第13話 豹変

「どうしていったいここが……?」


 詳しい時間はわからないけど、きっと私が攫われてからは一日は流石に経っていないと思う。

 王子がこんなにすぐにここにやってこれた理由がわからない。


「あまりにも帰りが遅いから孤児院に行ったんだよ。そしたら買い物に出かけて帰ってないって言われてね。院長さんかなり心配してたよ」


 そういえば、買い物も途中だったんだった……


「それで八百屋の夫婦からローズが脇道に入っていったと聞いてね。それで調べてみたら魔法の気配を感じたんだよ」


 ドルン様は檻の扉を解錠しながら話してくれた。


「魔法の気配……ですか?」


「うん。どうやら範囲に入った人の意識を奪うような魔法でね。これはきっと何らかの事件に間違われているに違いないと思ってね。子供の誘拐の話もあったしね」


 推測通り私は攫われていたからドルン様は正しかったってことだけど。


「でも、なんでこの場所が?」


 結局それがわからない。攫われたのはわかっても場所まではわからないと思うんだけど。


「それはね。その指輪のおかげだよ」


「指輪?」


 王子が私の指輪を指差す。これは国から出る時に魔女さんから貰ったものだ。

 なるべく付けておくといいと言われたので、普段から身につけるようにしておいたんだけど。


「それ、うちの師匠から貰ったものだろう?それには師匠の魔力が込められているのがわかってたからね。それを探すだけだったよ」


「この指輪にそんな力が……」


 そういえば念を込めたって言ってたっけ。魔力を込めてたんだ……


「あ、でもそういえば、悪い人が……」


 私達の事を売り物と言っていた男がいたはず……


「ああ、あいつらのことね。ここに突入したら抵抗したから反撃したよ。今は上で全員伸びてるはずだよ」


 ドルン様の強さを考えたらそれは当然かも知れない。


「一人でこられたんですか?他の方とか……」


「あー、一応報告をお願いしておいたけどね。急いでたから一人で来ちゃった」


 頬をかくドルン様は目を反らした。どうやら衝動的な行動だったみたいだ。

 つまり、それだけ私の事を心配してということなのはわかった。


「……とっ、外れた」


 ドルン様が無事に鍵を外すことが出来たようで、キィという音と共に檻が開いた。

 わぁ、という子どもたちの歓声が聞こえた。

 ドルン様が開け放ち、そのまま中に入ってきた。

 私の前に立って、そのまま私を上から下まで見る。


「うん。どうやら怪我はないみたいだね」


 怪我の確認をしていたみたいだ。私も自分を見てみるけど、怪我はないはず。


「よし、それじゃあ、帰ろうか」


 何故か私の頭を撫でながらそんな事を言う。

 やっと帰れる。そのことに私も子どもたちも安堵した。

 半日もいなかったと思うんだけど、やっぱり精神的に辛かったようだ。

 ふぅ、とため息をついて再び顔を上げると。


「……あっ!」


 いつの間にかドルン様の後ろに男が一人立っていた。

 ナイフを構えて今にもドルン様を刺そうとしている。

 しかし、ドルン様はそれに気がついていない。


「危ないっ!」


 思わず、私はドルン様を跳ね除けた。

 ドルン様をかばうように手を広げる。


「何っ!?」


 ドルン様の身体が横にずれて、そのまま私は男が持つナイフの前に。


「オラァッ!」


 男が掛け声とともにナイフを突き出す。

 そして、それは見事に私の胸に突き刺さった。


「ローズ!!」


 ドルン様の叫び声、続いて子どもたちの悲鳴が檻の中に響いた。

 痛みは感じない。ただ、刺されたところが熱くなっている気がする。

 私はそのままの勢いで地面に倒れた。倒れる瞬間に見た、ドルン様の悲壮な表情がとても印象的だった。

 そして私は意識を失った。



 感じたのは身体の熱さだった。全身に熱が篭っているかのようだ。

 確か私はナイフで刺されて……それでどうなったんだっけ?

 倒れたはず。でも私の背中に当たる硬さは決して地面のそれではない。

 なにかに浮かされるように身体が勝手に動いている。


「な、何がっ!」


 ナイフを刺した男が驚愕の表情をしている。

 私の身体にいったいなにが起こっているんだろう?

 頭と顔が勝手に動き、私の目がナイフの男を捕らえる。


「~~~~~~~」


 口が勝手に動いた。

 その瞬間、ナイフ男の足元からなにか緑色のモノが伸びてきた。


「なっ!?」


 そのまま、緑のものに縛られるように男が貼り付けになった。

 茨だ。トゲトゲのついた茨が男の全身を縛っている。


「うぐっ!」


 茨は男の全身をきつく締め上げる。男が苦しそうな表情をしていた。

 それを私は他人事のように眺めていた。


「やめろっ!やめてくれ!」


 締める力は徐々に強くなっていく、男が叫びを上げる。

 しかし、締め上げは止まることはない。いや、止めない。

 男が苦しそうな顔をするのに、私は笑みを浮かべている。

 私の指一本で一人の命を左右することに愉悦を感じる。

 ましてやこいつは私の身体を傷つけたやつだ。いなくなったところで誰も困りはしないだろう。

 どす黒い思想に私の心が支配されていく。

 身体が自由に動かない。

 ただただ、笑みを浮かべているだけだった。

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