ヤンデレ義妹が配信で養ってくれるそうです

桜井正宗

第1話 実家追放と天使登場

 不登校すぎた俺は、家を追い出された。

 いわゆる『追放』だ。そう思っていいレベルで親父から勘当を言い渡された。


 最低限の生活用品と手切れ金の三万円。

 学校は卒業するまで通って良い事にはなった。だが、それだけだ。後は自分自身でなんとかしろと冷たく言い放たれた。終わった。


 なにもかもが終わりだぁぁあ……。


 俺は実家から徒歩十五分のところにある公園で、頭を抱えて絶望していた。


 こんな荷物でどうしろっていうんだ。しかも三万円とか、ネカフェで泊まれってか? 最安の場所でも一ヶ月は借りれない。


 意味ねえ……。


 当面野宿するとして、三万は食費に当てるしかない。ああ、そうだ。そうしよう。



 クソ、クソ……どうして俺がこんな目に!



 それから、たった三日後。

 俺は三万円を使い果たしてしまった。


 なんとか一発逆転できないかなと宝くじを買ったところ……全て散った。スクラッチなんて買うんじゃなかった。

 あと推しのVTuber『アキナ』にスパチャしてしまった。おかげで俺は一文無しになってしまったのである。


 まずい、まずいぞぉ……。



 再び公園で頭を抱えていると、目の前に誰か現れた。



「あれ、そこにいるの啓之介けいのすけか」

「……お、お前は」

「この俺を忘れたか。もともと俺とお前の立場は逆だった。小学生の頃は、お前が何もかもトップで輝いていた。だが、高校生となった今はどうだ……」


「ま、まさか……お前」


「そうさ、俺はお前のライバルだった男」

「誰だっけ……」


「って、覚えてないのかよ!!」


 ズッコケる男は、そう声を荒げた。いやだって、本当に覚えていないんだもん。う~ん、この明らかに陽の者は誰だっけな。今さっき、小学生の頃と言っていたから、ガキの頃にあっているとは思うのだが。


 う~ん……うん、やっぱり覚えてない。


「知らん」

「この……まあいい。俺は伏見ふせみだ。伏見ふせみ 和也かずやだ。覚えてないか?」


「さあな」

「そうか。それにしても、お前は落ちたものだな。もういい、お前と話す時間なんて無駄だ。ハハハ!」



 男は去って行く。

 くそ、いきなり何なんだ! 家を失って、知らんヤツから馬鹿にされて……俺の人生散々だ! なんでこう嫌なことばかり続くんだよ。



「神でも悪魔でもいい、誰か助けてくれよ……!!」


「――分かった。あなたを助けてあげる」



 突然、俺は手を掴まれた。

 目の前に長い髪を揺らす美少女がいた。なんて可憐で美しいのだろう、俺はそう思った。



「……君はいったい」

「わたしは綾花あやか春日井かすがい 綾花あやか



 少女はそう名乗った――って、オイオイ!


 まてまてまて。


「その春日井って、俺の苗字!」

「その通り。啓之介さん……いえ、お兄ちゃん。わたしは今日から、あなたの妹になります」


「は……?」


「だから、妹になって養ってあげるって」


「はあああああああああああああ!?」



 この綾花って子、今……俺の妹になってくれるって言ったか!? 養ってくれるとも言ったか!? なにかの冗談、ドッキリだよな。



「冗談でも、ドッキリでもないから」

「人の心を勝手に読むんじゃありません。って、本当かよ……」

「うん、本当。だって、わたしお兄ちゃんの苗字知っていたでしょ? それが証拠」

「な、何者なんだ。俺のストーカーさんか!?」

「違うよ~。うーん、そうだなぁ、わたしはVTuberの『アキナ』なんだけどね、収入源はあるからお兄ちゃんを養えると思うんだ」


 …………なぬ? なぬ? なぬなぬ!?


 こ、この子、今とんでもないことを口走った気がする。



「な、なあ……今なんと?」

「わたし、VTuberのアキナ」

「ええええええッ!? マジィ!?」

「うん、マジ。これ、証拠」


 スマホの画面を見せられた。

 そこには正真正銘のアキナのアカウント画面があった。おい、マジじゃねーか。こんな画面を映し出せるのは本人しかいない。


 俺はとんでもない人と出会ってしまったぞ。


 てか、人気VTuberのアキナが妹になってくれる!? なんだこれ、やっぱり夢じゃないか!? 俺は混乱して頬をつねってみたが……痛かった。夢じゃないぞ。



「どうして俺なんかを……」

「理由なんてどうだっていいじゃん。わたしは、お兄ちゃんを養ってあげたいの」

「俺なんて、不登校でどうしようもないダメ人間だぞ」


「わたしは本当のお兄ちゃんを知ってるよ。だから、一緒にがんばろう」



 素敵な笑顔で手を伸ばしてくる綾花。

 俺は……俺は。


 この千載一遇のチャンスを逃したくないと思った。俺に住む場所もなければ、家族もいない。頼れる人もいない。


 なら、なら……!


「ひとつだけ確認させくれ。俺が兄貴でいいのか」

「いいよ。だって、そういう約束だもん」

「え……」

「気にしない気にしない」


 頭を撫でられ、俺は目頭が熱くなった。なんだろう、涙がぶわっと出てきた。……温かい。綾花の手……すごく温かい。


 辛いことばかりと思っていたけど、天使が現れた。

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