第24話 ここで会ったが(前編)

 ジェロムはトールを連れ、ムスペル諸島のいちばん西の島に降りた。フレイアとジナイダ、フェイ、それとトムたちは先にギムレーへ向かうことにし、ボートだけを残して行った。


「あそこに見えるでけー木がイグドラシルだな!? 槍見つけたら早いとこ抜いて持ってギムレーに向かおうぜ! イミルはティルさんの仇だからな」


 少し歩くと木の根本に着いた。見上げればゴツい枝とでかい葉が大きな影をつくっていることが分かる。そのせいで根本は周りよりも涼しく、何人か人も集まっている。皆、日に焼けたような肌の色をしている。


「念のため聞いておきますけど……この木がイグドラシルですよね?」


「……ᚹᚼᛆᛏ? ᛁ ᚲᛆᚾ'ᛏ ᚢᚾᛞᛅᚱᛋᛏᛆᚾᛞ ᛣᚮᚢ'ᚱᛅ ᛋᛆᛣᛁᚾᚷ……」


 ジェロムとトールの顔はハニワになった。話す言葉が違ったのだ。ムスペル人のルーン語だった。


「……やめておこう、ジェロムさん。これが多分そうさ。早く登ろう」


 言葉が通じないのはどうしようもないので、二人はさっさと木に登ることにした。

 だが、トールが木に手をかけた時だった。


「ᛞᚮᚾ'ᛏ ᛉᚮᛎᛅ! ᛚᛆᛣ ᛞᚮᚹᚾ ᛣᚮᚢᚱ ᛆᚱᛉᛋ ᛆᚾᛞ ᚷᛅᛏ ᛞᚮᚹᚾ ᚮᚾ ᛏᚼᛅ ᚷᚱᚮᚢᚾᛞ!」


 周りにいた男たちが全員、突然立ち上がってジェロムたちに何か言っている。


「どうすんだ、トールさん!! 何か知らね~けど怒ってるみたいだぞ!」


「う~ん……え~と、ちょっと待ってくれ。……アイ・ドント……ちがった、アイム・ノット……アン……え~と……そうじゃなくて、ウィー・アーント・エネミーズ! そうだ、これで分かったろ?」


 ……もうすでに周りの男たちは槍やら弓矢やらをつきつけて近づいて来ている。


「……全然通じてないみたいっスね……」




 男たちに捕らえられた二人は、ムスペル人の村へ連れて来られ、柱に縄で縛り上げられた。


「ᚷᚮᛞ ᛞᛆᛉᚾ!」

「ᚠᚢᚲᚴ ᛣᚮᚢ ᛆᛋᛋ ᚼᚮᛚᛅ!」

「ᛋᚮᚾ ᚮᚠ ᛆ ᛒᛁᛏᚲᚼ!」

「ᚷᚮ ᛏᚮ ᚼᛅᛚᛚ!」


(何を言ってんだかさっぱり分からねー…………あれ!?)


 左を向いてみれば、見覚えのある顔。リディアだった。


「何してんの、あんた達。バカみたい」


「見てねえでこいつらを何とかしろ! イグドラシルに登ろうとしたら、いきなり……」


「アハハ……本当にバカじゃない。この村じゃね、イグドラシルは神聖な樹なんだから。もし手を触れたりしたら縛られても当然よ。いつだっけか来た男三人はイグドラシルの枝持って行こうとして、捕まってボコボコに蹴られて丸太に縛られて海に流されたわ。何かハンマーも持ってたけど」


「……だいたい見当がつくぜ」




 リディアが男たちにジェロムの事を説明してくれたおかげで、一応二人とも助かった。一応。


「……しかし、おめーがここの人間だったとはね。でも、よくわからねえ奴らだな……俺からは刀と鎧取っちまうし、なぜかトールさんだけ急に扱いが良くなるし。今だって向こうで祭りなんかやって……」


「ここではヒゲを生やしてる人が偉いわけ。敵じゃないと分かれば歓迎もされるわよ」


「……ったく、せっかくグングニル取りに来たのに……」


「な~んだ、そうだったの。それなら先生が持ってるわ。でも今は薬草とか取りに行って……だから東の島のネルトゥスの山にね」


「そうか。ならば安心……でもねえな。グングニルを持ってりゃ今度はオーディンさんがイミルたちに狙われちまう……」


「イミルの奴……ワルハラの都に行った時に魔物と一緒にやっつけておくんだったわ」


 この日はジェロムはリディアの家に泊まり、トールは祭りで疲れてそのまま外で眠った。

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