早くする!」


「「はい」」


 顔を赤くした吉崎に従って俺と夏川は服を着た。


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