第2話 混乱する王家

「ノーアトゥーン城へようこそおこし下さいました!」


 腰に差した虎徹を見てジェロムのことを達人の武士と思ったらしく、城の門番のあいさつは妙にていねいで明るかった。中庭を通って王宮に入……


「うわあ~ん! 恐いよおお~っ!!」


「な……何だお前わ~っ!?」


 中庭に入るとハデな格好をした少年が走って来た。向こうから侍女と王様も走って来る。


「待たぬか! こんなことではすまさぬぞ!」


「逃げるのならこのベリンダ・スキールニルもお供いたします!!」


 少年と侍女はジェロムの横を駆け抜けて行った。フェンシングのサーベルを持った王様はあきらめたのか、


「驚かせてすまなかった、旅の者よ。通行証がほしいのだな?」


「は……はい。アスガルドへ参ろうと……」


「うむ。では我が王宮へ来るがよいぞ」




 ジェロムは王様に誘われ、王宮に足を踏み入れた。


「……そなた、名を何と申す」


 ジェロムは緊張していた。ミドガルドの国王ニエルドII世自らが城内を案内してくれているのだ。


「ジェロム・フォン・フィッツジェラルドと申しまして……年は19です」


「ほう……ずいぶん立派な名だな。アスクの町から来たのだな?」


「そうです。……ああ、先程の騒ぎは一体何だったのですか?」


「……あれは息子のフレイがフェンシングの試合中に逃げだしただけだ。あやつは子供のころからひ弱で臆病でな……少し鍛えなくてはと思い私自身からフェンシングの試合を申し込んだのだ。……ここへそなたを誘ったのもそれが理由でな……」


「と、申しますと……?」


「もうおおよそ想像はついておるだろうがフレイ王子を城へ連れもどしてほしいのだ。アスガルド王国へ行くのだったな。あやつの行き先はワルハラの都と決まっておる。


もし都へ行くのであったら連れもどしてほしい……いや、あやつを連れて歩いて鍛え上げてくれ。そして連れて帰って来てくれたのなら礼はいくらでもはずもう。どうだ? ジェロムとやら」


(……う……む……どうしようか……)


「お願いだ、これは前金の2000ポードだ。さらに特典として陣鉢と胴丸をつけよう!」


「わかりました、必ず鍛え上げて連れもどしてみせます! ……でも私に頼むぐらいならば先程兵士達に取り押さえるよう命じればよかったのでは……」


「いいや、一度は逃がす考えでな。都に花嫁修業に行っているフレイの双児の姉のフレイア姫も逃げ出したという情報が入っておって……フレイ王子はそのフレイアの所へ行くであろうからな。姉が逃げ出したと聞けばそれを知らせに結局は、この城へもどって来ることになる……」


「ならば私が行かずとも……」


「それは困る。最近はアスガルドでもモンスターが出没するそうではないか。早く追って守ってやってくれい!」


(……なんて王様なんだ……!!)


 前金も受け取ってしまい、断れないジェロムは西の方向へフレイ王子を追って走って行った。

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