第18話 王子の助けになりたい

「……んっ…」


 どれくらい眠っていたんだろう。寒さを感じて目を覚ました。


「ここは……私は……」


 どうしたんだっけ……?


「おっ?目が覚めたか?」


 声に目を向けると、そこには魔女さんがいた。


「魔女さん……っ!!」


 そうだ、魔女さんだ!魔女さんがきてドルン様が!

 一気に全てを思い出した。


「魔女さん!ドルン様は!ドルン様はどうしました!」


 周りを見回すけれど、周囲にドルン様の姿が見えない。


「落ち着け。あいつは……行ったよ」


 行った……それは、やはり悪い魔女と戦いに行ったということだろう。


「お前の面倒を見るように私に頼んでな、もう昨日のことになる」


「昨日!」


 私は一日も寝ていたのか!


「そんな!ドルン様は大丈夫なんですか!?」


 一人で戦いに向かっていしまったドルン様は大丈夫なのか、心配しかできない。


「戦いは既に始まっている。今は均衡状態みたいだが……」


 どうやら、魔女さんには戦いの様子がわかっているようだ。流石は魔女さんというべきだろうか。


「ああ、すまない。ちょっと今見せてやる」


 魔女さんは私に向けてそう言うと、手を広げて呪文を唱えた。

 それと同時に、私の目の前に透明な板が映し出された。


「これは!?」


 透明な板の上には、ドルン様が映っている。


「遠隔の様子を映す魔法だ。今現在のあいつの様子になる」


 ドルン様が空中を飛び回り魔法を使う様子が見える。


「あいつは、ドルンはやはり強いな。知っていはいたが、想像以上の強さだ」


 私など優に超えているなと笑う魔女さんだが、次の瞬間固まった。


「姉上……」


 ドルン様が魔法を放つ先に、一人の女性が飛んでいる。

 やけにやせ細った女性、魔女さんの言葉通りだとするとこの人が悪い魔女なんだろう。


「この人が……私に呪いをかけた……」


「ああ、そのとおりだ」


 魔女さんは悲しげに悪い魔女の姿を見ている。

 悪い魔女はドルン様から放たれた魔法を避けようともせずその身で受ける。しかし、傷の一つもついていない。


「相変わらずとんでもない強さだ……、やはり姉上は天才だ……」


 ドルン様からの攻撃はやむことはない、しかし、悪い魔女は時に受け時に躱し何故か楽しそうだ。


 必死な様子のドルン様に対して悪い魔女がかなり余裕な様子だ。


「まるで遊びみたいだ……、あの程度は大したことがないとでも言う感じだな」


「そんなっ!」


 徐々にドルン様が消耗しているのが見てわかった。

 このままではまずい。


「魔女さん!なんとかならないんですか!」


 いてもたってもいられなくなった私は魔女さんに詰め寄る。


「魔女さんが助けるとか!できないんですか!?ドルン様は弟子なんですよね!」


 かなり勝手な事を言っていると思う。でも、魔女さんは首を振った。


「残念ながら、私は手を出せないのさ。魔女同士は争うことができない。そういう決まりなんだ」


「そんなっ!」


 それじゃあ、ドルン様は……


「だが、何もできないわけではないぞ」


 絶望する私に、魔女さんはつぶやくように言った。


「私自身は確かに手を出せない。だけど、お前は違うだろう?」


「……私……ですか?」


 いったい私に何ができると言うのか。結局ドルン様にだって置いていかれた。今の私には見ていることしかできないというのに。


「今のままのお前ならな。だが、お前に覚悟があれば、あいつの力になってやることができるだろう」


「私に覚悟?」


「ああ、あいつのために自分自身と向き合う覚悟だ」


 自分自身と向き合う?どういうことかわからない。

 でも、少しでもなにかできるならば覚悟は決まっている。


「ドルン様を助けられるなら!何でもやります!」


 やってみせる。

 そういった私に、


「本当にいいんだな?辛い過去を思い出すことだってあるかもしれないぞ」


 そうやって再度確認を取りつつ、魔女さんは私の頭に手を乗せた。

 ゴクリと息を飲む。

 私の過去……あえて思い出さないようにしていた記憶……それと向き合う。

 きっと辛いだろう。でも、


「お願いします」


「わかった」


 私の言葉に、魔女さんが呪文を唱える。

 私の視界が真っ白に染まった。



 声が聞こえた。


「ほら……あれ、呪わてるって噂の……」


「やだ、怖い……近寄らないでおこう」


 それは私の過去の記憶。

 幼い頃に周りの人たちからわけもわからず、後ろ指を刺された過去だ。


「お前は明日から王家の人間と名乗ることを禁ずる」


 実の父親から突然王家から放り出された。


「この家から出るんじゃないぞ!出たら承知しないからな!」


 引き取られた公爵家では家から出ることを禁じられて殆どの時間を一人で過ごした。

 誰しもが私のことを嫌っていた。

 誰しもが私のことをいなくなれと思っていた。

 誰も私の事を助けてくれなかった。

 自分を虐げた国の人達。

 こんなやつらの事をわざわざ私が助ける必要あるの?そんな声が聞こえてきた。

 それはまぎれもなく私の声だった。

 それに国から追い出されて暗殺までされかけて。この世界に本当に救う価値があるのかしら?

 いっそのこと全部茨で覆ってしまう方がいいんじゃない?

 私の言葉は続ける。

 きっとそれが私の本性なんだろう。

 私は世界が滅ぶことを望んでいる。それが偽りのない本音だった。

 闇に飲まれていく心、そう思っていた。しかし違った。

 私の心は元々闇だったのだ。

 内から出てくる闇は徐々に大きくなってくる。

 眼の前が真っ暗で何も見えない。

 ……私は完全に闇になった。

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