深夜の迷走者 Midnight Wanderer

ひとかいふく

第1話

 目の前にいる男の影に鉄パイプなのかバールなのかわからないが長細い棒のようなもので殴られて


僕の意識は現実に戻った。




「朝か。。。」


目の前には見慣れた目覚まし時計と充電が満杯になったスマートフォンが転がっている。


数日に一度変な夢を見て起きることがある、そう言う日はだいたい体のどこかが痛い。


今日は膝が痛い。


ベッドから体を起こしたタイミングでセットしたアラームがなる。


「ああ、あと1分寝れたのに。。」


そんなことを思いながら自分の部屋のドアを開けリビングに行く。


いつものことだが誰もいない。


僕、山崎孝明やまざきこうめいは両親と三人で暮らしているが


父は医者であまり家にいないことが多い。家にいたとしても呼ばれればすぐに病院に行く。


母は経営者でエステサロンを何個も経営していて出張が多くて家にはいない。


このマンションの3LDKの空間にはいつも僕一人。


いわゆるお金持ちの家で生まれお金には困らないし、特に口うるさい両親でもないから


自由に高校生活を送らせてもらっている。




さて、今日も学校に行くか。


家から学校まではバスに乗って20分ほどのところにある。


毎日学校までのバスは憂鬱だ。いつもスマホでパズルアプリをやって暇と気を紛らわす。


僕は友達が多い方でもないが、少ない方でもない。


いたって普通の学生生活を送っているどこにでもいる高校二年生だと思う。


パズルアプリはもう三年くらいやっていてネットの広告に上がってくるパズルアプリなんかを


ダウンロードしては遊んでアンインストール。そんなこんなでパズルは得意だと思う。


ただ昨日始めたパズルアプリの最後の一問だけがどうしても解けない。


まあこんなこと人生の何も役に立たないけどね。




「こうめーい!おはよー!」


バスを降りて早速賑やかな奴が声をかけてくる。


パズルが一晩かけても解けていないことと、頭の中で誰に言っているのかわからない自分語りで


嫌気がさしていた僕は島津の挨拶を無視して校門へ向かう。


「無視すんなヨォ〜!」


島津健太郎しまづけんたろうこいつは高校一年生の頃同じクラスで仲良くなり


そこからずっと絡んでくる。


悪い気はしないが朝から晩までずっとテンションが高いのでこういう日は無視もしたくなる。


「アレェ〜?昨日解き始めたパズルまだ悩んでんのかぁ〜!?」


島津はスマホを覗き込んできた。


こいつは毎回毎回嫌なところに気付きやがる。


「うるせぇよ。なんかこれ解けないんだよ。」


「どれどれ。。。」


島津は少し考えた様子でそこからたった5秒で


「あぁ!わかった!答えはフクロウだよ!」


絶望した。


自分が一晩考えてわからなかったパズルの答えをたった数秒でわかられたことへの悔しさと


わかったとしても口に出すか、普通。


「これだから島津は嫌いなんだ」


僕も口に出さなくても良い陰口をあえて口に出してやった。


そんなこんなで僕と島津は仲の良い友人だ。




「そう言えば昨日のやつ見たか?」


教室に入る前の廊下で島津は突然口を開いた。


「物騒だよなぁ〜、昨日のでここ一ヶ月で2件目だよ、通り魔事件。


今回は鉄パイプで殴られたって。」


僕らの住んでいるここハザマ市では最近頻繁に通り魔事件が起こっている。


ここ一ヶ月で2件、半年単位で数えると10件ほど起きている。


どれも深夜に一人で歩いている人が狙われている。


そんな時間寝ている時間だがやはり近所で起こっていることが怖いし不安だ。


10件も起こっているのにどれも犯人が見つかっていない。


島津はこんなテンションでおちゃらけた奴だが


ニュースや情報はすごく早く、自分の推理を頼んでもいないのに教えてくれる。


「今回の通り魔事件の犯人はね、、きっと暇な大学生だ!


飲み会で二人になるのを断られた腹いせに殴っちゃったんだ!」


「被害者は女大生なのか?」


「うん。そうって言ってた!」


「誰が?」


「兄貴。」


島津の兄貴は刑事だ。島津も将来は刑事になりたいらしい。


そんな話をしながら教室へ向かっていく。




教室に入るとクラスメートが一斉に僕の顔を見た。


黒板に紙が貼ってあった。




「     至急 


  以下のものは校長室へ来なさい。


    他のものは自習とする




    山崎 孝明       」




ん?呼び出し?


「孝明!なんかしたのかぁ〜!」


島津は笑いながら言ってくるが僕は職員室に呼び出されず


校長室に呼び出されていることに違和感を覚えた。


「とりあえず、言ってくるわ。」




校長室に向かう間ずっと考えている。


自分は何かをしたのか。


きっと褒められることはしていないが、何か怒られるようなこともしていない。


唯一あるとすれば昨日下校寸前に女子バスケ部の更衣室の前を通った時


話し声が聞こえたのでその前を歩くスピードを遅くしたくらいだ。


僕は何も見に覚えがない。


校長室は職員室の奥にある。


「おお!山崎!急いで行ってこい!」


職員室に入るやいなや担任がそう言う。


職員室の空気や担任の顔からしても只事ではないことは明らかだった。




コンコンガチャ


「失礼しま」


言葉が途中で止まった。


校長室の中に待ち構えていたのは校長先生、教頭先生、


そして警察官が2名、おそらく刑事だろう人が2名。


禍々しい空気が漂っていた。


「や、山崎孝明です。。」


僕は自分でもびっくりするくらいか細い声でそう言った。


すると身長は168cmの僕と同じくらいの背だが


明らかに鍛えていて、表情はにこやかだが


怒ったら絶対に怖いタイプの人がこう言う。


「君が山崎孝明くんだね。私たちはハザマ署の刑事です。」


と、警察手帳を見せられた。


「こんな感じでいられたら怖いよね。とりあえず座ろうか。」




校長室なんて入ったのは初めてだし、このソファは一体いつのため誰のためにあるのだろう。とか


普段なら考えるかもしれないが刑事さんたちの圧力で何も考えられなかった。


言われるがままに座り、ペットボトルの水を置かれる。


「えーっとね。山崎くん、君が昨日の学校終わり何をしていたか細かく教えてくれるかな。


どこへ行ったとか、誰と何をしたとか、何時くらいに家に帰ったとか。」


「えっ、、、」


僕は何かを疑われている。ここで確信した。


だけど何も僕は悪いことはしていない。正直に全て話そう。




「学校が終わり、バスまで時間があったので図書室に行き本を少し読んで


バスに乗りました。家の近くのバス停があるんですがそのバス停の二つ前で降りると


コンビニが近いのでそこで降りてコンビニに行きました。


買ったものはグミと炭酸飲料です。


ちゃんとお金は払いました!レシートも残ってます!」


僕は万引きをしていない。そう言い張ったつもりだった。


刑事さんは「ああ、大丈夫大丈夫。そのあとは?続けて。」


あれ?万引きを疑われたのではないのか。


「そのあとは歩いて家に帰って、家に帰ったのは18時半くらいだと思います。


そこから宿題をしてご飯を食べたのが21時くらいで


シャワーを浴びてベッドに寝っ転がりながら携帯をいじってました。


いじっている間に寝てしまって、朝起きたのが7時です。」


僕は正直に言った。




先ほどまで優しい顔をしていた刑事さんが怖い顔になった。


「山崎くんね。昨日の夜1時56分どこに居たか私たちは分かっているんだよ?


正直に言ってくれないかな?」


刑事さんに言われたことが理解できなかった。


僕はそんな時間家で寝ている。


「家で寝てました。」正直にそう言う。


「山崎くん?嘘は通じないよ?」


「本当に家で寝てたんです。」そう言うしかない。


「大人をからかっているのかい?次嘘をついたら怒るからね?昨日深夜1時56分どこに居たのかな?」


僕は必死に考えた。考えて考えて考え抜いた。


でもその結果口から出たのは


「家で寝てました。」


それしか出ないからしょうがない。


「いい加減にシロォ!!こっちも遊びじゃねえんだよな!わかるか!


おい!写真持ってこい!」


怒られた。わからないけど本当のことを言って自分が悪くないのに怒られるのは


なんだかよくわからない感覚になる。


目の前に写真を出される。


家の近くのコンビニとは看板が違う。


このコンビニは休みの日によく行くデパートの近くのコンビニだ。


そこの出入り口の防犯カメラの映像を写真にしたものみたいだが


出口にいるのは、、、「僕?」とっさに声が出た。


顔も背格好も髪型も明らかに僕だ。




「だから正直に言えって言ったんだよ!もう家にいないことはこの写真で証明されてるんだ!


昨日の夜何をしてたのか正直に全部言ってみろ!」


刑事さんはすごく怖い。声も大きいし威圧感の塊だ。


それだけ怖いからここにいましたと言いたくなってしまうが


絶対に自信を持っていることが一つだけある。


僕はこの時間家で寝ている。だから僕は変わらずこう言う。


「僕は家で寝ている時間です。」


もちろん怒られる。




「これは僕にすごく似ていますが僕じゃありません。


だって僕はこの時間家で寝ているので。」


刑事さんは呆れている。


「はぁ。。じゃあこれも見せるね。君の家からこのコンビニまでの間に防犯カメラは12個あった。


それぞれのカメラの写真がこれ。家からこのコンビニまで歩いて行ったんだね。


遠いのに、散歩かな?山崎くん別に君が嘘を言ったからと言って逮捕するわけじゃない。


ただ君がこの時間ここにいた事をまずは認めてくれないと話にならないんだ。」


確かに家からこのコンビニまでの道で全てに僕がいる。


僕が写っている。この服も持っている。これは僕だ。


でもどうして?どうやって?僕はこの時間にここにいれるの?


「あの。なんて言えばいいかわからないんですけど。


きっとこれは僕です。ですが僕は家で寝ていました。それを証明する方法はありません。


昨日は家に誰もいなかったので。この写真は僕だと認めます。でも僕はここにいた記憶はありません。」


思っている事をそのまま言った。怒られてもしょうがない。


そんなことよりもこの写真が怖い。


刑事さんは黙ってしまった。




刑事さんたち四人で何やら話した後また僕の方を向いて、


また何かを話して、またこちらを向いて。


ようやく刑事さんが話してくれた。


ただその話はとんでもない話だった。




「山崎くん。昨日このコンビニの近くで通り魔事件があった。


犯行時間は1時58分だ。その時間にここのコンビニの近くや周りを通ったのは


被害者と山崎くん。君しかいない。防犯カメラがない道があるから


きっとそこから犯人は来て殴って逃げたと思う。


君はこのあたりで何かを見ていないか聴きに来たんだ。


ただ君がそんなにずっと嘘を言っているなら


何かを隠しているとしか思えない。君がやったのか?」




僕は、即座に言葉を返すことができなかった。


今この瞬間僕は容疑者だ。


しっかりと言うしかない。


「僕はーー」


でも待って、何を言う?何を言えばいい?


覚えてません、そんな事を言えば僕が怪しまれてしまう。


僕は家にいました、それはさっきも言った、でも嘘だと言われた。


僕は何も見ていません、それでは僕はここにいたことになる。


いや、ここにいるんだけど、ここにいないんだよ。




「すいません。僕は自分がわかりません。


今僕はこの時間の出来事を覚えていません。


家を出たこと自分の足で歩いて遠くのコンビニに行ったこと


通り魔事件が近くであったこと、そのまま家に帰ったこと。


この間の記憶は何もありません。すいません。」


素直に言うしかなかった。


刑事さんは「親御さん呼んでください。」


そう校長先生に言った。




45分後母親が来た。


「孝明!何があったの!?」


刑事さんが全て説明してくれて母は口を開く。




「刑事さん孝明は小さい頃癖がありまして、睡眠時遊行症と言います。いわゆる夢遊病です。」




僕は何を言っているのかわからなかった。


夢遊病?寝ているときに歩いたりするって言うあれ?




母は続ける


「大きくなるにつれて減っては来たんですが親が家にいないストレスなんでしょうか。


たまに発症するみたいなんです。それでも人様に迷惑をかけるようなことはする子ではないんです。


犯行現場近くにいた孝明は確かに孝明ですが意識はありません。


その間に凶器を持って人を殴るなんてことするはずがないと思います。


現場近くで何も見ていないのは申し訳ないのですが、これ以上うちの息子を疑わないでください。


お願いします。」


母は今にも泣きそうな声で言った後頭を深々と下げた。


僕は全く何も考えられなかった。




刑事さんはとりあえず今日は引き取ります。と言い帰った。


僕は母と久々に一緒に歩いて帰った。




母は「夜ご飯何食べたい?作ってあげようか?」


そう言ってくれた。


僕はモヤモヤしていたが久々に母のご飯が食べれる嬉しさでこう言った。


「オムライス!」


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