第11話 夕空



練習後のとある日の屋上。僕はただただ、寝転び夕空を眺めていた。

この学校は屋上が開放されている、落下防止のフェンスはあるが、なぜかほとんど使用する人はいない。そういえば、過去に自殺事件があったと聞いたことがある、それも一つの原因だろう

「やっぱ高いところって風があって気持ちいいな。」放課後なので、誰もいない。独り占めだ。

しかし、この夕空には嫌な思い出があった。


3年前、7月24日の放課後。ちょうど夏休みに入る終業式の日だった。


「ずるいんだよ!お前だけいっつも満点なのが!ムカつくんだよ!」

僕は友達だと思ってたやつにそういわれた。瞬間記憶のせいだと自分を責めた。頬を思いっきり殴られ、ジンジンする。なんでだろう。たかがテストの点が高いだけでなぜそんなに怒るのだろう。この時の僕はまだわからなかった。それからも殴られ続けた。何発も何発も、頬に、鼻に、腹に、腕に。

うずくまったまま、腕をおさえていて、最後には蹴られた。

そのまま帰り、風呂に入った。相手が一人だったからこの程度で済んだ。こんなことは慣れているので、そんなに悲しくはない。ただ、裏切られたのが悔しかった。この時ばかりは、学校と家が近いことに救われた。やっぱり、お湯を当てるとみる。蹴られた時に汚れた服も洗わなければ。親は家にいない。どこかに出かけているのだろう。

そのあたりで僕は現実に引き戻された。なぜか。

校庭で爆発音と砂埃が二回ほどの高さまで舞い上がっていたからだ。

いそいでフェンス越しに砂煙の中心を確認する。そこには思っていた通り「黒い何か」が佇んでいた。それはもちろん、彼女だった。


急いで階段を駆け下り、昇降口にでる。電気も灯っていない、薄暗い校舎から出たその時にはもう、彼女の姿はなかった。


ただ、一人倒れている生徒がいるだけだった。

見覚えのある、いやありすぎると言っても過言ではないほど毎日会っていた人、少し茶髪の彼。


僕はただ、その場で立っていることしかできなかった。

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