第7話 王子は戦闘もお強いようです

 薄暗い森の中を馬車が進んでいく。

 私はドキドキしながら、周りをきょろきょろと見回す。

 いつ魔物が現れるかわからないからとても怖い。

 震える私を王子が握りしめてくれた。


「大丈夫だよ」


 暖かい手に少し安心する。ドキドキが少し収まった気がした。

 さらに森の中を進んでいき、辺りも一層暗くなってきた。

 なにかの声も聞こえる気がする。

 聞いたことのない、動物の声に身体がビクッと震える。

 すると、突然王子が馬車を止めた。


「ローズ、馬車の中に隠れていて」


「えっ?」


「いいから、早く」


 王子に押されるようにして、私は馬車の中に押し込まれた。


「いいかい、何があっても大丈夫だから、出てきちゃ駄目だよ」


「……はい」


 馬車のほろを閉じる王子を見送る。

 ちょっとだけ外を覗くことができた。

 王子は森の奥を見つめながら、腰に付けていた剣を抜き放った。

 きっと魔物がきたんだ!王子は一人で本当に大丈夫なんだろうか?

 私の心配とは裏腹に王子は余裕で剣を構えている。

 その様子を見ていると、森の奥の方から、こちらに走ってくる姿が見えた。

 狼の魔物!ウルフだ!しかも一匹じゃない、五匹もいる!


「……王子!」


 思わず叫んでしまったけど、王子は振り返りもせず、左手でこちらに手を振るだけだ。

 戦闘のウルフがそのままの勢いで王子に飛びかかる。


「……っ!」


 思わず目をそらしてしまった。

 王子の悲鳴が聞こえるかもしれない。それがとてつもなく怖かった。


「グギャッ!?」


 しかし、聞こえてきたのは王子の声とは似つかないうめき声だった。

 不思議に思って目を開けると、突撃してきたウルフが転がっていた。その身体には切り傷が。

 そして、王子の剣には血がついていた。

 思わず、ぽかんとしてしまった。

 ウルフの群れは戦闘の一匹がやられたことに警戒を抱いたのか、距離を取っている。

 そこから先は圧倒的だった。

 王子が一気にウルフの群れに突撃する。

 勢いのまま一匹を切り捨てたと思ったら、切り返してもう一匹も切りつけた。

 しかし、ウルフも黙って切られているだけではない。二匹目を切られた瞬間、一匹が王子に向かって飛びついてきた。

 完全に避けられないタイミングだった。しかし、王子は剣を持っていない方の手をそのウルフに向ける。


「『フレア!』」


 王子が叫ぶと王子の手から炎の渦が飛び出した。

 あれはもしかして魔法!?王子が魔法を使った!

 びっくりして言葉も出ない。

 魔法というのは誰にでも使えるわけではない。選ばれたほんの一握りの魔女と呼ばれる者たちだけが使えるものだ。

 それを王子が使った。

 王子が魔法を使えるなんて聞いたことがない!

 私の驚く間に、王子がもう一匹を切り捨てて、残りは一匹になった。

 一際大きなウルフはもしかして、群れのボスだろうか?一匹になったにも関わらず、王子を威嚇して逃げる気配はない。

 そんなウルフに向かってまたも王子は手を突き出す。


「『サンダーボルト!』


 王子の言葉と共に、今度は王子の手から光が飛び出す。

 王子の手から飛び出した光は凄い速さでウルフのボスを襲う。当然避けれなかったボスはその光に当たって、震え始めた。

 いや、光じゃない!あれはもしかして雷!

 雷に当たると、感電という現象が起きると聞いたことがある。あのボスはまさにそれだ。

 ボスはしばらく震えた後、そのまま倒れ込んだ。

 そうして、その場には、王子しか立つものがいなくなった。



「大丈夫だった?」


 王子は少し周りを警戒した後に、私の元に戻ってきた。


「は、はい……」


 王子の表情はいつもどおりだ。

 その様子を見ると、さっきまで戦っていた人とは思えない。


「王子……とても強かったんですね……」


 思わず声に出てしまった。

 私の言葉に、王子は頬をかく。


「うん。まぁ、それなりね」


 謙遜しているけど、それなり、どころの強さではないことは私にだってわかった。


「それに、魔法まで使えるなんて……」


 剣の強さよりもそっちにびっくりした。

 魔法は魔女にしか使えないはず、当然魔女は女だけだ。しかし、王子はどう見ても男である。


「うーん、習得するのは大変だけど、練習すれば誰でも使えるようになるらしいよ?」


「……そうなんですか?」


「うん、僕に魔法を教えてくれた魔女が言ってたから多分間違いないと思う」


 そうは言うけど、自分でそれができるなんて思わない。軽々と操っていた王子はやっぱり凄いと思う。


「魔女に習ったんですか?」


「うん、そう子供の頃にね。大分お世話になったなぁ」


 昔を懐かしむように、遠くを見る王子。


「今、ちょうどその魔女のところに向かっているんだよ」


「えっ!?」


 そういえば、この森に住んでいる人がいるって王子が言っていたっけ。それがまさか魔女だなんて思いもしなかった。


「大丈夫、彼女は『良い魔女』だから」


 魔女には、『良い魔女』と『悪い魔女』の2種類がいる。『良い魔女』は皆を助けているけれど、『悪い魔女』はその名の通り、悪さばかりしている。

 私の国にも魔女はいたけれども、私自身は魔女に会ったことがない。

 王子の言う魔女はどんな人なんだろう?


「それじゃあ、出発しようか。もうすぐ着くからね」


「はい」


 再び王子の隣に戻って馬車を進ませていく。

 それからすぐ、王子がまた馬車を止めた。

 また、魔物だろうか。私は警戒して周りを見る。


「着いたよ」


 しかし、王子は指を指すだけだった。

 着いた?王子の指の先を見るけれども、そこには何もない。ただの森が広がっているだけだ。


「人払いの結界があるんだよ」


 そう言って、王子は左手をかざした。

 すると、目の前の光景が歪んでいく、それが収まった後には、


「ほら、あれが僕の師匠の魔女の家だよ」


 再び王子が指さした先には一軒の家が建っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る