第8話 じわじわと迫る問題

「そうだな……斑鳩さんは、自分を飾らずになんでも話してくれる人、って感じかな?」


 少しぬるめのカップヌードルを食べながら、静波くんが言う。


「飾らない?」


「そう」


「どこか、直した方がいいってこと? もうちょっと可愛く話す、とか?」


「あははっ……。そんな必要ないよ。斑鳩さんは今のままで十分素敵だから」


 さらっと『素敵』だなんて言われちゃった……。


 こんなこと、なかなかスッと言えないよ……。自然体の時だったら静波くんのほうが、あたしなんかよりもずっと大人なのかもしれないな。


「そう? じゃあこのままでいようかなっ!?」


「うん。そのままでお願いします」


 にっこりと微笑みながら、彼はおいしそうにほっぺたを膨らませている。


 何度も言うが、可愛い。よく分からないが、可愛くて……なんだかぎゅっとしたくなる衝動が胸にこみあげてきちゃう。


 小動物系。静波くんに完全に当てはまってるかどうかは分からないけど、あえて分けるならこれかな。


 猫舌なのか、ハフハフとそんなに熱くもない麺をすする姿は……なんというか、ちょっといじめてみたくなる。


「ふーっ」


 顔を近づけてフーフーしてあげる。


「わっ……」


 戸惑う姿も、思った通り。


「だ、大丈夫だよ。一人で食べられるから……」


 さすがに少しムッとしたみたい。


「でも、よかった……」


「へっ!?」


「斑鳩さんが元気になってくれて……。あのまま辛そうだったら、僕……」


 心配しすぎなくらい、あたしのことを心配してくれていたみたい。


 胸がきゅっと締め付けられる。


 男の子と彼氏彼女になって付き合うこと……。今まで考えたことがないわけじゃないけど……、あたしの心には、いつだって修斗のことがあった。


 彼を置き去りにしたくない……。


 置き去りっていうのはおかしいかもしれないけど、一人っ子で、それに鍵っ子だった修斗のことをあたしがいちばん近くで見ていた。だからあたしがいちばん彼のことを知ってて、大好きで……忘れられなくて……。


 気づいたら涙が出ていた。


「な、なんでもない……小学生のころ仲の良かった友達のこと、思い出しちゃって……」


 心配して覗き込んでくれる静波くんから目をそらす。


 罪悪感。


 でも、まっすぐ見つめ返す気分にはなれなかった。


 もしそうしてしまったら、静波くんも、修斗も、二人とも裏切ることになると思ったから。


 あたしは椅子の向きを変え、静波くんと向かい合って座ることをやめた。


 申し訳なさそうな彼の表情がぱっと目に飛び込んでくる。


 と、校庭側の窓枠がカタカタと揺れだした。


 外では天気が悪くなっているのだろうか。


 こうして静波くんと二人だからまだ落ち着いていられるけど、独りぼっちだったら怖くて仕方なかっただろうな。


 それは彼も同じみたいだった。窓が揺れて音を立てるたびに、チラチラとあたしの様子をうかがう。


「はやく……出られるといいね」


 彼があたしと同じように考えているのかは分からない。けれどあたしは、こう言わずにはいられなかった。


 ところで、食事をする少し前からあたしには気がかりなことがあった。


 お手洗いに行きたい……。


 いつかはこうなると思ってはいたけど、問題解決を先延ばしにしてしまっていた。


 静波くんは大丈夫なんだろうか? 涼しそうな顔の裏で、実は苦しんでいたりして……。ああ、でも男の子は我慢するのがラクだって聞いたこともあるし……まだ余裕なのかな。


 ……なんか言い出しにくいな。どうしよう。


 そうだ、なにげなくそれにつながりそうな話題を……。


「今年の花火ってどうするの? 誰かと一緒に行く感じ?」


 毎年七月半ばに近くの堤防で行われる花火大会の話題を振ってみた。


「……父さんが、町内会で運営を手伝うからお前も来いって言われてて、手伝いに行くんだ」


「へー、そうなんだぁ! 偉いじゃん! 大人に混じってお手伝いなんて」


 うう……。ああいうイベントって、トイレ混んで大変だよね、っていう流れに持っていきたかったんだけど……。


 はうう……そろそろ限界かもぉ~














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