イジメの始まり

7月に入り、暑さが増していった。



そして

私はというと

教室に居たくないから

授業開始ギリギリに登校するようになった。


もうほぼ遅刻。

そんな私を見て、

貞子のような女子生は

「東堂さん、ちこく~」っと指を差し叫ぶのであった。



『ったく…

分かってるよ

このクソ貞子』

って心の中で呟いた。



そう。

イジメといえば何?

上履きに画鋲?NO NO

教科書にカミソリ?NO NO

トイレ入ってたら上から水が?NO NO


そんなにね

見た目で分かるようなことをしないんだよ。



見た目でわからないの

だから証拠すらない。



『言葉のイジメ』

心的外傷だから見た目の証拠がないでしょ?



そう!

それをこれから話そうと思って。


なぜイジメをするのか?

それはきっと、自分がイジメる奴に負けてると思っているからだろう。



放っておけばいいのに

他人のことなんかどうでもいいじゃない。




きっと、毎日の日課になっているのだろう。



言っておくが

その子とはいろいろあったから

もしやられたとしても納得いくけど


まったく、関係のない奴が

イジメをするってのは

おかしいんじゃない?


実はというと

入学して、早々

いじめ…のようなものを体験していた。



初めて会うクラスの生徒と少し、私も話に入ったら

『なんで、入ってくるの?』

みたいな感じで、軽く無視をされたことがある。



そして、露骨に嫌な顔をされた。



学校が違うとこうも違うのかと痛感した。



私の中学では、いろんなクラスの子と初めて会ったとしても

話をしたりする間柄だった。

露骨に嫌な顔なんてしなかったし、されたりもしなかった。



ちょっとヤンチャな子とも

一緒につるんだりもしたけど

ちゃんと仲間を大切にする人だった。


前と比べてしまうのはいけないけど、どうしても比べてしまうんだ。


そして、5月の中旬ごろに

私は告白された。


A組のサッカー部の男の子から。


とても爽やかで笑顔がステキな男の子。



私たちは、連絡をするようになった。



彼とは、いろんな話をした。

好きな映画の話や

サッカーの事などたくさん。



そんなある日、

学校が終わって、一緒に外のベンチで座っておしゃべりをしていると、

私のクラスの女子生徒たちが、こちらを見てコソコソと話をしている。



「え~

東堂さん、A組のサッカー部と話してる~」

「ウケる~」

「東堂さんと話する男子って居たんだね~」

「ね~」

「あり得ないんだけど」



私はそんな生徒を横目に

話を続けた。

きっと、彼に映る目には、

私の無理して笑顔を作ろうとしている姿が映ったことだろう。



そして、私と彼は

学校から出た。



家の方向は、ふたりとも違っていたから、駅で別れた。



「じゃあな。」

彼が手を振る。

いつもと変わらない爽やかな笑顔で私を見送った。



『バイバイ。』

私も笑顔で電車の出入り口から

彼に手を振った。


そして、ある日



「そういえば、この間

東堂さん、A組のサッカー部と話してたよ」

「えー

東堂さんが?」

「うん」

「まじ、ありえない。」

「彼女気取りむかつく。」

「あんなの彼女じゃないっしょ。」

「ムリムリ」

「だよね~」

「あんなの彼女だったら

死んだ方がマシだわ」

「あははは」

「それ分かる~」

「あんなの好きな奴なんて

居るの?」

「絶対、居ない!!」

「無理でしょ」



この前の女子生徒たちが私の事を話していた。



『っ……。』

私は、ただ黙って座っているしかなかった。



そして、スポーツ大会があった日に、隣のクラスの女子生徒たちと友達?になった。

連絡先を交換した。




けれども、それは、これから起こることの序章であった。


連絡先を交換した隣のクラスの女子生徒とメールをした。

自己紹介や好きなタレントの話とか

他愛のない話を。



でも、私から連絡をしないと

一切、連絡は来なかった。



そんなこと分かっていたのに

連絡をしてしまう自分がいた。



ようやく違う友達が出来たと思っていたから。




しばらく経ったある日

いつものように連絡をした。

隣のクラスだったため

おはようの挨拶はメールで送った。


そして、メールで話をするのだ。



『あっ…。

今日もメール届いてる。』

ちょっぴり、笑顔になりながら

嬉しさのあまり、

期待をしながらメールを開いた。




そしたら、こんな内容であった…。


「まじ、迷惑だから

もうメールしてくんな。」



『えっ……』

驚いて、目を見開いた。

『どうして…』

『こんなことを…』



私は、ビックリして、

呼吸が荒くなった。


そして、こう返信するのだった。


「えっ…

どうしたの?

私、何かしちゃったかな…」



そしたら、すぐに返信があった。


急いで見る。



「ごめん…!

勝手に友達が送っちゃったみたい!!

本当にごめん!」



『そう……』

私は、ホッとしたような

ザワザワとした胸騒ぎがしていた。



「よかった…。」



そう、返信してしまうのであった。




けれども、その間違って送った友達は

またひどい人だった。



その間違って送った友達とは

何回か話をする程度の仲だった

連絡は交換したときの1回だけ。



隣のクラスの女子生徒とのメールはあれからしていない。




誰が打ったか分からない。

本当は、からかっているだけなのかもしれない。



そう思ったら

急に怖くなったんだ…。

気まずくなって、怖くて

せっかく出来た友達だったはずなのに…。

また……傷つけられてしまった気がした。



やっぱり…

ひとりがいい……。

そう思ってスマホの電源を消した。



7月のあるお昼休みのことだった。

私は、教室の自分の席で

ひとり、お弁当を広げていた。



お箸で、プチトマトを弄る。

『はぁ…

早く学校終わらないかな…』

そう思っていると

制服のポケットの中のスマホから着信があった。


お箸を置く。

スマホを取り出して

メールBOXを見る。



『……。』

私の心臓が早く打つのが分かった。



この間の間違って送った友達からだった。



メールを開いた。


「ねぇ

凛ってさ、A組のサッカー部と付き合ってんの?」



どうして、そんなこと聞くんだろう…。

そう思って返信した。



「久しぶり。

どうして?」

送信した。



そしたら、すぐに返信があった。



「付き合ってるって聞いたから」




『誰からだよ…

もし付き合ってた場合

あなたに関係ないじゃない…』

そう思った。





「だから?」


私は、その間違って送った友達にムカついていた。

この間の間違って送ったメールはこいつが送っていた。

それは薄々気づいていた。

そして、今回!

連絡が来たと思ったら、

A組のサッカー部との付き合っているかを気になってメールしてきた。


それがムカついた。

都合のいいときだけ連絡してきてムカついた。



だからそう入力して送った。



すぐに返信が来た。



「だからって何だよ。

お前の事をA組のサッカー部が好きなわけないじゃん。」



そっちも喧嘩腰か…。

ムカついて返事をした。



「オマエに関係ないだろ」

「大体、なんでオマエがA組のサッカー部の事をわざわざ聞いてくるわけ?」

「もし、私が付き合ってたとしても

おまえに関係ないだろ!!」



送信した。



『あ~。

スカッとした!!』



そう思ってるとすぐに返信が来た。



「はぁ?

テメェ調子こいてんじゃねぇーよ!バカ!ブス!」




『フッ…

言っておくが、私、あんたよりはかわいいと思ってるけど』

『あんたなんて、ゴリラじゃない』

『ゴリラに言われたくないわ』



「はぁ?

おまえに言われたくないんですけど

死ねよ」


送信した。




すると、返信は来なかった。




そして、私はゴリラ女の連絡先を消去した。




『ふぅ…』

『もう、誰も信じられない…』

『もう何も話さない。

何も顔に出さない。

何も欲しがったりなんてしない。』



そう心に思った。


隣のクラスってこともあって

廊下では時々ゴリラ女とすれ違うのだった。



そのときは、毎回お互い剣幕な表情で通りすぎるのを待つのであった。




『また…。仲悪くなった…。

どうして、私は友達付き合い

上手くいかないんだろうな…。』



『よく喧嘩をするほど仲がいいと聞くけど

本当はどうなんだろう?』

『本当の友達ではなく、ただの上辺の友達のふりだったんだよね…』

『それに、いじめられてるんじゃ誰も友達になんかならないよね…

分かってる……。』

そう心の中で納得させようとした。



暑い7月の出来事だった。



そんなある日


A組のサッカー部の彼から

メールが届いた。


言っておくが

彼と言っても彼氏ではない。

私には、彼氏が居るから。



『凛ってさ、付き合ってる人いるの?』



『いるよ』

送った。



『へぇ~』

『いるんだ。』

『どんな人?』




『中学の頃の同級生だよ』




『へぇ~』

『どこまでいったの?』




『えっ?』

どうしてそんなこと聞くの?

そう思いながら送った。



すると、すぐに返ってきた。

『キスとかセックスとか。』




えっ……。

どうして、そんなこと話さなきゃいけないの?

それに恋人なら

キスやセックスなんて当たり前にすることじゃない。

そう思った。



すると、また着信があった。

開くと



『凛って、オナニーするの?』




私は絶句した……。



そんなことどうして聞くの?

気持ち悪い……。

そう思った。



そして、私はこう返した。

『ねぇ

もうやめようよ。

こういう話。』



そう送った。




返事は返ってこなかった。





私は、返信してこない事に安堵した。



どうしてあんなこと…

聞くの…?



私はもっと、学生らしい話がしたかった。

生々しい話ではなく…。


A組のサッカー部とは

学校の廊下ですれ違うことがあったけど、

あの事があってからは

あいさつ位しかしなかった。




私は、いつもひとりだった……。



誰も、話なんてかけてこない。


あいさつすらない…。



そういう人たちの集まりだ…。




見てみぬフリをする人達だ。



そう心の中でつぶやいた。



学校では、朝いつもギリギリに教室に着いて、東堂さん遅刻~って言われいつも無視をして席に座った。



移動教室がなければずっと席に着いていればいい。

小説を読んで自分の世界を作るのもいい。



けれども、違った。

授業でさえ、席の近い生徒から私の嫌みを言うのだ。



「東堂さんってさ、いっつもひとりだよね~」


「東堂さんって、暗いよね~」


「東堂さんってさ、男と話したりするんだぁ」



「そういえば、東堂さん、今朝ぶつかってきたんだけど」



「まじ?ありえない。」


「東堂さんってさ、いつもブスッとしてるよね」


「それに、痩せてるし

食べるお金ないのかな」


「あはは」



そんな、言葉が飛び交う。



『っ……』

『何がそんなに面白い?』

『それ言葉なだけでいじめだよ』

『大体、私よりブスでデブな奴に言われたくないわ。』


そう思った。

今なら言い返せるのに

あの時は言い返せなかった。


移動教室があった日

私は席に着こうとした。

椅子を引く、椅子の上に、お菓子のピンクと茶色の三角の形をしたチョコレートがひとつ置かれていた。



隣の席のデブな女子生徒がふざけて置いたのだろう。



『くそっ

ふさけてやがる』

そう思ってそのチョコレートを手で払った。



その椅子に座ろうとしたのだが

色々な思いが込み上げてきて

悔しくて

私は教室を抜け出した。



私は、廊下を足早に進みながら

もう目からは涙がこぼれ落ちそうだった。



『みんな、幼稚すぎる…』

『クソッ……』

怒りを押し殺しながら、言い返せない自分にも腹が立って

床を蹴った。



『高校生にもなって、いじめなんて馬鹿げてる』

『クソッ…』



『言い返せない自分も最低だ』

『クソッ…』



『どうして誰も止めないの?』

『クソッ…』



『どうして皆見て見ぬふりをするの?』

『クソッ…』



『クソッ……』

握りしめた拳をコンクリートで固められた壁に強くぶつけた。




「皆最低だ………。」

ぽつりとその言葉を発して

私は、教室の机に置いてある鞄を手に取り

学校を抜け出した。



私が学校を抜け出そうとすると

外のグラウンドでは、三年生の体育の授業が行われていた。



そうすると、三年生が

「早退かぁ?」

「サボりかぁ?」

っと遠くから叫んでいた。




そんな声も私には、ひどい言葉と思い込んで

黙って学校を飛び出した。



歩いていると、そこは、通行の多い道であった。



私は、ふと思った。

『誰か、私を拐ってくれないかな…』

『どこか、遠いところに』

『そうすれば楽だから…』



けれども、そんなことあるわけなかった。



私は、もうどうなってもいいって失望していたんだ。


また、学校がやってくる。

私は、いつもと同じように、遅刻ギリギリで教室に着いた。



理由は分かっている。

嫌な人と一緒にいる時間を少しでも減らしたいから。

声も聞きたくない。

顔も見たくない。



だから、そうしている。

いけないことなのはよく分かってる。



だけど、それが唯一の解決法だったから。



相変わらず、

「東堂さん、遅刻~」

貞子が言う。



私は、そんな声を耳、肌で感じないようにした。

『また言ってるわ』

そんな冷たいツッコミを心の中で言いながら

冷めた目で、あるいは、もう希望もない、死んだ目で席に着いた。



こんな事は、これからも続くのだ。



もう希望なんて無い。

希望なんて

どこかに捨ててきたわ。

希望なんてあるから、生きるのが辛くなるんだから。



私には、明日なんて無い。



今日が過ぎるのをひたすら待つのだ。



こんな息苦しいところ

早く抜け出したい気持ちだった。

学校からも、自分からも。

全部……。


ある日、担任に呼び出された。



私は、重い足取りで職員室に向かう。



ドアの前で、ため息をした。

そして、息を名一杯吸って

ドアをノックした。



「失礼します。」

私は、担任がいるところまで歩いた。



「東堂さんさぁ」

担任が口を開いた。

面倒くさそうにに話す。

「遅刻が多いけど」

「今朝だって言われてたのって

それは、東堂さんが遅刻をするからなのよ。」



「はい………」

私は、うつ向きながら返事をした。



『大体、遅刻が悪いのは分かってるけど、

たいして話もしない

友達ですらない奴に言われてるの担任は知ってるんだろうか?』

『私はね、そいつにいじめられてるんだよ!』

『口を開けば、私のことばっかり』

『嫌みばっかりで、こっちだってうんざりしてるんだよ!』

『少しは、担任なら、注意しろよ!!』

『クソ、アホ、教師が!!』

言葉には発する事は出来ないが

心の中で、ボロクソ言った。





『結局……

話をするリーダーのような人を贔屓するんだよ。』

『分かってる。』

『贔屓する先生は、これまで沢山居たから

よく分かる………。』

『最低な奴だ……。』



おとなしくしておけば、いいと思っていたけど、

やはり、どこに行っても

元気で、リーダーのような生徒を教師は好むようだった。



『それでも教師かよ!』

教師は、生徒に

平等に扱うんじゃないの?



教師にも、失望した。



私は、担任を前に

「すみません。」

「次からは、気をつけます。」

早めに切り上げたいために謝った。


全然、そんな事思ってないけれど。



私は、この学校も、教室も、このクラスも、この生徒達も、そしてこの教師も

嫌いなんだよ。




ただ、表向きは、何にも思ってない風を装ってるだけ。



「次からは、気をつけてね。」

教師が言う。



「はい……。」

私は返事をした。



出口に向かうときには、私は苛立ちの目つきをしていた。












  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る