19話
「全く、貴重な休日を無駄にしちまったぜ」
僕はベットに寝転がり、冗談混じりに言った。
「でも、いろんなところ行けて楽しかったわ」
アテナはベッドの縁に腰を下ろした。
「だけど、手がかりは何も掴めてないぜ?」
「うん。でも、いろんな話を聞けて、楽しかったからいいんだ」
アテナは事件の被害者なのに、楽しかったなんて言葉が出てくるあたり、なかなか変わったヤツだ。
スマホの通知音が鳴った。見てみると、みなもからメッセージが届いていた。
—そうちゃん。来週の日曜日はあけみちゃんの誕生日なんだって。だから、あけみちゃんの誕生日パーティーを開いてあげない?
—いいね。やってあげようよ。
「何してるの?」
アテナが訊いてきた。
「みなもからメッセージが届いたんだ。来週にあけみの誕生日が来るから、誕生日パーティやらない? って」
「へえー。いいんじゃない?」
アテナは素っ気なく言った。親友の誕生日会が開かれることを喜ぶかと思ったが、思いの外、ローテンションだったので、起き上がって彼女の方を見ると、後ろを向いていた。
「どうしたんだよ? あけみちゃんの誕生日会だよ? 親友なんだから、もっと喜ぶかと思ってたのに……」
「違うの。別に、そういうのじゃないわ」
アテナはなんでもなさそうに話した。
「アテナも誕生日プレゼント考えてあげなよ。僕が渡してやるからさ。きっと喜ぶよ」
「……漱石が渡したらダメでしょ」
「どうしてだよ? おまえは幽霊なんだから渡せないだろ?」
「だから、そういうんじゃないってば!」
アテナは突然、声を荒げた。
「なんで怒ってるんだよ」
「知らない」
「知らないってなんだよ。じゃあ怒ることないだろ?」
「っていうか、みなもはどうしてあけみの誕生日を知ってるの?」
「僕に聞かれても……アイツのことだから、普通に聞き出したんだろう」
アテナのセリフに、僕も心の中でうっすら引っかかっていることをカウンターで出した。
「そういえばさ、おまえも、僕の母さんがどうして刑事してること知ってたんだよ? おまえに話したおぼえはないぜ?」
「はあ? 今その話は関係ないでしょ?」
「なら、みなもがあけみの誕生日を知ってる話も関係ないだろ?」
僕がいうとアテナは黙り込んだ。
「なんだよ……あけみの誕生日会に嫉妬してるのか?」
「違うわよ!」
「じゃあ、なんで怒ってるんだよ?」
「あんたには関係ないでしょ!? あんたは事件さえ解いていればいいのよ!」
コイツ……やっぱりそうだったのか。
「ああ。今、謎が解けたよ」
「何がいいたいのよ?」
「アテナが幽霊になった時、事件の捜査をしていたのは、僕の母さんだ。だから、事件の行方を見届けるために、僕の母さんに取り憑いていたんだろ? だけど、事件は一向に解決されなかったから、代わりに僕に取り憑いたんだ。青春がしたいとか適当なことを言って、本当は事件さえ追っかけてくれれば誰でもよかったんだろ?犯人を探してくれそうなやつなら誰でもよかったんだよ。違うか?」
僕がいうと、アテナは黙り込んだ。僕の手がワナワナと震えていた。
「図星じゃねえか! クソがッ! 何か言ってみろよ!」
「違う……それも違うの……」
「何が違うんだよ!? 言い返せてねぇじゃん。どうして……どうして……」
言葉がでてこなかった。コイツはただ、僕を利用して、犯人を知ろうとしただけなのかよ……なんだよ……あけみのことも……殺人犯が許せないことも……コイツは全部、自分の為なのかよ……。
思考が怒りに引っ張られて、オセロがひっくり返るように、何もかもが苛立たしい色に塗りつぶされる。僕の部屋の家具も、壁紙の柄も、アテナの顔も、今まで起こったこと全部が、怒りで染め上げられる。
「……出ていけよ。お前の顔なんか見たくない」
「……いやよ」
「いいから出て行けってば!」
僕が言うと、アテナは部屋から出て行った。ただ、去り際の彼女の表情に、哀しさが滲んでいたような気がした。……いや、気のせいだ。きっとそうだ。
結局、あの夜以降、アテナは家に戻ってくることはなかった。どうして、彼女を追い出すようなマネをしたのか、後になって、自分の行動にかなり腹が立った。
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