道具屋と赤の国②

 次の日。

 ココは宿屋の1階で朝食をとっている。

 本日のおまかせ朝食で、トーストと目玉焼きとサラダとスープのメニューだ。

「セキさん。ここで、朝食取って平気なんですか?」

 ココの目の前にセキの姿がある。

「ん? 平気だよ。なんで?」

 セキも同じ物を食べていた。

「公務は?」

「昨日の夜の内にあらかた終わらせて、朝トシに任せたよ」

「夜? 寝ずにですか?」

「そうだよ。寝なくても平気だからね。食事もいらない。でも、寝るには寝るし、食事はも不要だがやる」

「どうしてですか?」

「人に戻った時にできなくなっていたら困るからな」

「人に? ですか?」

「まあな。出鱈目じゃなくなった時の為に、人として生活しているんだよ」

「そうなんですね」

「それより、今日はどうするの?」

「あ、それなんですけど、セキさん。セキさんにお願いがあります」

「なに? デート?」

「デートではないのですが、私のコレクションの収集を手伝って下さい」

「いいよ。なにを探しているんだい?」

「勇者一行が持っているマジックアイテムです。この、新聞に載っているアイテム。これを探してます」

 ココは新聞をセキに見せる。

「ああ、それね」

 セキは朝食を食べ終え、コーヒーを飲んでいる。

「セキさん。どうやったら、手に入りますか?」

「ご飯食べたら、まずは、近くの道具屋で欲しいアクセサリーを購入して」

「あれは、レプリカですよね?」

「そうだよ。んで、俺のところに持ってきて付与する」

「やってくれるのですか?」

「構わないよ。ってか、今、持っているなら、それでもいいし」

「そんな簡単なこと言ってますけど、完全耐性の付与ですよ。できるんですか?」

「まあ、俺がやる付与は、俺が直接やるから簡単に出来るよ。それより、他の耐性をレプリカで付与している大量生産品の作成の方が大変だからな。俺は職人らには頭上がんないよ。って、どうした? ココちゃん」

 ココは目が点になり、硬直していた。

「なんて言いますか、セキさんに申し訳なくって」

「なにが?」

「私、赤の国がこんないい国になっているなんて、思いませんでした」

「どうも」

「もっと、早く来れば良かったです」

「いや、逆に今で良かったと思うよ。少し前までは、飢餓や病気での死者数が多かったからな。今は持ち直している最中だ。それに、ココちゃんのお陰だったりするんだよ」

「私が?」

「そうだよ。アイテムを換金したお金ね。あれは、ここの復興費に回しているからね」

「そうだったんですね。でも、それって、青の国のお金を回しているってことですよね?」

「まあ、確かに。でも、アオシは知っているよ。なんたって、俺に負けている訳だし、情報隠蔽の見返りだな」

「見返りの方が重いような」

「そうかな? 俺からすれば、いつでも、領土にしてもいいからな。管理面倒だから、トシに丸投げするが」

「トシさんが死んじゃいます!」

「やっぱ、そうなるよな。国を繁栄させるの楽じゃないよな。戦争とかさ。なんで、この仕事引き受けてしまったんだかな」

「嫌いなんですか?」

「いや、別に、そこまでは。でもさ。俺みたいな奴が手出ししていい領域でもないと思うんだよ。まあ、今までも均衡を保つ為に世界に口や手や足を出したけど、今回のは私情もあるからな。これ以上派手なことして、上位の奴等に目を付けられなきゃいいが」

「上位?」

「それこそ、この世界の神様みたいな立ち位置の万物を管理する種族や創造主だな」

「魔王さんですか?」

「アイツは人からしたら、上位だが、俺からしたら、人間と変わらない。もっと上位、精霊や神とかそう言った存在だな。いや、神も神で、この世界の神は操られている可能性もあるか」

「それ言うとセキさんって、どう言う存在なんですか?」

「俺は、化物だな。人間よりも上位かも知れないが、神ではない存在。中途半端な存在だな。だから、こうして朝食もとるし、冒険者も国王もやれてる。世界の均衡の為に介入もする。この介入ってのが、誰かが必要とされるまで出来ないし、世界に行くことも出来ないんだ」

「じゃあ、誰かがセキさんの力を欲したと」

「まあ、一応な」

「一応?」

「この国で王をやっていられる理由だよ。もし、用済みとなったら、俺はここから去る運命なんだよ」

(もしかして、巫女様のこと?)

「そしたら、どこに行くのですか?」

「さあ、少なくとも別の世界だな。別の世界で違うことしているよ」

「別の世界か、寂しくないですか?」

「寂しいよ。寂しいからココちゃんとこうやって、朝食を食べているんだよな」

「それは、朝食を一緒に食べる口実ですよね?」

「バレた? まあ、寂しいのは本当だよ。寂しくて寂しくて、精神が壊れた」

「そう言えば、昨日、魔王さんに壊れたからいるみたいな話しをされてましたね。大丈夫ですか?」

「今はな。まあ、それが私情の部分だな。ルシフは俺を必要としたが、俺もルシフを必要としている。それは、あまりよくないことでもあってね」

「それが、原因で上位の生物に目をつけられると?」

「そう言うこと。まあ、今のところは静観しているみたいだから、なにもないけどな」

「戦争は大丈夫なんですか?」

「まあ、俺がルシフ全部貰うってなれば、黙ってないだろうけど、防衛戦だから、平気だろう。んなもん。気にしてたら、魔王に手を出した段階で激怒げきおこだよ」

「まあ、確かに。って、なんで、魔王は存在するんですか?」

「さあ、俺は神や創造主じゃないから、知らない。だが、仮説くらいはあるかな」

「仮説ですか?」

「そう。実はさ。俺の世界には、そう言った話しが沢山あるんだ」

「沢山ですか?」

「ああ、毎日作られそして、無くなっているな。空想や妄想の世界の話しで無限と作られる。それが、ルシフのような世界だ」

「でも、私は生きています。読み物なら、そうはなりません」

「そうだな。だが、その読み物では魔王と勇者は戦う。隣国との戦争物だってあるさ。それは、この世界と変わらない。俺が思うに、誰かが創造したひとつの世界に俺らがいるのかも知れない。こうやって生きていても、実は俺たちは実在しない架空の人かも知れない。創造主。それこそ、本物の神って奴に該当するだろう。神が救わないのはそんな無数の頼みを聞く力はないし、なによりエンタメとして面白さに関わるからな」

「なんか、残酷」

「そうだな。そして、最初に話したが、魔王は俺からしたら人間と変わらないのはそう言うところ、アイツも創造主の手の上で踊っているに過ぎないんだよ」

「だから、同じ。では、セキさんは?」

「俺はそう言った世界を見てきたからな。管理者に当たるのかもな。初めはただの人間たったが、運悪くそう言った役職になった。だから、不老不死の力と炎を操る力を得たんだ。いや、創造主からしたら、管理者なんて立派な役職もおこがましいのかもな。俺はただの語り部の立ち位置なのかも知れないな。だから、用が済んだら消えるしかないんだろうな」

「そんな。それでは、抗えないじゃないですか」

「ああ、だから、俺はこうして、国王をやっている。やらされている。意思はあるが、意思も創造主の前では想定内なのかも知れないな」

「想定できないことは、できないんですか?」

「出来るだろう。ひとりでに動いて喋り。ってのはよくある。だけど、それでもルシフと言う名の箱庭からは出ていない。やっていることは想定外かも知れないが、檻から脱走してはいない小さな話しさ。そんな創造主が作り出した世界にいるのかも知れない。それが、俺の考える仮説って訳」

「なる程、セキさんって、意外と真面目なんですね」

「意外とは、酷いな。あながち間違ってはいないけどさ。まあ、これも俺を構成している一部なんだろうな」

「そうでしたか」

「さて、朝食のデザートどうする?」

「あのー、ここにいたら、太ってしまうので、辞めておきます」

「そっか? まあ、ココちゃんがよければ、いつでも来ていいし、住むのも歓迎だよ」

「流通手段確保したいからですか?」

「まあね。それより、俺からも質問。ココちゃん。なんで君はそこまで確固とした流通手段を持っている道具屋なんだい?」

「それは……」

「まあ、話したくない気持ちも分からない訳ではないけど、不思議なんだよ。確かにエマちゃんも有能な才能のある子だから、その親友って言うのは分かるけど、エマちゃんはあくまでも個人の力だ。だけど、ココちゃん。君は違う。信用とか安心実績なんて、そんな一朝一夕で手入れられるものじゃない。ココちゃん。君は何者なんだい?」

「何者って言っても、私はただの道具屋ですよ。ただ、周りに恵まれているだけです」

「そっか?」

「はい!」

 ココは笑顔で答えた。

「なる程、ココちゃん。その素敵な笑顔を見ていると、そうなのかもな。疑ってすまなかった」

「いえいえ。よく言われるので。魔王さんとか」

「そう言えば、その魔王は?」

「なんか、朝から返事無いんですよね。忙しいみたいです。セキさんなにもしてませんよね?」

「してないよ。でもまあ、魔王だからな。きっと、勇者に仕掛けているんじゃないかね。大人しくしろとは言ったが、手を出すなとは言ってないからな」

「手を出すなと言えば良かったのに」

「それを言ったら流石に魔王が可哀想だろう。その辺は俺の立場も考えているさ。魔王は勇者に倒されるもの。俺はこれ以上、勇者としてなら、手助けするつもりはないよ。国王として、友人としてなら助けるがな」

「甘やかさないんですね」

「逆にこれ以上やったら、勇者にも怒られるさ。勇者としての立場がなくなるからな」

「勇者にはならないんですか?」

「冗談。言ったように俺はこの世界で役目があるからいる。その役目は王ではあるが勇者ではない。だからやらないよ」

「そっか。勇者になるセキさんもありな気はしますが」

「まあ、少なくとも敵はいないだろうな。それは、勇者新聞とかで見ていて面白いか?」

「あ、それはお話しとしてつまらないですね」

「だろう。この位がちょうどいいさ。勇者を支える国王。いいじゃないか」

「セキさん。面白い人ですね」

「だろう。さて、食事も住んだし観光だな」

「はい! お願いします」

 ココは観光をして夜の祭りを楽しんだ。

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