第12話


 翌日。

 一階。旧文化室。


 人の出入りがほとんど無い廊下の隅っこの教室。

 そこによろず部の部室はあった。


「こんな部屋あったんですね・・・・・・」

 入学式の際の校内案内では通らなかった場所である。

「んー、去年作った部だから、余っている部屋がここしかなくてさー」

 てへへへと言いたげな顔で奈央は笑って言った。


 そんなお茶目で可愛い顔を安達先生に見せたら、イチコロなのに。

 呆然とした顔で雅人はそう思っていた。無論、僕もイチコロなのだけど。


「でも、まさか奈央さんが部活の顧問をしていたなんて驚きですよ」

「――うん。私も驚き」

 共感したのか、奈央は真顔で頷いた。

「えっ?」

「そもそも、よろず部は私が作ったわけじゃないんだよ?」

「あ、そうなんですか?」


「うん。よろず部を作るために顧問の教師が必要だったの。そこで選ばれたのが――奈央ちゃんですっ」

 無邪気な笑みを浮かべて奈央は言った。


「つまり――名ばかり顧問・・・・・・?」

「っ! そ、そ、そんなこと無い・・・・・・もんっ」

 目を見開き、信じられない顔で首を小刻みに振るった。

 喜怒哀楽がこうもわかりやすいのは実に愛らしい。


「奈央さんは普段何をするんです?」

「んー・・・・・・。んー?」

 パッと思い浮かばない様な顔で首を傾げた。

「役割無いんです?」

「あー、いや、生徒たちを見てるよ! うん。教師として生徒を監視するの!」

 やっと見つけたらしく奈央は自信満々に言った。

「あ、なるほど・・・・・・」

 何かを察した様に雅人は小さく頷く。


 こうして、雅人と奈央は部室へと入って行った。

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