第15話 告白

 衛兵の詰め所に案内されて事情を聞かれたけど、疲れも溜まっているだろうということで早めに開放された。

 ある程度私が話したところで、


「後は僕が話しておくから」


 とドルン様が引き取ってくれたおかげもあるだろう。

 ……多分だけど、あの茨で男を倒した件とかそういうのを誤魔化すつもりなんだと思う。

 私も説明できないから助かる。

 そういえば、ドルン様が話は後でって言ってたっけ、それにドルン様はなにか知っているような感じがした。

 ドルン様が帰ってきたら聞いてみよう。



 自宅に戻ってきて、テーブルについてため息をついた。


「はぁ……、大変な一日だったなぁ……」


 買い物に出たら誘拐されて、危うく売り物にされるところだった。

 ドルン様が助けてくれなかったらと思うと、本当に帰ってこれて良かったと思う。

 ドルン様には助けられてばかりだ。ちゃんとお礼をしないと……、でも今日は、


「疲れたなぁ……」


 息を吐きながら目を閉じると身体がいつもよりも重く感じた。

 あ、これ駄目だ。

 ドルン様を待っていないといけないのに、もう目が開かない。

 私はそのまま意識を失った。



 なんだか、いい夢を見た気がする。

 あれは子供の頃、まだお母様が生きていた時の頃。

 皆から厄介者のように扱われる私をお母様だけが相手をしてくれた。

 泣いている私をいつも優しく撫でてくれたっけ。

 そう、こんな風に……


 ……あれ?私は今……


 目を開けた。

 目の前にはドルン様がいた。優しく私の頭を撫でている。


「起こしちゃったかい?」


 優しい微笑み、心が暖かくなる。まるで子供の頃に戻ったみたいな気持ちになる。

 ……やっと気がついた。私この人の事好きなんだなぁ。


「ドルン様……」


「なんだい?」


「愛しています」


「……僕もだよ」


 嬉しい。顔が熱くなってしまう。

 熱く……うん?

 あれ?私は今何を言った?

 急激に目が覚めた。

 バッと顔を上げる。


「わ、私!今!?」


 寝ぼけててなんか凄い事言わなかった!?


「おはよう。ローズ」


 パニックになる私とは裏腹にドルン様は落ち着いていた。

 しかし、それがまた私のパニックを加速させる。


「あ、今のはえっと、違くて!いや、違くはないんですけど!そのっ!」


 駄目だ。言葉が出てこない。

 気持ちを自覚した今、どんな顔をしてドルン様と話せばいいかわからない。

 そういえば、助けられたときだってキスしちゃったんだっけ!

 どうしよう!


「ローズ、落ち着いて」


 ドルン王子が私の頭を撫でる。

 それでやっと私は落ち着いた。


「すみません。ドルン様」


「ううん。大丈夫。気持ちは嬉しかったから。でも……」


 でも?


「今はちょっとだけ待っていて欲しい。キミに、話しておかなきゃならないことがあるんだ」


 ドルン様は真剣な表情で話し始めた。



「ローズ。キミはあの茨の事を覚えているかい?」


「は、はい。あの、あれは本当に私が……」


 正直、覚えているけど、あまりにも現実感がなさすぎて夢だと言われたほうが頷ける。

 しかし、ドルン様は私が私の手によるものだと言う。


「あれは、キミの……呪いの力だ」


「呪いの力……」


 呪い。それは自国にいた頃に何度も言われた言葉だった。


「呪いの姫。キミがそう呼ばれていたことには理由があるんだ」


 ああ、やっぱりドルン様は知っていたんだ。

 私が、自国では『呪われた姫』として忌み嫌われていた事を。


「ごめん。でも大事なことなんだ」


 ドルン様は謝りつつも続けた。


「多分、キミは自分がどうしてそう呼ばれていたのか知らないと思う」


 その通りだった。私は自分がどうしてそんな風に呼ばれていたのか知らない。

 流石に表立ってそう呼ぶ人はいなかったけど、裏では『呪われた姫』と呼ばれていた。

 当然私自身も気になりお母様にも聞いてみたけど、教えてくれなかった。

 ただただ、遠ざけられ。父である王からですら憐れみの視線を向けられた。

 挙げ句の果てに、王族からは追い出され、公爵家へと養子に出された。それが私の過去だ。


「周りの人達を恨む気持ちはわかる。でも、実際にキミには呪いがかけられているんだ」


「私に呪いが……」


 ドルン様ははっきりと断言した。信じたくないけど、信じるしかない。


「話はキミが生まれた時まで遡る」


 ずっと気になっていた理由をやっと聞くことができる。


「当時、キミが生まれた時は、それはもう盛大に祝われたんだ。それこそ国中を上げるほどにね」


「……そんなまさか」


「いや、本当のことだよ。そして、その祝い席に12人の魔女が呼ばれたんだ。当然良い魔女だよ」


「魔女……さんが?」


「あ、ああ、師匠も当然その中の一人さ。確認を取ったから間違いない」


 そういえば魔女さんは私のことを知っているような感じだったっけ。

 でも、私が覚えていないのも無理はない。


「良い魔女達はキミに、祝福をかけた。それは、健康に育つことだったり、賢く育つことだったり。人が望むあらゆるものを受けて幸せになるよにと」


「しかし……」


「ああ、それだけで終わればよかったんだ。でも、13人目の魔女が現れたんだ。こいつは悪い魔女だったんだ」


 悪い魔女……


「その魔女は祝の席に自分が呼ばれなかった事を恨み、キミに呪いをかけたんだ。それは……」


 それは、


「茨の呪いだ」


「茨……?」


「ああ、それは、キミが傷ついた時に発動する呪いになる」


「そんな!それじゃあ、あの時の茨は……」


「そう、キミの呪いが発動した結果だ」


 男を縛り上げていた茨、あれが呪いの力だったんなんて。


「あの時は、すぐに正気に戻ってくれたおかげでなんとかなったけど、あの状態が続くと大変なことになっていた」


「大変なこと?」


「そう、キミがあのまま飲まれてしまえば、際限なく茨を生み出し、それは最終的には国をも滅ぼすまで止まらなくなるんだ」


「そんな……!」


 まさか、全然知らなかった。


「この真相を知っているのは、本当に一部の人間だけだ」


 納得がいった。私が『呪われた姫』と呼ばれていたのは本当に呪われていたからだったんだ。

 本当にその事を知っていたのは一部だったのかもしれないけれど、噂は広がってしまったんだろう。

 私が蔑まれたのにはそんな理由があったんだ……


「ごめんね。でも、これが重要な話なんだ」


 ドルン様はすまなさそうな顔をする。


「つまり、ドルン様は私が呪われているから受け入れられないということですか?」


 自分で言って、とても悲しくなってしまった。

 せっかく、心から好きだと言える人に出会うことが出来たのに。


「いやいやいや、それは違うよ!」


 しかし、ドルン様は大声を上げて否定した。


「僕はキミを愛している!それだけは間違いない!」


 それから焦って続ける。


「キミに話しておかなきゃらないことはもう一つのことなんだ!」


 ドルン様はとんでもないことを言い出した。


「僕は異世界から転生して来たんだ!」

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