第12話 赤と白



 私はカップルになった証としてお揃いの物が欲しいと彼に訴えた。そんなベタな願いを嫌な顔もせず少しハニカミながら、彼は「賛成」と答えてくれた。


 遊園地のお土産ショップでお揃いの物を買う事になったのだが、店内には気に入る物がなく私はふらっと店外に出ている商品を探し始めた。


 少ししてから彼が私の元へ現れた。


 「雨音、また迷子になったのかと」

 

 どうやら私がまた迷子になったのかと少し慌てたらしい。私は店先だからと声を掛けずに出て来てしまった事が原因なので、一言「ごめんね」と謝った。

 

 「ねえねえ、これなんかどお?お互いの今のファッションにも合いそうだし」


 「確かに、似合うと思う」


 商品を二つレジに持って行き、お会計を済ませる際にスタッフさんに彼がある事を告げる。


 「あの、着用して帰りたいのでタグを取ってもらえますか?」


 「かしこまりました。二つ共お取りして大丈夫ですか?」


 「お願いします」



 そして私たちはお揃いの物を着用し店内を後にした。


 「どおかな?似合う?」


 「似合ってるよ雨音、僕の方こそ心配だけど、どお?」


 「。似合ってるカッコいい!バケットハットかぶってるとなんか芸能人みたい」


 私たちはお揃いの黒いバケットハットを購入した。ペアルックという初めての行為に、気分は上々で歩きながらクルクルとバレリーナの様に回った。


 「ははは、どんだけテンション上がってるのさ」


 「。だって嬉しいんだもん♪」


 こんな私に彼氏なんか出来て良いのかな?しかも、かっこよくて優しくてちょっぴりお化けが苦手な彼だけど、本当に素敵な人だから。私には不釣り合いなんじゃないかと普段のポジティブさとは裏腹に、心の奥底で少し思った。


 まだ話せていないことがあるし、けれど話したら嫌われるかもしれない……



 ✳︎ ✳︎ ✳︎




 「……音。あと一駅で着くよ。起きて」


 私は心地よい電車の揺れに、帰宅中の電車内でいつの間にか眠ってしまっていたらしい。彼に起こされ目が覚めた。


 「もう最寄り?!あっという間だね」


 「一日遊び歩いたからね、思ったより疲れていたんだよ」


 優しく微笑む彼を見て胸がドキッと波打った。このまま時間が止まってくれれば良いのに。


 そんな思いとは裏腹にお別れの時間が刻々と近づいていた。

 

 彼と私の家はそこまで距離が離れていない事もあり、彼が度々家の近くまで送ってくれるのが習慣となっていた。


 「次は水族館に行きたい!」


 「良いね、そしたら僕はオワンクラゲが見たいな」


 「。オワン?クラゲ?」


 「そう、オワンクラゲっていうクラゲがいるんだけど、光を放つクラゲでとても綺麗なんだ」


 次のデートで行きたい場所などの話しを楽しんでいた時、歩道を歩いている私たちに強い横風が吹いた。


 「きゃっ」


 その風は勢いよく私のバケットハットを車道へと運んでいった。


 早く取りに行かないと帽子がまた飛ばされる。彼とのお揃いの帽子。彼がお会計の時に「僕からの贈り物」と初めて買ってくれたプレゼント。

 

 手放したくない一心で帽子を追いかけた。


 「雨音!!!」


 彼の大きな声に振り向くとそこには一台の乗用車が私へと向かって来ていた。


 まるで時がゆっくり進んでいるかのように、その光景がスローに映る。


 あれ、もしかしてこれ……


 次の瞬間、横から強い衝撃を受け眼を瞑る。


 キキーッ!!!ドン!!!



 再び眼を開けたその先には、彼。

 

 白いパーカーを着ていた筈なのに。


 赤いパーカーに変わってゆく。


 私は状況が飲み込めずその場で意識を失った。





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