15話
僕らは夜の公園のベンチに腰掛けていた。ここなら人通りも少なく、アテナと話していても不審がられることはない。
「そういえば、アテナが幽霊になったのはいつぐらいのことなんだ?」
「覚えてないけど、気づいた時には家の敷地がトラテープで仕切られて、警察の人が家の中に沢山いたわ」
つまり、アテナ自身は犯人を目撃していていない。
「容疑者の中に上原さんが挙がっているけど、心当たりはあるか?」
例えば、上原が犯人だったとして、退職金一億円を受け取る予定なのに、強盗を働くメリットがない。つまり、被害額が1000万円相当で、その1000万を上のせしたいために、犯罪に手を染めるとは考えづらい。だが、三ノ宮家に恨みにがあるなら話は変わってくる……。
アテナは首を振った。
「正直、私はないと思うわ。家族との仲は良好だったはずよ……それでも、私のいる前ではそう振る舞って、いない場所では、お父様かお母様との間でトラブルになっていた可能性はあるから、断言はできないけど」
「そうか……」
他にもあらゆる考えを巡らせるが、いい推理が浮かんでくることはない。
「これだけじゃあどうしようも無いな……」
「なに言ってんのよ」
アテナは僕を励ました。
「まだ、現場の調査をしていないじゃない」
「それってアテナの家か?」
そこは警察が充分に検証したはずだし、心霊スポットとして有名な場所だから、不特定多数に踏み荒らされた今更、新しい証拠が出てくるとも思えないけど……まあ、自分の目で見ておかないことには、事件をより深く捉えることはできないだろう。
「……ウチくる?」
アテナは顔を赤らめ、モジモジしながら言った。
「なんで恥じらいながら言うんだよ」
「だって、男を簡単に家にあげるなんてはしたない女だって思われなくないもの」
「お前ん家、心霊スポットじゃん。もはやお前ん家じゃないじゃん」
「心霊スポットじゃないわ! 私ん家だもん! 勝手にみんなが来るのよ!」
アテナにキレられるが、僕も冷やかし半分で行った当事者だから、何も言い返すことができない。
「だけど、私のサービス精神がなければ、ただの廃墟になっていたからね。やっぱ人生はエンターテイメントに生きないと」
「いや。お前めっちゃ楽しんでるじゃん」
「最初は腹立ったけど、私が出たらみんな驚いてくれるから、だんだん楽しくなっちゃったのよ」
アテナはイェイとピースをした。
僕はアテナの言葉を聞いて深く考える。たしかに彼女の言う通り、自分の家が他人に家を踏み荒らされるところを想像すると腹が立ってくるが、アテナは招かねざる客を驚かして楽しんでるとか言うのだから、いわゆるサイコパスなのか? それとも社長令嬢ってぶっ飛んでるヤツが多いのか?
「アテナって結構ヤバいよな?」
と、僕はアテナの方を見るが、そこには誰もいなかった。
「えっ?」
辺りを見回すと、警官が立っていた。
「こんなところで何しているのかな?」
あーあ、またアテナにやられちまったよ……。
「あっ、いえ、その独り言で……」
僕は誤魔化そうとするが、当然、誤魔化しが効く相手ではない。
「君の名前と年齢、教えてくれるかな……」
僕が警官に職務質問されている間、アテナは木陰からニヤニヤしながら僕を観察していた。ガッデムアテナめ。クソが。後でシバいてやる。っていうか、アイツ幽霊だから隠れる必要ないだろ。
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