09

ロープを片手に巻き付け、城壁に吊り下がるリンド。大きな風切り音を灼熱の砂漠に響かせ、砂漠の守護者、ラーハの石柱が浅ましき者たちに、裁きの鉄槌を下そうとしている。


巨大な音を立て倒れる石柱が、ドクロと砂毒虫さどくちゅうをへし折ると、上がる悲鳴もろとも押しつぶす。後を付いてきたサンドシップがかわそうと急旋回するが間に合わず、倒れる石柱に激突する。


背後で上がる歓声に、リンドは宙吊りのまま振り返った。小さな少女が、あの男に高々と抱きかかえられる。何故だろうか、その姿にあの方の面影が重なる。そんなはずは。あまりの馬鹿らしさに思わず笑ってしまう。





「やった!やりましたよラグさん」


満面の笑みで抱きつくソフィア。そのあまりの無邪気さに照れ隠しで高々と抱きかかえる。街の人々から上がる歓声に、ラグも思わす笑ってしまう。


「宴だ宴だ」


誰からともなく上がるその声を合図に始まる、真昼の宴。勝利の歓声が砂漠の街を包み込む。




「陽気な連中だな」

「みんなお祭りが好きなんですよ」


城壁に上がってきたリンドが呆れ顔でソフィアに近づく。


「礼を言う」

「いえ。皆さんのお陰です」


謙遜ではなくきっと心から、この少女は言っているのだろう。砂漠の乾いた風がリンドの銀髪をなびかせる。


「おう、なにやってんだ。主役がいないと場が盛り上がらないぞ」


酒瓶片手にソフィアを抱き寄せるラグ、その顔は赤い。


「ちょ、ちょっと。飲みすぎですよ」


迷惑そうに笑うソフィアに釣られてリンドも微笑む。


「なんだ」

「いや、なんでも」


視線を感じ目線を送ると、ニヤケ顔のラグと目が合う。すっと元の涼やかな表情に戻るリンド、その目の前に波なみと注がれたグラスが現れる。


「細かい事は言いっこなしだ」


グラスを半ば強引に渡され乾杯させられる。



城壁の上の大宴会は、日が西の空に沈むまで続いた。





「どうした?」


グラスを両手に抱え、黒い大きな瞳が宙を見つめている。


「いえね。なにか忘れているような」

「気のせいだろ」


肉を頬張り食い千切ると、ラグは酒瓶を煽った。




街の外れでは、止まらないキャムの上で、ローブの男が小さな悲鳴を轟かせていた。






マカサニが屋敷の中でも自慢の大きな窓から、黒塗りのサンドシップが港に停泊するを、冷や汗をかきながら眺めていた。ビナゴアからの連絡が途絶えたのは、もう数時間も前だ。


早く、早くあの方々に伝えねば。


慌てた様子で部屋を出たマサカニは、吹き出る汗を拭いながら、赤塗りの廊下を小走りで急いだ。

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