第8話 仇を討つ剣

「ティルさん!!!」


 フレイアの声にティルは静かに答えた。


「……大丈夫だ……まだしゃべる事ぐらいはできる……今のうちはな……だから言っておこう……フレイア姫よ、よく聞いてくれ……アスガルドの……バルドルの摂政……イミルは貴女あなたをねらっている……それは貴方が『ブリーシンガメン』をつかうことができる唯一の人だからだ……


拙者がいつか言っていた『敵』というのはそのイミルのことなのだ……奴は六魔導と呼ばれる闇の魔導師の一人……凍のイミル……今倒したベルゲルミールは風……ガルムは雷の称号をもつ六魔導だ……」


「もう話すのはやめて下さい……!」


「そうはいかんな……拙者の話を貴女はジェロム殿や……フレイ王子に伝えてもらわねばならない……あやつらはまだ若い……あの傷でも助かろうが拙者は……だから聞いておいてほしいのだ……


四年前アスガルドの王ボルが死んだ後……後継者には拙者が選ばれた……養子ではあったが息子だったのでな……しかしその時大臣であったイミルは拙者のことが気に入らなかったらしい……拙者さえいなければ後継者はイミルになっていた……ボル王には拙者以外の肉親……いや、家族がいなかったのだ……


そしてイミルは国の実権を握るため拙者の妻を殺し、拙者にその罪を着せた……拙者は当然王家追放……しかし、旅に出ていたボル王の実の息子オーディン王子が突然帰って来たことで新しい王はオーディンとなったのだ……


オーディンは妻と子を連れていたが息子……つまりバルドルがまだ10歳であるところに目をつけ……バルドルを人質にとってオーディンに王家を去れとおどしたのだ……そしてオーディンは去りバルドルが王となったがまだ幼く……摂政にはイミルが選ばれ……政権を握っている……」


「ひどい……何て人なの……」


「あやつは……イミルは人などではない……その後イミルは前々から研究していた黒魔術を極めガルムたちと手を結んでモンスターを操り……ワルハラの都やヨトゥンヘイムを襲わせた……


奴らの目的は世界征服……それは貴女……フレイア姫と三人の仲間の手で止めなければならないのだ……まずジェロム殿らを救ってくれ……その『ブリーシンガメン』に向かって呪文を唱え……れば……彼ら……は……助か……る……はず…………」


「その呪文を教えて下さい!!」


「……バール・ウィン・エルクス……だ……頼むぞ……拙者と……妻のカタキをとってくれ…………」


 ティルはった……。その瞬間、ティルの持っていたグレートソードは復讐ふくしゅうの剣アヴェンジャーへと変わった。


 フレイアは泣きたくて仕方なかったが、ジェロムたちの倒れている方へ行き、ティルの言った呪文を唱えた。


「バール・ウィン・エルクス……」


 『ブリーシンガメン』の右から2番目の宝石から緑色の光が発せられ、ジェロムたちは立ち上がった。

 やがて三人とも元気になったところで宝石は崩れ去った。


「なるほど……魔力ちからを使い果たしたわけだな……」


 ヘイムダルが言った。


「みんな無事だったな……あれ? ティルのおっさんはどうしたんだ!?」


「…………」


 フレイアはティルから聞いた事のすべてを話した。


「そんな……あのティルさんが死んじまうなんて……」


「それだけ敵は強いということだ。そのイミルも、残りの三人もな」


「……僕がもう少ししっかりしてればよかったのに……ティルさんが死んだのは僕のせいだ!!」


「そんなことないわ……フレイ!」


「そうだよ。ティルが死んだのは貴様のせいだ!」


「……な……なんてこと言うんだ、ヘイムダル! おめ~……前から……」


「静かにしろ、ガキが! オレはなあ、小僧! そのヘラヘラした性格が気に入らねえんだよ!! 何ださっきのザマは……仲間が戦ってるってのにづいて震えてやがってよ……オレと会った時もどこの馬の骨だかもわからねえオレに大事な剣をかるく渡したなあ……!


オレは人を疑えって言ってんじゃねえんだ……貴様は悪を倒す……貴様は人々を救う正義の剣士なんだよ!!! ……わかったろ……? だからもっと気ィ引きしめろっていうんだよ……」


「ううっ……ごめんなさい……ごめんなさい……」


 沈黙の中、フレイは泣きながらヘイムダルにあやまっている。


「つくづく情けない奴だな……貴様も……。何をやればいいかわかったらさっさと行け!」


 フレイは立ち上がってティルの方に歩み寄り、拝んだ後アヴェンジャーを両手で重そうに拾い上げた。


「そのぐらい片手で持てるようになるんだな」


「はい……。僕、これからティルさんのかたきとって来ます。もちろん、一人で」


「……フレイ……おめ~は……」


「心配いりませんよ……ジェロムさん、フレイア、さよなら。ワルハラの都で会いましょう……」


 フレイは去った。止める者は誰もいなかった。




「さて……俺達はどうするよ。まずはティルさんの供養だけど……」


「ヘル帝国に行ってみましょう。ジークフリートさんも言ってたでしょう?」


「ああ、あの船小屋だか屋敷だかに住んでた奴ね」


「よくわからんが行ってみるか? ヘル帝国に」


「おめ~もついて来るわけ?」


「もともとオレはヘルに行くために港に行ったのだ。帝国で開かれる武闘会に六魔導がまぎれ込んでいるらしいからな。貴様がガルムを倒すというんでつき合っただけだ」


「そうだったのですか。ではまずティルさんの供養をすませて……町で装備を整えましょう」


 三人はエンブラへもどった。




  *  *  *




ヘイムダル・ラスプーチン

Heimdall Rasputin


198歳?/男/吟遊詩人?

189cm/右利き


特技:?

趣味:?

好きな食べ物:お子様ランチ

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る