第23話 馬鹿野郎(前編)

「……まだ帰ってないみたいです……」


「五人ともですか?」


 朝……まだフェイもトールもトムもディックもハリーも酒場から帰って来ない。


「今日は塔に行くって昨夜言っておいたのに!」


 ジェロムが言ってみれば酒場では床にフェイとトールが寝ており、向こうのテーブルではトムたちがグラントと麻雀で賭けをやっているといった様子。


 あきれて立ちつくしているジェロムにグラントが声をかける。


「よう、勇者ジェロム。その人たち、連れだったね。起こしたかったらこの薬草ハーブはどうかな? ノームのヒューバートからもらった魔法のジャスミンさ。これを嗅がせれば死人でも飛び起きるっていうジャスミンでね、目が覚めても頭がスッキリ。いい品だぜ。150ポードでどうだい?」


「……また商売かよ。まあ、この際だから買っておこう」


「へへ、まいど」


 グラントはその金をまた賭けにつぎ込む。


 ジェロムはジャスミンを、完全に眠っているトールたちに嗅がせる。不思議な事に、今までいびきをかいて寝ていた二人が一瞬で起き上がった。


「……あ、ジェロム君おはよう」


「は……はい。……そうだった、今日塔に行くって言ってたでしょう! トールさん、フェイさん!」


「すまねえ。ドワーフのおやじと飲み比べやっててな……負けちまった」


「酒でドワーフに勝てるわけないでしょう! ホラ、行きますよ!」


 一行はトムたちを置いて塔の下見に向かった。




 塔の中……魔物というのはこの塔に住んでいるスライムやブロッブのことらしい。なるほど、彼らの液体のような身体には剣も斧も通じないはずだ。


 集団で襲って来る敵はジナイダの魔法で倒す。フェイやトールの力まかせの攻撃はもちろん効かないし、ジェロムの刀もやはり効果はない。せっかくの名刀の斬れ味が試せず、ジェロムは少し不機嫌だった。


「ずいぶん上の階まで来たけどこの塔、宝箱の一つも置いてないじゃないか。ねえ、トールよ」


「一応、全部回ってみましょ。もしかすると魔物の頭がいて、何か守ってるかもしれないっスしね」


 その時、トールは魔物の頭がいるなどと冗談半分に言っていたが、これが本当にいたのである。

 しかも六魔導の一人、水のアエギルと名乗る大男だった。


「人間がこんな所に来るなんてな……宝が目的かいな?」


「残念だが違うな。目的は……貴様を倒すことだぁ~!」


 ジェロムは余裕たっぷりだ。一言言葉を交わしただけで、いきなり斬りかかる。


(こんな奴、でけーだけだぜ! 魔法にさえ注意すればフェンリル程強そうじゃないし……)


 刀身に闘気をおびた村正と正宗がジェロムの正面で交差し、敵をX字に斬り裂く……手ごたえなし。残念でした。


「……まさか、水の称号持ってるからって身体まで水じゃねえよな!?」


「身体まで水や。しかもあんたの闘気やぁわいには効かん」


「……フッ……しかし! トールさん、あなたの電撃魔法でこの水野郎に電流を流してやりなさい」


「あ……あれは実をいうと魔法の道具を使ってやったもんでな……悪い。使えないんだ、本当は」


「ばかやろうっ……! しかし……!」


「わかってますよ、ジェロム。私の魔法で……」


 ジナイダのライトニング・ボルトが、ボ~っとしているアエギルに決まった。直撃だ。でも……


「効かん、効かん! 服が焦げただけ~!」


「何で~!?」


 アエギルには全く効果がなかった。馬鹿四人が驚いている中で、フレイアが口を開いた。


「あの……水って何か溶かさないとイオンが電気を持たないから……」


「そうだった!!」


 ジェロムとジナイダはすぐに気がついた。トールとフェイにはむずかしすぎて理解不可……である。


「やっと気づいたようやな。でももう遅いで!」


 アエギルの拳が天井を破った。続いて壁も壊した。次に柱を折って片手に持った。


「このぐらいは軽いで!」


 片手に持った柱を勢いよくぶん回す。トールに当たる。吹っ飛ぶ。壁にぶつかる。気絶。


「だ~っ! 一人やられた~っ!!」


 ジェロムが叫ぶ。フェイが向かって行くが、どうやっても通り抜けてしまう。


「水だったら……これよ!」


 ジナイダのファイアボールがアエギルにぶつかり、爆発を起こす。少し蒸発する。


「熱い……火の魔法なんぞ使いおって……」

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