第31話 監禁

 「残りの2つは、幻影の森の南にある大洞穴と南西にある幻影の泉に浮かぶ怪しい小島になります」


 「大洞穴と怪しい小島ね。リリーちゃんはどちらが怪しいと思っているの?」


 「ズバリ大洞穴だと思います。幻影の湖に浮かぶ怪しい小島には、怪しい建物が存在しています。しかし、幻影の泉から怪しい小島に行くには船が必要になりますが、幻影の湖付近で船の姿を見た者はいないのです。なので、消去法で考えると大洞穴が【蛇龍王】のアジトだと思います」



 リリーちゃんは凛とした佇まいで自信に満ち溢れる表情で述べる。しかし、私はある疑問が思い浮かんだ。


 「リリーちゃん、その情報は誰から仕入れたのかしら?幻影の森には蛇龍王親衛隊が居るはずね。もし、アジトに近づけば生きては帰れないはず。その情報源は【蛇龍王】が流したデマ情報かもしれないわ」


 私は珍しく頭が冴えていた。狡猾な【蛇龍王】は嘘の情報を流して偽のアジトに誘い込み、そこで優位な状況で相手を倒すのであろう。


 「そんなことはありません。私が以前にこっそりと偵察してきたので間違いありません!廃墟にも誰もいませんでした。なので、大洞穴しかありえないのです!」



 「それを先に言ってよぉ~~~~~」と叫びたかった。しかし、私は動揺したそぶりを見せたくなかったので、歯を食いしばってグッと我慢した。そして・・・



 「リリーちゃん、私を試そうとしたのかしら?」


 

 余裕の笑みを強引に浮かべて私はリリーちゃんに問う。



 「そんなことはありません。私の説明が下手だっただけです」



 リリーちゃんから悪意は感じられないので本当なのであろう。



 「そうだったのね。しかし、私は廃墟が怪しいという気持ちは変わっていないわ。でも、先に大洞穴を行ってみるのもいいかもしれないわね?」



 私は大人の余裕を見せつける。



 「マカロンさん。私のわがままを聞いてくださってありがとうございます。必ず良い結果になると約束します」


「期待しているわ」



 私たちは幻影の森の南に向かって馬車を走らせた。幻影の森の中は、色鮮やかな木々が出迎えてくれて心地が良い。森の中心部に廃墟があるためか、森の中には馬車が通れる獣道のような簡素な道がいくつも存在しているので便利であった。



 「リリーちゃん、本当に幻影の森の調査に来たの?」



 私はリリーちゃんが嘘をつくような子ではない事は知っているが、にわかに信じる事も出来ない。



 「正確には私1人で来たわけではありません。二度ばかりダンディライオン家から調査団を派遣した時に私が隊長として来たことがあるのです。運よく蛇龍王親衛隊と遭遇することなく無事に帰還することが出来ました」


 「そうだったのね。でも、無茶をするのね」



 リリーちゃんはまだ13歳である。いくら領主の娘だからといって、盗賊のアジトを捜索するなんて危険過ぎる。



 「お父様からもこっぴどく怒られました。でも、領民を守る為にも【蛇龍王】のアジトを見つける必要があるのです」



 リリーちゃんから揺るぎない強い意思を感じる。



 「大洞穴の場所はわかっているの?」


 「はい。国から幻影の森の地図が配布されています。大洞穴には昔の遺跡が残っている為、立ち入り禁止区域に指定されています。なので、国の許可なく入る事は禁止されています」


 「廃墟と同じなのね。ますますきな臭いわね」


 

 私は【蛇龍王】と国がグルではないかと思った。



 「実はオーブスト王国の第2王子ウェザーコックが幻影の森の管轄権を持っています。ウェザーコック王子は、幻影の森の観光化を進めるために、5年ほど前から調査をしているのですが、【蛇龍王】が暗躍し出したのも丁度その頃だそうです」


 「そうなの!これで点と点が線になったわね」


 「マカロンさん、安易な推測は危険です。あくまで、そのような噂があるということなので、断言してはいけません」


 「わかっているわ。でも、第2王子が関与しているなら、手を出すのは危険じゃない?」


 「私は信じています。偉大なるオーブスト王国の第2王子が、卑劣な手段をとる【蛇龍王】に加担するわけがないと!オーブスト王国に濡れ衣を着せない為にも、私は真相を確かめなければなりません」



 リリーちゃんの真直ぐな性格が視界を曇らせているのでは?と私は思ってしまうが、リリーちゃんが信念を曲げない強い心の持ち主である事は私は知っている。なので、これ以上何も言う必要はないと思った。



 「わかったわ。先に進みましょう」


 「はい!」



 馬車は目的を目指してコトコトと静かに音を立てて進んでいく。私はあんなにたくさん寝たのに、心地よい馬車の奏でるリズムによって眠りに就いた。



 「マカロンさん、マカロンさん!」



 私は激しく揺さぶるリリーちゃんの暖かい手によって目が覚めた。そして、目を覚ました時、目に映る光景を疑ってしまった。



 「私は夢でも見ているの・・・なんで、地下牢に閉じ込められているのよ!」


 

 私はリリーちゃんと一緒に8畳くらいの広さの暗い地下牢に監禁されていたのであった。



 

 


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る